はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

垢抜け宣言

2016-02-05 23:02:50 | 岩国エッセイサロンより
2016年2月 2日 (火)

岩国市  会 員   片山 清勝

ちょっとした外出の時に「どれを着ていこうか」、と選ぶほどの数は持ってもいないが妻に聞く。若いころから着るものにセンスが無く、無難な同系色の地味系が並んでいる。
 現役のころはよかった。職場では作業服。出張や外勤では紺やグレー系のスーツだけで迷いはなかった。
 これまでも、色柄の違う物を選んではみるが、落ち着きはなぜか地味系になっている。
 後期高齢者入りした。これを機に恥ずかしさを遠ざけ少し粋に装い、気持ちも若返らせてみよう。実行の初めは冬物バーゲンから、皆さん驚くかな。   

(2016.02.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン より転載

干し大根 往時しのぶ

2016-02-05 23:01:06 | 岩国エッセイサロンより
2016年2月 1日 (月)

   岩国市   会 員   片山清勝

 山間部の盆地で、仲間と共同で野菜を育てている農園。今年初めての作業日の朝は大霜で、車を降りる時は寒さに身構えた。
 畑は凍っており作業は難しいだろうと心配したが、耕運機に助けられて順調に進み、ソラ豆やホウレンソウを植えた。
 この日、収穫したのは大根、白菜、里芋など。大根は大量にあり、夫婦二人では新鮮なうちに食べきれない量だった。妻と相談して、何十年かぶりに干し大根を作ることにした。
 小物の洗濯物を干すハンガーが空いていたので、これに輪切り大根を挟み、軒下に下げた。
 昔、わが家では干し大根は貴重な保存食品だった。母も祖母も、この季節には干し大根を作り、煮しめやまぜご飯、酢の物などにして食卓に載せた。切り干し大根は、「甘味が出る」と言ってもんでいた。
 思いつきで始めた干し大根作りだが、質素でも工夫した昔の生活の一端を思い出し、母や祖母の苦労をしのんだ。  

    (2016.02.01 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

竜宮城

2016-02-05 22:55:38 | はがき随筆
 地元の幹事君の肝入りで、昭和の格調高い緞帳が上がったような感じがした。全国から新幹線や飛行機でクラスメートが集まった。52年ぶりの再開である。みんな満面の笑みだった。まるで昨日、出水市立米ノ津小学校を卒業したかのように、瞬時に中学時代の話題になった。浦島太郎が仲間たちを連れて竜宮城に戻って来たみたいに歌や踊り、談笑で楽しい時間が流れた。「生きててよかったあ」と、集団就職列車に乗った彼がポツリ。その声を聴いた幹事君の目には涙がキラリ。「会えてよかったなあ」とアッチコッチから歓喜の声があがった。
  出水市 塩田幸弘 2016/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

隈之城駅にて

2016-02-05 22:47:57 | はがき随筆
 駅に着くと所帯道具一式はあろうかと思えるほどの荷物、そばに無精ひげの人、一瞬ためらったが「今日はどこまで」と声をかけた。甑島に知り合いがいるからと、徒歩で山越えしてゆうべここに着いた、うれしいことがありましたと。
 目がさめたらリュックの上にドリンクと「頑張ってください」のメモ。「宝物ですね」と言い私もバッグを開けたが「私はあげるもの何もないわ」。彼は黙って手を差し出した。それで十分ですと言いたげに。握手して「元気で」と言い残しホームへ急いだ。
 この冬一番寒い朝のこと。
  薩摩川内市 馬場園征子

雪山登山

2016-02-05 22:40:25 | はがき随筆
 南国には珍しい白銀の世界、間断なく降る雪を見ていると五十数年前の金剛山雪中登山を思い出した。大阪市内に就職をして2年。会社からバスで出発、関西にある金剛山の麓まで行き、雪山へと登ったことがある。足元がツルッツルッと滑って登りづらくアイゼンをつけてどうにかに着いたときの感激、そこには楠木正成ゆかりの神社があった。雪合戦のあとの豚汁、その豚汁の中のサツマイモの味が格別で、さつま汁とも言われていた。半世紀ぶりに青春の一ページを彩った雪中登山を思い出させてくれた、きょうのモノクロの景色だった。
  霧島市 口町円子 2016/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載

生ゴミ狂想曲

2016-02-05 22:25:00 | はがき随筆
 未曾有の雪に見舞われた月曜日の朝、窓をそっと開けてゴミ収集所を見ると、20個ぐらいのゴミ袋が置いてある。こんな大雪では収集車は坂を上がれないだろうと、様子を見ることにした。テレビを見るとゴミ収集車中止のテロップが。生ゴミの日だが自然現象では仕方ない。
 さいわいこの気温では臭うこともないので木曜日までこのままバケツで保管することにした。昼過ぎに太陽が顔を出し、暖かくなったので、収集が再開されるかもと期待したが、テロップは流れなかったので諦めた。しかし、夕方収集所を見るとゴミ袋はなくなっていた?
  鹿児島市 齊藤三千代 2016/2/2

今年も元気に

2016-02-05 22:16:46 | はがき随筆


 15年前にいただいたシンビジウム。鉢物の手入れが加齢と共に困難になってきた。そこで路地植えはできないかと、霜の掛からない庭木のそばに一鉢置いて様子を見た。1年目に枯れなかったので、2年目はそこに移植、葉の色もよく3年目には開花した。次々に移植した株に今、花茎が伸びている。開花すれば辺りは芳香に包まれ庭に出るのが楽しい。鉢のシンビジウムは格調を感じるが、露地植えになると親しみ、優しさを思う。フリージアやバラ、チンチョウゲやキンモクセイなど香りの草木に元気をもらい、穏やかな日々が暮らせるように祈る。
  出水市 年神貞子 2016/1/31 毎日新聞鹿児島版掲載

戦後70年

2016-02-05 22:08:33 | はがき随筆
 戦後70年と聞いて、はじめは何ともかんじなかったのですが、戦争の悲惨さを体験した方々が亡くなるのを聞く度、大変な事だと思うようになりました。中でも水木しげるさん、野坂昭如さんの訃報を知り、まだ生きていてくださればと思いました。
 水木さんは、自分の戦争体験から、漫画で平和の大切さを教えてくれました。野坂さんは、自分のみじめな被災体験、凡人の考えつかない事柄を発表されていました。「おもちゃのチャチャチャ」が野坂さんの作詞とは知らずに、子供たちの小さい頃、楽しく歌いました。
  鹿児島市 津田康子 2016/2/1 毎日新聞鹿児島版掲載

町中の伝承

2016-02-05 22:02:07 | はがき随筆
 遅い昼食を済ませた1月3日、初詣にでかけた中郡小学校裏の一之宮神社。社殿そばに置かれていた、引き車に乗せられた柴犬ほどの黒い牛の像と、奉納と書かれた小さな鋤に半纏姿の人たちが集まってきた。
 「何が始まるのか」と聞くと、お田植え祭りだという。子供ら十数人が牛の像を引きながら社殿を3周。境内の一角を斎田に見立て、牛に鋤をつけて耕し、苗に見立てた松葉で田植え。周りにしめ縄をはり、稲の収穫を現すのか籾米まきで終えた。
 この日この時間にしか奉納されない、町中の小さな神社の伝承行事。来年も見に行こう。
  鹿児島市 高橋誠 2016/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

正月いにしえ

2016-02-05 21:53:35 | はがき随筆
 正月を迎え、門松、松竹梅が飾られた。いにしえの正月はたこあげ、こま回し、羽根つき、まりつきと幼心を揺さぶった。男児は寒空の下でたこ揚げに興じた。女児はみやびな装いで、羽根つきやまりつき。かっぽりは高い音色が響いた。母は七輪や火鉢の炭に火をおこし、網で餅を焼く。餅は丸くふくれあがり餅の匂いが漂う。私は竹馬に挑んだ。難しくてなじめなく、右左と前後に倒れた。膝をすりむいて血がにじんだ。人の生涯も「七転び八起き」と竹馬の習性を感じた。“新年の夢を抱こう”。吾輩は「申」で「言わ申、見申、聞か申」……。
  姶良市 堀美代子 2016/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載

あじの干物

2016-02-05 21:43:12 | はがき随筆
 両面焼きグリルにあじの干物を入れタイムセットする。
 身は弾力があり背は銀ギラの一夜干しだ。今様にグリルなどなかった頃は炭火で焼いていた。油断すると七輪の網の上で真っ黒に焦げたりと、慌てたり笑ったりとぼんやり思いだしていると、グリルの干物は程よく焼き色をつけて出来上がる。匂いと共に角皿に取りだし、その横に菊花かぶの酢漬けの中心にゆで卵の黄身をのせてみた。それだけで立派なごちそうに見えてくるからうれしい。
 日々の食卓に手作りが出来る楽しみと干物の登場に満足。
  鹿児島市 竹之内美知子2016/1/28 毎日新聞鹿児島版掲載