はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

人生の旅立ち

2017-02-16 21:46:00 | はがき随筆
 就職を考える頃「福岡の八幡製鉄所に行かんか」と父が言った。まめにいろいろと父なりに調べた末のことだったと思う。高校は畜産課で、商売がしたいとスーパー西友(肉関係)と決めて東京へ。父は「好きなことが一番」と送り出してくれた。
 駅で見送りの時「3年はきばれよ」と。母は泣いたが、父は笑って手を振った。初めての帰郷は3年後だった。今なら飛行機で1.2時間、昔は「つばめ」で23時間、東京は遠かった。
 石の上にも三年。大変な時、一度も逃げず苦境を楽しむ自分がいた。26年前だが、前だけを向いていた。父に感謝。
  伊佐市 坂元佐津夫 2017/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

霊は感じる

2017-02-16 21:34:07 | はがき随筆
 病院から帰る途中、実家に立ち寄った。台風一過で門扉は半分壊れ、木の葉や枝が庭一面に散っていた。野菜畑の雑草は、所を得たりと茂っている。
 誰も住まない空き家は静寂な雰囲気が漂っている。部屋は整理され、欄間に両親の遺影が飾ってある。仏壇に一礼して、産み育てられた感謝と孝行の足りなさをわびた。庭に出て、気疲れした体で竹箒に力を入れて作業を開始。集めたごみを特大の袋に収納して車に積み、帰宅した。その夜、夢の中に背広姿の父が出現。つい「お父さん」と呼ぶ。今日の出来事を、霊的に眺めて喜ばれたと実感した。
  肝付町 鳥取部京子 2017/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載

雨の駅伝の日に

2017-02-16 21:26:58 | はがき随筆
 もう20年くらい前のこと。前途ある若者が亡くなった。同じ事務所ではないが、来訪の度に外郭団体の私にも名前を呼んであいさつしてくれた。
 葬儀の日は冷たい雨が降っていて、県下一周駅伝の2日目。加世田から伊集院に向かう私たちは交通規制に巻き込まれながらぎりぎりに駆けつけた。
 告別式が終わり、出棺を待つ間も雨は降り続いていた。そんな中、心無い発言をした人がいて参列者は凍りついた。さほど大きな声ではなかったが、静まりかえった場所で皆の耳に届いたのである。毎年必ず蘇るつらくて悲しい出来事である。
  鹿児島市 本山るみ子 2017/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

クロスワード始め

2017-02-16 21:20:30 | はがき随筆
 私たち夫婦は最近、毎日新聞のクロスワードにはまっている。昨年は大みそかの掲載が最後だった。勝負は持ち越しとなり、元旦、初詣を終え新年初のクロスワードに挑戦した。今回は酉年にちなんで1マスに「トリ」と入る珍しいパターン。見事解けたら飛躍の年になること間違いなしとのお墨付き。数ある同義語の中から選択し、なんだか今日はいけそうな気がしてきた。さあ答え合わせだ。主人がいつものように解答していく。最後に難問。正解したのは私。満点獲得。ついに主人に勝った。年明けの勝負は私の勝利。今年はいいことありそうだ。
  鹿児島市 天野芳子 2017/2/12 毎日新聞鹿児島版掲載