はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2泊3日の伊勢詣

2018-03-21 15:42:23 | はがき随筆
 晩冬夕刻、志布志湾。サンフラワーの人となる。伊勢路への第一歩。翌早朝、大阪南港、直ちに小雪の中伊勢路へと。まずは外宮豊受大神宮での祈り。続いて祈願念頭の内宮皇大神宮へ。五十鈴川で心身共に清め、清々粛々参道を進む。荘厳にして白木造りの神殿に。二礼二拍手一礼と頭を深く垂れる。世界恒久平和、家内安全、子孫繁栄と欲ばって祈る。何か心身共に軽くなった感じ。
 おかげ横丁で昼食や名物赤福を楽しみ、しばらく散策。夕刻、再び船中へ。がんで亡くした奥さんの話、九死に一生の話、孫自慢等々。祈りに満足の旅。
  姶良市  宇都晃一  2018/3/19  毎日新聞鹿児島版掲載

ランドセル

2018-03-21 15:26:10 | はがき随筆
 「ばあちゃん、ランドセルだよ~」とかけ込んできた。背中のランドセルが躍ってる。隣に住むTくんは、春の入学を心待ちにしている。
 ランドセルはネットで購入。代金は私たちが支払うと息子夫婦と話し合った。それが今、届いたのでお披露目に来た。
 どうやら、郵便屋さんからのプレゼントと思ってる節が……。「ばあちゃんが紙のお金をいっぱい払ったから、郵便屋さんが届けてくれたのよ」と6歳児と張り合う私。
 お嫁さんいわく、後日、息子が私たちからのプレゼントだと特訓していたとか……。
  垂水市  竹之内政子  2018/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

いざ行かん

2018-03-21 14:57:13 | 女の気持ち/男の気持ち
 新聞の広告で安い沖縄ツアーを見つけた。ツアー名には見覚えがあった。手元にあったパンフレットを見ると確かに同じ行程のツアーだ。違うのは発着空港と代金! 信じられない思いで見直したが、間違いない!
 福岡空港発着だと鹿児島空港発着より2万円も安く設定されている。新幹線代を払ってもお釣りがくる。お得な掘り出し物を見つけた気がして、買わなきゃ損とつい、いつもの習性が顔を出す。
だが沖縄までは自分たちで行かねばならない。夫と2人では少し不安。そこではたと思い当たった。小倉の息子家族を誘ってみようと。早速電話をすると、嫁さんはちょっと困惑気味の対応。そりゃそうだ。
 明くる日の夜、息子から電話がきた。いろいろ遠まわしに聞いてくる。私は「安いツアーを見つけたのよ。お父さんと2人では少し不安だし、あなたたちと一緒に行ければ楽しいなあと思って」。
 息子は「仕事も休みが取れるし、子供たちも学校休んででも行きたいと言ってるいるから一緒に行こうか」と言ってくれた。
 電話を切ってふと思った。息子は突然の電話の誘いに、私か夫ががんか何かの宣告を受けて、この世での思い出作りを思い立ったと勘繰っているのではないかと。なんだか奥歯に物がはさまったような言い方をしていたなあ。
 でも孫たちと旅行に行けるのはうれしくてしようがない。勘違いするのはそちらの勝手。当方に責任はございません。
  出水市 清水昌子 2018/3/16 毎日新聞鹿児島版「女の気持」掲載

関ヶ原

2018-03-21 14:43:54 | はがき随筆
 もと上司のお宅を訪問していたのは、毎週金曜日だった。博覧強記で以前は大企業の研究職をされていた。文庫本をポケットに桜並木をふらり散歩。それが日課だった。浜松出身で歴史にも造詣深く、徳川家についても教えていただいた。私が会社の近況を報告すると恵比寿様のような笑顔でうなずかれた。仕事に悩む20代に的確な助言も下さった。倒れられ半身不随と聞いたのは私が退職し転居した後だった。お見舞いに伺った。やっと聞き取れたのは本の名前。読んでごらんとの優しい表情。今の私を支える一冊。重なる司馬と家康とその上司である。
  出水市  山下秀雄  2018/3/17  毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆2月度

2018-03-21 14:22:23 | はがき随筆
 はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀作】14日「ハッピー貯金」竹之内政子=垂水市田神
 【佳作】20日「私の捜査1課」高野幸祐=鹿児島市紫原
 ▽28日「細氷」年神貞子=出水市上知識

 「ハッピー貯金」は、知人から、大きめの瓶に楽しかったことなどを書いて、貯めて置くことを教わり、実行しているという内容です。それを、つらい気分のときなどにとり出して読み返すと、気分転換になるというハッピー貯金に期待している。ちょっとした工夫で、生活を楽しくしていく知恵は、得がたいものだと思います。
 「私の捜査1課」は、加齢につれての、物忘れのひどさの克服術が披露されています。忘れ物を探しだす過程を、警察の捜査の過程になぞらえて、もっぱらご自分は捜査1課長の気分で頑張っておいでなのが、ほほ笑ましく感じました。秘訣は「忘れた事を忘れない事」だそうです。
 「細氷」は、いつもいつもの美しい文章を読ませてもらいました。珍しい出水地方の小雪に、北海道の鶴居村のダイヤモンドダストの美しさを思い出したという内容です。出水の小雪・23年前の思い出・カメラを据えるご主人・鶴の一鳴き・氷点下の空気中を舞う細氷・ダイヤモンドダスト。この連想が輝いている文章です。
 この他に3編を紹介します。
 馬渡浩子さんの「老婆の愚行」は、なぜか暮の29日になって、カーテンを洗濯したくなった。案の定翌日は全身がこわ張って、泣きたい気分。考える力が衰えたのだろうか、という内容です。まだ若さが残っていることを確認したかったのではないでしょうか。
 道田道範さんの「ベスト」は、隣県から水門工事に来ている若者たちの1人が、宿泊所の女主人にベストを贈り、感謝の意を伝えたという内容です。こういう暖かい心の交流は、傍らに居る人の心をも温かくしますね。
 的場豊子さんの「デブ、一時よし」は、毎年、健康のために痩せようと念じるのだが、うまく行ったためしがない。ところが、今年は太っていても素晴らしいことがあった。有村加純主演の映画の、おれんじ鉄道の駅ホームで電車を待つ田舎のオバチャン作で映画出演。ご自分に対する距離のとり方が効果的な文章です。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

訓練

2018-03-21 13:55:35 | はがき随筆
 娘婿が入院のため、妻が孫の子守に上京することになった。
 1人暮らしが苦手な私は「行ってこい」と強がりの軽い返事をして空港へ送った。見送り後、今夜からの生活を思うと、全て妻まかせのわがまま人生に後悔が先走る。洗濯機の動かし方、洗剤の加減、買い物、献立etc。不明点を電話で聞く。妻の「大丈夫なの」に「平気平気」と応えるが、話し相手のいない部屋は広すぎる。もしかしたら「酔生夢死」とはこのことかと体感する。妻は「人生、何が起こるか分からない。これからの後先のために、今は訓練よ」と。妻の大切さが身に染みる。
  出水市  宮路量温  2018/3/16  毎日新聞鹿児島版掲載

桜見物のハシゴ

2018-03-21 11:50:56 | はがき随筆






 昨日よりは暖かい……そんな感じがした日、カミさんと桜見物のハシゴとしゃれこんだ。
 まず、市役所そばの坂道にある緋寒桜、鴨女川淵に咲く大島桜(?)を見てから古田の河津桜へと車を走らせた。古田に着いた、色鮮やかなピンクの河津桜並木が小高い丘の裾に広がる。
 種子島の桜は、正月末に早咲きの緋寒桜で始まり、鉄砲桜、河津桜と続き、2月の末には松月桜が咲く。そして、その後には山桜が控えている。
 人口減少と言う寂しい話題が先行している種子島ではあるが、次から次へと、島ならではの桜を楽しめるのは魅力だ。
  西之表市 武田静瞭  2018/3/15  毎日新聞鹿児島版掲載

人生のご褒美

2018-03-21 11:47:06 | はがき随筆


 今ぼくは朝日を浴びています。聞こえるのは波の音とかすかな風の音。太陽はほぼ正面の眉の高さにあります。名ばかりの春、冷たい空気を通して届く光線が河津桜のつぼみを射しています。異常な寒波で膨らむ時が遅れ、開花はまだ先になるでしょう。やっと開花した梅もたった3輪です。落ち着く年になった愛犬遼太郎は庭に放し飼い。妻とつぼみを確認するぼくたちの横が、自分の居場所と心得ています。この健やかで穏やかな時を味わう幸せ。満開の時を思い描いている2人と1匹。春らんまんはそこまで来ています。
  志布志市 若宮庸成  2018/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

通信教育

2018-03-21 11:39:57 | はがき随筆
 金融機関の仕事に携わっていた。何か資格を取得したいと願い、新聞広告の早稲田速記セクレタリー(秘書)が目に留まった。
 テキスト類が届いた。未知の分野に興味津々。ミミズがはい回った気味悪い字の跡のようだが、なぞった。暗号? 途中で邪魔が入るが乗りかけた船だから接岸するまでこぐ、大海を渡る。秘書を目指して小さなアバンチュール。夢に描く。通信教育も重ねる度に意味が分かり、約8カ月間だがチャンス。
 終了証はセピア色に輝き額に納まり、飾られた。亡夫が尊重してくれた。感謝。
  加治木町  堀美代子  2018/3/12  毎日新聞鹿児島版掲載