はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

白髪、乞うご期待!

2016-02-18 22:02:40 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   安西 詩代     


「あっ!やまんば!」。朝、鏡に映る私はボサボサ頭。髪染めをやめて3ヵ月で生え際の白髪が3㌢ほど伸びていた。「今年こそ、白髪にする」と決めていた。嫁は「お母さん、まだ早すぎますよ」、友人は「すぐに挫折して染めるわよ」と言う。
私も自信はない。今まで1㌢伸びるとすぐに染めていた。だが伸びている白髪を見ると、とてもきれいで輝いている。眺めていると、なんだかいとおしくて染める気が起こらない。
 友人の7割が反対する白髪だが、□紅を少し濃くお化粧して、顔にキリリと力を入れて、姿勢をしゃきっとさせて鏡の前に立ち、「なかなかいいよ!」と、私はつぶやく。見かけは若く見えないけれど、話してみると年相応。これが自然で良い。
 夫は「白髪は似合うと思うよ」と言ってくれる。家庭内の抵抗勢力がないのも私を心強くさせる。高校の同級生も同じことを考えていたが、彼女は母に「私が染めているのにあなたが先に白髪でどうするの」と言われたらしい。
 気分は変わるものだ。数カ月後の私は白髪か? 元通りの染めた髪になっているか?
  (2016.02.10 朝日新聞「ひととき」掲載)岩国エッセイサロンより転載

沈丁花の思い出

2016-02-18 22:00:10 | 岩国エッセイサロンより


2016年2月 6日 (土)
岩国市  会 員   角 智之

小学1年の時、麻疹を患い、治り切らないうちに肺炎を併発し、重篤となった。隣町の医者の往診を受け、やがて回復に向かうと通院が始まった。
 ある日、歩き疲れ背負ってほしいと母を困らせた。その時、道端の薄赤色の花からよい匂いのするのが気にかかり、花の名前を聞くと「ジンチョウゲ」だった。数日後、私が興味を示したこの花を、母は近所で数本もらい、部屋の隅に立てた。これが匂うと遠いあの日と優しかった母を思い出す。 
 田舎の生家跡には梅や柿の木などに交じって沈丁花も残っている。間もなく上品な匂いを放つであろう。
   (2016.02.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

沈丁花の思い出

2016-02-18 21:59:32 | 岩国エッセイサロンより
2016年2月 6日 (土)
岩国市  会 員   角 智之

小学1年の時、麻疹を患い、治り切らないうちに肺炎を併発し、重篤となった。隣町の医者の往診を受け、やがて回復に向かうと通院が始まった。
 ある日、歩き疲れ背負ってほしいと母を困らせた。その時、道端の薄赤色の花からよい匂いのするのが気にかかり、花の名前を聞くと「ジンチョウゲ」だった。数日後、私が興味を示したこの花を、母は近所で数本もらい、部屋の隅に立てた。これが匂うと遠いあの日と優しかった母を思い出す。 
 田舎の生家跡には梅や柿の木などに交じって沈丁花も残っている。間もなく上品な匂いを放つであろう。
   (2016.02.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

ポストポン

2016-02-18 21:42:42 | はがき随筆
 中学生で教わる“先延ばしする”という英単語。「今日できることを明日に延ばすな」という文でおなじみのはず。しかし私の性分は「明日できるなら今日しなくても……」か?
 仕事自体は嫌いじゃないが、マイペースでできることはコツコツ一人でやりたい。昨年3月までいた部署は、ベルトコンベヤーの前に立ち、一寸たりとも気を抜けず、次々と仕事が攻めてくる感じ。異動後、与えられたミッションを抱え「ポストポン」を決め込んでいたが、後押しされてやっと動き始めた。テレビから「明日頑張ろう」という歌が聞こえてくる……。
  鹿児島市 本山るみ子 2016/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

 はがき随筆1月度の月間賞は次の皆さんです。

2016-02-18 21:33:58 | はがき随筆
 
 【優秀作】20日「回想」宮路量温さん=出水市中央
 【佳作】25日「歩く」中島征士さん=出水市武本
 ▽27日「家族」清水昌子さん=出水市明神町


 「回想」
は、父親の四十九日を終え、骨休めの温泉の中で、引揚者だった両親の苦労、それに母の死の悲しみなどを回想する内容です。古諺に「墓に布団は着せられず」ともいいますが、親孝行の記憶は慙愧の念が多いものです。温泉の湯煙の中に、父親の姿を幻視する結びは秀逸です。
 「歩く」は、高校時代から続く山歩きの経験が、印象深く描かれています。ただ山歩きを書き連ねたというだけでなく、人生は新しい道を歩きつづけることだということの暗喩になっているところが、深い味わいを持っています。高村光太郎の詩「道程」を連想させます。
 「家族」は、正月の一族再会はよかったのですが、小学3年のお孫さんが「ばあばは私の家族じゃない」と言いだして、寂しくなったという内容です。大家族を誇っていたはずの日本がいつのまに家族の範囲が狭くなったのかという疑問は、核家族の問題だけではなく、多くの社会問題について考えさせられます。
 この他に3編を紹介します。
 本山るみ子さんの「ひっかかった骨」は、大学の先輩が近くにキャンプに来たので、スイカを届ける約束をしていたのに、父に叱られて果たせなかった。それが長い間気になっていたが、41年ぶりに再会して話してしまうと、うちとけた気分になったという内容です。人間の心理の微妙さがよく描かれています。
 若宮庸成さんの「書を捨てて…」は、昨今の記憶力の衰えが気になって、原因を探ってみると、老化もあるが、人との接点の減少があるようだ。書を捨てて人なかに出ようという決意表明です。聞いた名前などを繰り返すといいそうですよ。
 堀之内泉さんの「慈雨」は、ご子息の空手の稽古にまつわる成長譚です。初めぐずって泣いてばかりいたのが、いつの間にか先輩風を吹かせるようになっている。この成長ぶりは、先生をはじめ周囲の人々の指導のたまものだ。人との出会いをそれぞれの慈雨とみることに、賢さを感じました。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2016/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

麦踏み

2016-02-18 18:44:00 | はがき随筆
 寒風の吹いて冷たい、人の姿もない日に知人宅を訪ねた。庭に隣接する広い麦畑にびっくり! 子供のころ、何かとよく鍛えられた。冬の最も寒い時季の麦踏みもその一つである。母ちゃんと若い青麦の芽を青鼻をススリながら踏みつけていく。「麦はフンタクッほど丈夫に育つが、人間もヒトシコ」と母ちゃんが教えてくれた。人生を振り返ると、長い間踏まれ続けてきたが、図太くあまり丈夫に育ってないことに気づいた。仏壇に語りかけ、鈴をチーンと鳴らし、ふと母ちゃんの遺影を見上げると人生とはソゲナモンジャ~とほほ笑んだ。
  さつま町 小向井一成 2016/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載

知らなかった~

2016-02-18 18:36:17 | はがき随筆
 初詣は、縁もゆかりもない神社にでかけるのが恒例になっている。今年は大隅町の太田神社へ。道路わきで水車が回り、3、4台の駐車スペース。185の石段をあがると神社がある。 
 ひっそりとしていると思いつつ石段をのぼり終えた。すると、境内でたき火を囲んでいた全員が私たちに注目。「石段を上って来たの?」と聞かれた。
 「はい」とけげんな私。車道があり、神社の裏に駐車場があるとのこと。しらなかった~。市外からの参拝がうれしいと、アツアツの焼き芋で歓迎された。このようなふれ合いが好き。ほっこりと申年のスタート。
  垂水市 竹之内政子 2016/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

知らない同級生

2016-02-18 18:29:16 | はがき随筆
 雨が降り続き、外出するのもおっくうで、一人、部屋で寝っ転がっていた。何か気配がしたので眼を開けてみると、そこに同級生が笑って立っていた。
 「おっ! お前どうしてっ、お前、名前なんて言ったっけ?」
 「月野だよ、月野」。彼は満面の笑みをたたえて俺を見ている。「そうだ、月野だ、月野、お前元気だったんか」。外は雨もやんでいるようだ。「おい、雨もやんだ。外へ出よう、外でゆっくり話そう」
 薄暗い廊下を通って外へ出た。彼は? と振り返ると消えていた。同級生の名簿にも彼はいなかった。
  鹿児島市 高野幸祐 2016/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

いつの間にか

2016-02-18 18:22:52 | はがき随筆
 望もうと望むまいと、年は取ってしまう。いつの間にか80歳の声を聞く。けれど物語の中のおじいさんでなくて、若いまま、未熟のままに老けている。
 あの人生は古来稀なり、の言ができて意味したのは、80より10も若い70歳代のことである。
 白髪掻けば更に短し、と嘆いたのは杜甫だったか。でも彼は、当時にしては夭折でなく天寿ではなかっただろうか。低年さに驚く。
 少々生き過ぎたのか、てっぺんがさびしくなった。養毛も殖毛も知らない自然体にする。外見の心配をしているうちに、もの忘れも増えている。
  出水市 松尾繁 2016/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ゴーゴトン

2016-02-18 18:15:10 | はがき随筆
 40年ぶりに肥薩線栗野駅から隼人駅までワンマン列車に乗りました。次は中央駅まで電気列車。思い起こせば教委社会教育担当のとき町内巡回する16㍉映画のフイルム交換に毎月1回、4年間利用していました。
 久しぶりに乗って変わらないのは線路と横川、嘉連川駅舎。変わったのは沿線の車窓から見る田畑や山の荒廃でした。中央駅に着いてビックリ。客も多く、周辺は派手な飾り付けをした商店街が並び、田舎者は出口を迷うほどの変わりよう。過疎の村に住む者にとっては都会の雰囲気に接しなければ時代遅れの人になると痛感しました。
  湧水町 本村守 2016/2/12 毎日新聞鹿児島版掲載

睦月の川べりで

2016-02-18 17:29:17 | はがき随筆
 風花らしきものが舞っていた。歯科を出ると日が差している。カモの群れを探しながら橋を渡る。遊び場所を変えたらしい。左折して目をあげると、高隈連山に大きな虹がかかっている。すてき! ファンタステック! 夢の国への扉はどこ? 
 喜びを分かち合いたくて、ジョギング中の若い女性とゆっくり散歩中の高齢の男性に声をかける。2人とも虹を振り返り、笑顔で応えてくれた。うれしかった。
 虹は神からの贈り物。虹にもらった喜び。喜びが笑顔を連れて来た。笑顔よ、平和をつれて来いと口ずさみながら歩いた。
  鹿屋市 伊地知咲子 2016/2/11 毎日新聞鹿児島版掲載

年賀状

2016-02-18 17:23:10 | はがき随筆
 ありがたいことに、今年も私の心に強く残る年賀状をいただき、励まされた。
 例えば、1通は、すべての文字が手書きの賀状である。決して達筆とはいえないかもしれないが、彼の誠実さがにじんでいた。今でも、高校の同級生だったU君の顔が浮かんでくる。
 2通目は、絵のうまいN氏からの賀状。カラマツの絵が賀状に大きく描かれている。「今年もあちらこちら歩きます」と添えてあった。カラマツの絵は、白秋の詩「落葉松」を感じさせる。私たちの人生を深く示唆しているようだ。私も2通の賀状の方のように真剣に生きたい。
  出水市 小村忍 2016/2/10 毎日新聞鹿児島版掲載

愛しいまりな

2016-02-18 17:16:09 | はがき随筆
 姶良市在住の孫娘まりなは中学1年生である。身長は来る度に伸びて、160㌢の私を間もなく追い越しそうである。彼女は年に数回、連休になるとバスを使って遊びに来る。一人っ子で育ったせいか、来るとジージ、バーバと言って甘え、夜はバーバと一緒でないと寝ない。困るのはテレビの独占と動き回ることである。でも、彼女のお陰で家中がにぎやかになる。傘寿と喜寿を過ぎた2人はうれしくて活気づくが、3日もすれば疲れてしまう。両親が共働きしているので、長期休暇中は3人で旅行を良くする。今度の春休みは台湾に行こうか……。
  志布志市 一木法明 2016/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ネーミング

2016-02-18 17:09:23 | はがき随筆
 双子の片割れ、妻の名は「福代」。2人あわせて「幸福」。あるとき、ある司会者がネーミングの由来を知り「大正時代の親にしゃれた名を付けられましたね」と言われたと話していた。
 小生が思うに今は亡き両親は2人の娘に90歳まで自宅でみとってもらったのが幸福だった。
 縁は異なもの味な物というが、妻の配偶者は幸一。合体して「幸福一代」となる。
 そして今、35歳になる娘のネームは「千代子」である。千代に八千代にしあわせにの思いを込めて小生が付けたけど、あまりにも平凡か?
鹿児島市 下内幸一 2016/2/8 毎日新聞鹿児島版掲載

名の由来

2016-02-18 17:03:05 | はがき随筆
 山口の亡き長姉が40年前、随筆「戌の日」に絡み私たち4人姉妹の名の由来を書いている。
 父は母の安産を願い、5カ月目の戌の日に白地の岩田帯に子犬を描いた。長姉はお釈迦様と同じ日に生まれ「富貴恵」と欲張った名。次姉は「彩子」。夕立の後きれいな虹。三姉はお七夜間際に立ち居振る舞いのきれいな芸者「綾」さんに子を付けて「綾子」そして勤めから帰る父の目に周囲を真っ赤に染めた太陽から、私に「陽子」。夕子も考えられるが夕子に抱くイメージは私にはない。「陽気ぐらし」をせよとの神のおぼしめしだったか。
  鹿児島市 内山陽子 2016/2/7 毎日新聞鹿児島版掲載