はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

カエルの吸い物

2018-03-28 21:23:16 | はがき随筆
 出水の江戸時代初期の地頭・山田昌厳についての講演会が開かれた。
 昌厳は今から350年ほど前の人で、小柄だったが士風を作興して出水兵児の育成に生涯をささげたという。昌厳が出水に赴任するとき、肝だめしに出水の若者たちはカエルの吸い物を出したという逸話が残っている。ところが、彼は顔色一つ変えず大きなカエルをぺろりとたいらげたという。
 今、出水の仲町のある食堂でカエルの吸い物がでる。私も1回ごちそうになった。
 3月には、短歌の仲間5人でまた行く計画を立てた。
  出水市  小村忍  2018/3/28  毎日新聞鹿児島版掲載

カーリング

2018-03-28 21:12:51 | はがき随筆


 寒くてストーブ、甘酒、編み物の三点セットの日々に、ピョンチャンから聖火が飛んできた。目覚めた熊のように気合いが入りカーリングに夢中になった。ルールはうろ覚えだが時差もなくたっぷり見られ、ゲームに参加できるので面白い。作戦と駆け引き、そして正確なショットが勝敗を分ける。一投でハウスから3個出る音は暮らしのわだかまりも吹き飛ばされ気分爽快。お国柄で趣のある美男美女の表情がアップで迫り、若返りの秘薬になりそう。競技者の忍耐と努力に勇気とパワーをもらったオリンピックに感謝。次は北京だ元気でいよう。
  薩摩川内市  田中由利子  2018/3/26  毎日新聞鹿児島版掲載

ヘアドネーション

2018-03-28 20:49:14 | はがき随筆
 若い頃から髪を伸ばしては短く切ることを繰り返してきた。古い友人たちにはいつも長い髪というイメージがあるようだ。
 52歳で鹿児島市に来てからはショートヘアだったが、再雇用になったあと伸ばし続けた。夏はぎゅっと結び暑さに耐えた。
 65歳になりヘアドネーションについて調べ始めた。抗がん剤で髪をなくした人たちにかつらを寄付する団体があり、そこへ髪を提供する活動のこと。長さや切り方にはルールがあり、活動に賛同する美容室が鹿児島市内にも幾つかあるらしい。
 春になり仕事を辞めたら、思い切り短く髪を切るつもり。
  鹿児島市  本山るみ子  2018/3/27  毎日新聞鹿児島版掲載

おやつ

2018-03-28 20:41:45 | はがき随筆
 カーリング女子のおやつタイムが話題になり、テレビで放映された。イチゴやバナナ、洋菓子などを食べている様子は、話し声さえも聞こえてくるようで、これが女子会の一面なのだろう。自分の高校生時代、5時ごろに帰宅して3杯のご飯をおやつ代わりに食べ、夜食も3杯食べていた時代があった。そして現在、自分はイギリス風のティースタイルとして3時ごろにはビスケット2枚とコーヒーのスタイルになる。おやつは人や時代の変遷により変わっていくものだと思う。おやつどころか食べ物がない人々が世界に存在することも忘れてはならない。
  鹿児島市 下内幸一  2018/3/25  毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい出来事

2018-03-28 20:35:18 | はがき随筆
 主人の一周忌で帰省していた子どもたちと昼食をすませた帰りの寒い道端に、車を押してしる老夫婦の姿があった。
 真っ先に気付いて車から降りて駆け寄った長男の話では、車が故障した上に携帯電話も忘れて困っているということだった。ご夫婦の車の鍵に付いていた行きつけの修理屋さんに電話をして現場に来てもらうようお願いをしてきたという。私たちの車に向かってうれしそうに手を振ってくださったのを見て、安心してその場を離れた。
 長男の詩全体の信説が、亡き夫への何よりの供養になったとてもうれしい出来事だった。
  鹿児島市 西窪洋子  2018/3/24  毎日新聞鹿児島版掲載

子供時代

2018-03-28 20:29:19 | はがき随筆
 父が戦死したとき、わたしは1歳半、妹は母の胎内にいた。
 母、祖父母、まわりの者の愛に包まれて父のいない寂しさの入り込むスキはなかった。生身の父に触れ得ぬもどかしさを感じてはいても、それがかなしみだとは気づかなかった。
 父が恋しくて身をよじり、泣きたい日は訪れる。けれど泣けない。そんな自分に腹を立てる。八つ当たりして母を責める。「なぜ父さんを戦争に行かせたの」。母は絶句した。かなしみが意識の表に浮上したとき子供時代は終わった。父には夢があった。父の夢を奪った戦争について考えはじめていた。
  鹿屋市  伊地知咲子  2018/3/23  毎日新聞鹿児島版掲載