2016年2月22日 (月)
岩国市 会 員 山下 治子
旅支度をしに姑は、たった一夜、長く留守した我が家に帰って来た。仏間に横たわり、あいた薄目で家の中を懐かしく見回している。酸素マスクは外れたが、下顎が出て口がしまらない。このままでは切ない。納棺師の方に話すと、硬直した目元と顎を少しずつ少しずつ揉み続け、何と穏やかな面立ちに整えてくれた。淡い紅をさした時、姑のほほ笑みを感じた気がした。
姑と仲よくなかった嫁は、この時初めて泣いた。
「おばあちゃん、きれいだね」と息子。「そうだね。おばあちゃん、今からもう一度、おじいちゃんにお嫁入りするみたいね」
(2016.02.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載
岩国市 会 員 山下 治子
旅支度をしに姑は、たった一夜、長く留守した我が家に帰って来た。仏間に横たわり、あいた薄目で家の中を懐かしく見回している。酸素マスクは外れたが、下顎が出て口がしまらない。このままでは切ない。納棺師の方に話すと、硬直した目元と顎を少しずつ少しずつ揉み続け、何と穏やかな面立ちに整えてくれた。淡い紅をさした時、姑のほほ笑みを感じた気がした。
姑と仲よくなかった嫁は、この時初めて泣いた。
「おばあちゃん、きれいだね」と息子。「そうだね。おばあちゃん、今からもう一度、おじいちゃんにお嫁入りするみたいね」
(2016.02.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載