はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

まぐれ猫

2016-12-19 22:42:04 | はがき随筆
 我が家は集落の公民館に近く、農免道路沿いにある。春から夏にかけ、まぐれ猫が舞い込む。今年も数匹来た。そのうち1匹が居座る。妻は情が移ったのか餌をやりだした。雌猫のため獣医さんにお願いして避妊手術をした。
 私は、餌を食べるだけで能はないと言ったが、ある朝、ネズミを捕まえ、庭でそのネズミを右手でけり上げ、左手で押さえる芸をするではないか。ビックリした妻は「ヨカヨカ感心ジャッタガ」と大喜びで背中をなでる。やっはり猫魂があり、それがペットブームの源になっているのかなと思った。
 湧水町 本村守 2016/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載


ありがとう

2016-12-19 22:35:39 | はがき随筆
浜松に住むおいの隼人くんから結婚式の招待状が届いた。今の若者らし当世風のしゃれた式場のようで(出席)ではなく〈attendance〉などとある。妻が○印を付けながらメッセージ欄に何か記した。それは―結婚ていいもんだよ―であった。じんわりと来た。いろいろとあった、いや今でもいろいろとある私たちの40年間の結婚生活に対する彼女の及第点だと思う。実は一人娘も私に似たような性格で、いつも彼女を困らせるのに……。若いときには照れくさくて言えなかったけど、今なら言える。心の底から「ありがとうね!」。
  霧島市 久野茂樹 2016/12/18 毎日新聞鹿児島版掲載


食性

2016-12-19 22:20:42 | はがき随筆
 4日前までは葉が艶やかだったクチナシが、枝だけの哀れな花木になっていた。株元に4㌢ほどのオオスカシバの幼虫がいた。裏の草むらに写したが気になる。にんじん、パセリに緑に黒と橙模様のキアゲハの幼虫、触れるとニッと橙色の角を出す。間もなくサナギになるかもと思ってそのままにした。
 見回すとその植物しか食べない幼虫がいる。ミカンにアゲハ蝶。ホトトギスについた黒くて恐い毛虫はタテハ蝶。蛾の仲間でブドウやサツマイモ、サトイモについた幼虫はびっくりするほど大きかった。成虫になるのを楽しみにそっとしている。
  出水市 年神貞子 2016/12/17 毎日新聞鹿児島版掲載


教え子の招待

2016-12-19 22:13:42 | はがき随筆
 中学3年のときに担任した鳥取県米子市に住むM君から、私が元気なうちにと招待を受けた。教え子といっても来年は古希を迎える。父親を早く亡くし、母親が家政婦をしながら3人の子どもを養育していた。卒業後の進路に悩んだが、少年自衛隊に行くことを選んだ。彼は自衛隊勤務を経て現在は米子市でコンビニ3店を経営している。
 10月末に新幹線などの手配までして招待してくれた。彼の家に着いて驚いた。名古屋や大阪地区の同級生男女9人も呼んでいた。2泊3日を共にし五十数年過ぎた今もなお変わらぬ彼らとの姉弟の絆に感動した。
  志布志市 一木法明 2016/12/16毎日新聞鹿児島版掲載


どうしちゃおう

2016-12-19 21:46:58 | はがき随筆
 絵本の世界でも『死』はタブーから脱却しつつあるらしい。小1の息子が教えてくれたのは『このあと どうしちゃおう』だ。主人公が見つけたのは『じぶんがしんだらどうなりたいか どうしてほしいか』を書いた祖父のノートだった。『死』は圧倒的な受け身と思っていたが、後悔や覚悟と無縁な彼の『死』は能動的ですらある。主人公は自分用に『いきているあいだは どうしちゃおう』ノートもいるな、と思い至る。エンディングを演出する風潮に眉をひそめる向きもあるだろうが『死』を支える『生』を伝えられるなら、アリだなと思った。
  鹿児島市 堀之内泉 2016/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

私でおしまい

2016-12-19 21:38:40 | はがき随筆
 父の祖父つまり私の曾祖父は西南戦争のとき、西郷軍に参加しようとしたが14歳だったので帰らされたという。
 おかげで祖父が生まれ、さらに父が生まれた。父は昭和20年、海軍の特攻隊員として順番が来る前に終戦を迎え命拾いをした。
 おかげで私が生まれた。いろいろな事件や事故、環境問題を見るにつけ、子供を無事に育てられる世の中だろうかと考えあぐねた末、私たち夫婦は子どもをもたなかった。
 これが戦時中なら、次世代を残さなかった私たちは非国民といわれるのかな。
 鹿児島市 種子田真理 2016/12/14 毎日新聞鹿児島版掲載


大根

2016-12-19 21:32:30 | はがき随筆
 大根大根というけれど、やはり旬の大根が一番おいしいのはしかり。夏ものは品も少ないし味もまさに夏様だ。
 しかし、葉ものをはじめ不作で高騰する中で、やっと小さいながら大根さまを1本買った。そしてみそ汁の実にあてる。しっかりしただしの味が大切だから、ダシジャコでダシを濃いめにとり、きのう買った好きなみそを、大根の味をそこななわない程度に入れて出来上がり。
 おお大根の味が程よく、大成功!
 ナーンテコッタ、私にもこんなおいしいみそ汁ができるのだと感謝と自信――。
  鹿児島市 東郷久子 2016/12/13 毎日新聞鹿児島版掲載


サプライズ

2016-12-19 21:25:57 | はがき随筆
 夕暮れが早くなり、外も真っ暗になった閑寂の中、音を立てて宅急便がやってきた。孫娘の名前に「ん?」と思いながら、包みを開けるとびっくり。そして胸がいっぱいになった。
 大学に通いながら、今年の夏に独り暮らしを始めた孫娘。遠くなり一層の寂しさを感じていた。生後すぐに実家にきた初孫で成長を見てきた。明るく活発で夢に向かって奮闘中である。
 中味はふかふかのパジャマ。〝寒い冬を温かくして乗り越えてね〟の言葉を添えて。アルバイトしながら頑張っているらしい。思わぬやさしさに触れ、涙がこみ上げあふれ出た。
  出水市 伊尻清子 2016/12/11 毎日新聞鹿児島版掲載

雨天の花火

2016-12-19 21:19:34 | はがき随筆
 肝付町の花火大会は、10月15日(土)と決まった。広告や宣伝が配布され、その日を待ち望んだ人も多かったと思う。当日になり、折悪しく朝から一日中の雨。でも午後7時半、主催者の方たちが元気いっぱいの声で、打ち上げを開始。闇空に火薬の爆発する音が大きく響く。
 七色の光は美しい花模様となり、人々の心を活気づける。
 我が家は、状況が一目瞭然の特等席。今年は観客の声や車の移動が少なく、豪華絢爛の花火に申し訳ないような気がした。行事が無事終了し、辺り一面静寂になった。活躍された花火師や関係者の方に感謝します。
  肝付町 鳥取部京子 2016/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載


努力にメダルを

2016-12-19 21:12:01 | はがき随筆
 リオ五輪、柔道の大野将平は優勝の瞬間ガッツポーズをとらなかった。また陸上四百㍍リレーで世界最速のボルトは2位の日本チームに近寄り握手し、笑顔で写真に収まった。この見事な情景に拍手を送った。
 どの分野であれ一流の人たちの成果は一流の努力の結晶であろう。運が左右することもあるのだろうが、努力の積み重ねは不動のものであり、皆同等である。選手たちはそのことを承知していることと思う。小生、教職にあったころ生徒たちに「人の値打ちはその努力によって決まる」と説いたことを思い出す。
  鹿児島市 野崎正昭 2016/12/9 毎日新聞鹿児島版掲載

女優魂

2016-12-19 21:04:45 | はがき随筆
 市民劇場の10月例会は劇団民芸の公演。九州各地をひと月半くらいかけて巡演する。会員は3ヶ月前から準備を始めた。
 まもなく九州に移動するという時期に劇団から衝撃のニュースが飛び込んだ。主役の奈良岡朋子さんが肋骨を折ったという。「すわ、公演中止か」と青ざめた。しかし、である。10日程度の入院のあと、コルセット着用で稽古に復帰したという続報に安堵する。だが87歳という年齢を考えると不安は残った。
 公演当日、舞台に凛と立つ姿に胸が熱くなり、会員を増やして迎えられた喜びもあり、惜しみない拍手を送った。
  鹿児島市 本山るみ子 2016/12/8 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆11月度

2016-12-19 20:56:50 | 受賞作品
 はがき随筆11月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀作】30日「変わりました」口町円子=霧島市国分中央
 【佳作】4日「今言える」中島征士=出水市武本
 ▽「吹奏楽部」塩田幸弘=出水市下知識


 「変わりました」は、料理に鋏を使う話です。若い人が使うのに、初めは抵抗があったが、使ってみると便利で、最近では当たり前のように使っている。世の中の変化になじむのに違和感を持ちながらも、次第に変わっていく自分の生活を、客観的に観察されているところが、落ち着いたよい文章になっています。
 「今言える」は、若いときにはいろいろの希望があったが、なかなかかなえられず、結局はへき地の中学教師に落ち着いた。ところが、恵まれた自然環境のなかで、伸びやかに生きる学生たちに、素直に生きることを教えてもらったという内容です。教えてやっているという段階は半人前で、教えてもらっていると気づきだすと教師も一人前のようです。
 「吹奏楽部」は、集団就職を吹奏楽で見送った悲しい思い出です。半世紀ほど前には中学卒が特別列車で都市部へ送りだされていった。それを、5㌔も離れた駅に楽器をもって見送りに行き、涙ながらに「蛍の光」を演奏した。現在の吹奏楽部員にあのときのような涙の演奏はさせたくない。実感です。
 この他に3編を紹介します。
 堀之内泉さんの「川幸彦」は、6歳の男の子は釣りがうまく、いろいろ教えてくれる。釣り上げた4匹のニジマスを4種類の料理にしてあげていると、「古事記」の世界に入り込んだ気分になり、我が家の海幸彦ならぬ川幸彦が喜んでくれたという内容です。
 宮路量温さんの「道」は、終戦後の困難な時代を、両親は自分を大事に育ててくれた。弟や親との死別もあったがなんとか自分の家庭を築いた。何の変哲もない道ではあるが、平凡なりに確実な足跡は残っている。このような穏やかな心境にはなかなか達せません。
 萩原裕子さんの「母と子のリレー」は、母の死後2週間目に子供が生まれた。亡母に孫の顔を見せられなかったと悲しんでいると、お腹の子が蹴って応えた。これはお葬式のときも同じだった。母と子に励まされながら、私も亡母の年齢に近づいてしまった。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦