はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

仕 事

2016-12-11 01:06:35 | 岩国エッセイサロンより
2016年12月10日 (土)
      岩国市  会 員   吉岡 賢一 

  95歳を過ぎたころから、母の認知症は徐々に色濃くなってきた。週に1日でもいい、介護を忘れるゆとりがほしい同居人は、母をデイサービスに行かせることにした。
 簡単に「うん」とは言わない。手を変え品を変えて勧めるが「わしゃ、ここが一番ええ、留守番もせにゃならんし、どこにも行かん」の一点張り。
 働き者で仕事大好きだった母は、家にじっとしているのも「留守番」という仕事をしているつもりらしい。そんな母を口説くキーワードは「仕事」の二文字だと悟り、「仕事に行くと思って行ってみんさい、面白いところよ」と勧めた。
 案の定その気になってくれた。通所が始まってしばらくしたある日、デイサービスから帰った母が「今日の仕事は楽じゃった、タオルを畳むだけよ」とうれしそうに話した。それから数日後、「給料はいつもらえるの?」と大真面目に尋ねる。これは返事に困った。
 もの忘れは結構激しいのに、「仕事に行くと思って」と勧めたことだけはちゃんと記憶している。その上、仕事をしたのだから給料がもらえるという原則も忘れていない。
 なんだかんだ理屈をこねて、給料はもらえないと説明したが納得した顔ではなかったような。息子夫婦がネコババしたに違いないと思ったのだろう。
 101歳で逝った母の8回目の祥月命日を終えた。8年たった今も仏壇の向こうで「ネコババされた」と思っているのだろうか。同居人は分か悪いね-。
      (2016.12.10 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

高齢者の運転 医師は忠告を

2016-12-11 01:04:49 | 岩国エッセイサロンより
2016年12月 9日 (金)
岩国市  会 員   安西 詩代  

 年が近々70歳に到達する運転者が免許更新する際に義務づけられている高齢者講習会に参加した。歩道に人がいる時に停車しなかったり、ブレーキを踏むのが遅れたり。若い時と達うと自覚した。 
 「運転の危うい高齢者に運転をやめた方が良いと助言しますか」と教官に尋ねた。「それはできない」という。
 来春から、免許更新の際、認知症が疑われた75歳以上の運転者に医師の診断が義務づけられる。だが、運転が危ないのは認知症の人だけではない。
 友人は70代後半のご主人に運転をやめるよう繰り返し頼んだが、拒まれた。やむなく主治医に頼み、「やめたほうがいいですね」と言ってもらった。すると、ご主人はすぐに車を売却されたという。
 そのように言える人は限られる。医師など、忠告できる立場の人は著しい判断力の低下が見られるなど、危険運転しそうな高齢者に運転をやめるよう勧めてほしい。
      (2016.12.06 朝日新聞「声」掲載)