はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私の今昔物語

2014-12-29 21:55:41 | はがき随筆
 「ダメよ~ダメダメ」という言葉がはやっている。善しあしをはっきりせずに人を笑わせるおもしろさが、世相に受けている。
 しかし、私は最初この言葉を耳にした時、「あれっ」と思った。どこかで聞いた覚えがあるのだ。それもずっと以前。そうだ、あの「嫌嫌嫌よと首をふる」の歌と似ていたのだ。当時、私たちは東京オリンピック景気で歌って踊ったものだった。
 それにしても今度も6年後、東京オリンピックが控えているではないか。五輪にはこんな力もあるのか。私は手放しで笑っていてはおれないと少し心配になった。
  鹿児島市 野幸祐 2014/12/24 特集版-3

南天

2014-12-29 21:36:02 | はがき随筆
 退院の度に優しさが増し、寄り添う心も深く強くなった。庭木の花を愛し、梅、ツバキ、ツツジなど、果ては着生ラン、千両、万両と庭造りに余年がなかった。こつこつと築いた石垣には、夫の姿が彷彿とする。ある時、生け垣にと、南天を植え付けた。それが繁茂し、やぶとなり厄介だという私の意向に、夫は苦笑しながらモダンなフェンスに替えてくれた。
 隅に追いやられた南天が近年、赤い実をたわわに付け、濃緑の葉に映え、美しさが際立つ。正月用にと生けてみる。「きれいねえ」。きっと、照れて笑うあなたに、また会いたくなった。
  出水市 伊尻清子 2014/12/24特集版-2

10年日記

2014-12-29 21:26:20 | はがき随筆
 1年前、本欄で随友のKさんが10年日記のことを書かれたのが心に残っている。先日、リクエストして娘から10年日記を送ってもらった。10年後の2024年暮れには私は84歳7ヶ月。生きているだろうか。幸いに、今はとても元気だが、確実に年々からだが硬くなってきている。今年は膝痛に悩まされたので、特にそう感じるのかもしれない。頭の方も少しずつ衰えてきていると感じる時がある。しかし、案じても仕方がない。生き死にも定命というものがあるだろう。思いがけない喜びや悲しみにも出会うだろう。1日1日を大切に日記に刻もう!
  霧島市 秋峯いくよ 2014/12/24 特集版-1

はがき随筆 11月度

2014-12-29 20:13:35 | 受賞作品
 はがき随筆11月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】16日「釣り銭」門倉キヨ子(78)=鹿屋市串良町下小原
【佳作】2日「心コロコロ」伊地知咲子(78)=鹿屋市打馬
【佳作】21日「覚悟を決めて!」奥村美枝(54)=鹿児島市桜ヶ丘


 釣り銭 キャッシュレスばかりだが、たまたま現金での支払いをしたら、車までの数十秒、ポケットの中の釣り銭のざらつく音が新鮮で、楽しかったという内容です。普通なら気づかない微かな響きに、心地よさを感じたという感受と、それを文章にしたところに感心しました。
 心コロコロ 子どもの頃気台風到来が楽しかったのに、大人になると迷惑する。ところが台風通過の後、隼人瓜を拾えたので、また歓迎するように心変わりしたという、楽しい文章です。九州は特に台風文化だともいわれてきましたが、大災害を引き起こす台風にも、心の持ち様次第という生き方はいいですね。
 覚悟を決めて! 父親の認知症、ご子息の大手術、夫君の大病と悪いこと続きで、自分のことは後回しになってしまった。加えて、お茶の約束をしていた友人2人まで急死した。ここまで続くと「笑ってしまいそうになる」お気持ちよく分かります。それに「やりたいことは即実行」という覚悟も理解できます。時間をうまく使ってください。
 他に3編を紹介します。
 若宮庸成さんの「ぼくの昭和史1」は、戦時中に応召中の父親を盛岡の連隊に面会に行った記憶と、空襲中の灯火管制や防空頭巾を被っての避難が、戦争の記憶として思い出されています。戦争を体験したおそらく最後ぐらいの年齢だと思います。戦争を知らない世代が政治家になるのは仕方がないとしても、戦争に対する想像力の貧弱さには危惧を感じます。
 口町円子さんの「出来事」は、つい化粧を疎かにして買い物に行ったら、店員に病後と間違われた。これからは用心という自戒の文章です。ご自分を客観的に観察し、それをやや戯画化された文章です。
 竹之内美知子さんの「退山式」は、住職の世代交代の儀式に参列したという珍しい内容の文章です。新旧2人の住職の様子が、その人柄まで鮮やかに描かれています。仏教がこのような形で、生活の中に息づいていることに興味を持ちました。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)


齢92歳

2014-12-29 18:11:08 | はがき随筆
 遅めの買い物で店に飛び込み、レジに並んでいると、何げに耳に入ったご高齢の男性と若い店員のやり取り。数分間のことだった。互いに顔なじみのようで「風邪には気をつけて。早く寝るのよ」「寒いから、そうする」と心温まる親子の会話にも似た光景。92歳のお年で買い物、調理をされるお一人様だとか。
「青春真っ盛り!」と明るくジョークを飛ばし、粋な帽子にジャンパーを身にまとい、弱い足元をかばいつつカートを押されるお姿に感動した。元気で長生きは誰しもの願い。果たして自分は、どうなのか自信がない。来年も、お元気でと祈った。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/12/22 毎日新聞鹿児島版掲載

冬のバラの魔法

2014-12-29 18:00:10 | はがき随筆
 寒い朝、ベランダに一輪だけ咲いたピンクのバラ。小さくて、可愛くて、清らかで温かい。思わず「ありがとう、咲いてくれたんだねえ」と声を掛けた。
 こんな冷たい冬の朝なのに、誰よりも早起きして待っていてくれたバラ。2月末に亡くなった夫が生きていたら、このうれしさをすぐに報告できるのにと思う。一緒に喜んでくれたのに。ため息をつく私を、じっと見つめるバラ。見つめ返す私……。ベランダにしゃがみこんだ。
 「母ちゃん、朝ごはん、朝ごはん」。17歳の娘の大きな声で我に返った。冬のバラの魔法は、もったいなくも解けた。
  鹿児島市 萩原裕子 2014/12/21 毎日新聞鹿児島版掲載