はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

鉄橋

2017-11-02 21:39:43 | はがき随筆
 「この所でな……」とよくしみじみ言われていた。煙吐く汽車の頃。故郷の街並みが見えなくなるのが、鉄橋の先の緩やかなカーブ。社長20歳。新婚1週間後の出征時、「もう二度と見られぬか」と涙でかすんだという。戦後、運良くシベリアから生還。一念発起し一代で1000人を超える企業を築き上げた。その晩年に私は秘書としてよく出張にお供した。特急つばめの車内で「戦争ってのはな……」と繰り返し教えられた。九州新幹線の今、もう通らぬ鉄橋。「社長これからどのように語り継げばよいのでしょうか」。見下ろす川のせせらぎは速い。
  出水市 山下秀雄 2017/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載

秋のけはい

2017-11-02 21:29:06 | はがき随筆


 セミの声が聞こえなくなったなと思っていると、どこからかコオロギの鳴き声。
 ヒガンバナが枯れ始めたなと思っていると、どこからかキンモクセイの香り。
 稲穂がきれいだなと思っていると、もう稲刈りの終わっている田んぼもあった。
 今日はなんだか肌寒いなと思って温度計を見てみると、20度。風も涼しい。
 柿の木も栗の木も、わんさかわんさか実をつけている。コスモスの花も咲き始めた。ソバの花も咲き始めた。ソバの花も白く咲き誇っている。日もだんだん短くなってきた。あそこにもここにも秋のけはい。
  出水市 山岡淳子 2017/11/1 毎日新聞鹿児島版掲載

彼岸花

2017-11-02 21:10:13 | はがき随筆


 台風18号が微妙な形でそれた翌日、庭掃除を思いたち、外に出て驚いた。門の近く勝手口のそこここ、そして梅の木の根方に彼岸花が角を出している。毎年この花の唐突さには驚かされる。お彼岸も間近、日々茎を伸ばし、それぞれ深紅や黄色、白の蕊を天に向けて華やかに掲げる。
 季節の移ろいに敏感な営みには、ある種の敬意を覚える。彼岸過ぎまで、庭の彼方此方を鮮やかに彩り楽しませてくれる。そうこうしているうちに、得も言われぬ芳香に嗅覚をくすぐられる。金木犀が主張を始めたのだ。秋が整いつつあるなあ!
  鹿屋市 門倉キヨ子  2017/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載