はがき随筆11月度月間賞は次の皆さんでした。
【優秀作】30日「変わりました」口町円子=霧島市国分中央
【佳作】4日「今言える」中島征士=出水市武本
▽「吹奏楽部」塩田幸弘=出水市下知識
「変わりました」は、料理に鋏を使う話です。若い人が使うのに、初めは抵抗があったが、使ってみると便利で、最近では当たり前のように使っている。世の中の変化になじむのに違和感を持ちながらも、次第に変わっていく自分の生活を、客観的に観察されているところが、落ち着いたよい文章になっています。
「今言える」は、若いときにはいろいろの希望があったが、なかなかかなえられず、結局はへき地の中学教師に落ち着いた。ところが、恵まれた自然環境のなかで、伸びやかに生きる学生たちに、素直に生きることを教えてもらったという内容です。教えてやっているという段階は半人前で、教えてもらっていると気づきだすと教師も一人前のようです。
「吹奏楽部」は、集団就職を吹奏楽で見送った悲しい思い出です。半世紀ほど前には中学卒が特別列車で都市部へ送りだされていった。それを、5㌔も離れた駅に楽器をもって見送りに行き、涙ながらに「蛍の光」を演奏した。現在の吹奏楽部員にあのときのような涙の演奏はさせたくない。実感です。
この他に3編を紹介します。
堀之内泉さんの「川幸彦」は、6歳の男の子は釣りがうまく、いろいろ教えてくれる。釣り上げた4匹のニジマスを4種類の料理にしてあげていると、「古事記」の世界に入り込んだ気分になり、我が家の海幸彦ならぬ川幸彦が喜んでくれたという内容です。
宮路量温さんの「道」は、終戦後の困難な時代を、両親は自分を大事に育ててくれた。弟や親との死別もあったがなんとか自分の家庭を築いた。何の変哲もない道ではあるが、平凡なりに確実な足跡は残っている。このような穏やかな心境にはなかなか達せません。
萩原裕子さんの「母と子のリレー」は、母の死後2週間目に子供が生まれた。亡母に孫の顔を見せられなかったと悲しんでいると、お腹の子が蹴って応えた。これはお葬式のときも同じだった。母と子に励まされながら、私も亡母の年齢に近づいてしまった。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦