はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

第一関門

2018-10-02 17:51:37 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月24日 (月)
岩国市  会 員   河村 仁美



 結婚した時に義姉から「河村家は男子薄明だから。覚悟しておいたほうがいいよ」と言われた。その主人が第一関門の還暦を迎えた。自分のお祝い事にお金をかけるのは、もったいないという主人なので、2人の娘と相談して全員で写真館で記念写真を撮って、自宅でささやかな食事会をする計画を立てた。
 写真の撮影が予想以上に大変だった。赤いちゃんちゃんこは嫌だといっていた主人に、おいっ子からまさかの赤のポロシャツプレゼント。それに合わせて全員私服に決定。孫が4歳から1歳までの4人。それに大人6人が加わり総勢10人。 

 まず立ち位置を決めてそこから動かないようにするのに一苦労。泣いてしまったらアウトで短時間勝負。何とかプロのカメラマンの技術で、素敵な笑顔いっぱいの写真が完成した。         

 料理は主人が自ら刺身をセレクト。自分で引き、みんなをもてなす趣向だ。注文したオードブも加えてうたげがスタート。それぞれの娘夫婦が用意したプレゼントを孫から受け取り、にんまり。ケーキの前ではケーキに手を出さないように孫を膝に乗せ、4人の孫に囲まれて、じいじ還暦おめでとうの声に満面笑み。その後は孫と花火をして早く寝かせる作戦を立てる。 

 とりあえず婿さんと男3人で2次会開始。それに孫を寝かせた娘2人も加わり、3次会で楽しいうたげはお開きとなった。
 ただ今、医者通いで身体のメンテナンス中の主人。第二関門の古希でも全員で写真が撮れるように元気で頑張りましょう。

  (2018.09.24 毎日新聞「女の気持ち」掲載)

旅の思い出

2018-10-02 17:36:29 | はがき随筆


 私ども夫婦は、旅行会社の企画した4泊5日の「日本列島縦断夫婦いい旅二人旅」に参加した。全行程は列車で、琴平、金沢、函館、熱海に宿泊した。ツアーは15組30人であった。4日目の朝、函館の食堂でみんなと海鮮丼を食べた。ツアーの中で少々気になっていた病弱そうな60過ぎの男性夫婦と同じテーブルに座った。話を聞くと、同じ終活でも、彼はガンが転移して夫婦の最後の思い出としてと言う。急に親しくなった。何か力になりたい。別れ際、列車の中でふと浮かんだ。「何年生きたかではない、どう生きたかだ」と書いてそれを彼に渡した。
 鹿児島県志布志市 一木法明(82) 2018/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

祭りばやし

2018-10-02 17:23:27 | はがき随筆
 お練りのふれ太鼓が行く。
 「鉦打ちさん、早よ行き」母の声に押され馬場に飛び出し、御祭礼の幟の下を真っすぐに村の神社まで駆けてゆく。だんじりに乗り、シャカポコ、ドンチキチ。おはやしを打つ。小学5年で鉦から始まり、年ごとに大太鼓、小太鼓……と進み、鼓が済めば教える側にまわる。
 祭り終了の煙火があがってもしばらく打つ。テレツク、シャカポコ、ドンチキチ。その間に露店は去り、人が散る。
 そろいの手ぬぐいを首に、仲間と帰る道。それぞれの持ち場のおはやしを口でつないでゆく。コンコンチキチ、コンチキチ。
 宮崎市 柏木正樹(69) 2018/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載

戦車カワイイ

2018-10-02 17:14:00 | はがき随筆
 テレビで陸上自衛隊の富士総合火力演習なるものを見た。4億円もの砲弾が飛び交いすごい迫力である。10式戦車がばく進する。劇画の世界が現実になったようである。観客席では特に若い女性が黄色い歓声を上げる。彼女たちに言わせると戦車が急停止する時、キュッと音が出るのがカワイイのだそうだ。
 戦車戦と言えば私は1939年5月から9月にかけての日ソ間のノモンハン事件を思わずにはいられない。日本軍だけでも2万人に及ぶ死傷者を出したせい惨な戦いだった。それが日本の敗戦の始まりだった。そんな歴史を知ってもらいたい。
 熊本市中央区 増永陽(88) 2018/9/30 毎日新聞鹿児島版掲載

覚悟

2018-10-02 17:04:04 | はがき随筆
 96歳の母が転んで、背骨3カ所と腰骨にひびが入った。
 歩けなくなり、簡易トイレを用意する。尿が近い母は、夜中に5回も私を起こして困った。20日も続くと、私の思考回路がまひしてふらふらに。
 アユ釣りにも、碁大会にも行きたい。しかし、1時間以上の外出は無理だ。私のさささやかな楽しみも封印されて、どうかなりそうだ。
 5年も10年も介護された方を見聞きしたが、私は20日で音を上げた。これも私の宿命だ。言うはやすく、行うに難しい介護だが腹をくくった。また、母が呼んでいる。
  鹿児島県出水市 道田道範(69) 2018/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2018-10-02 16:54:39 | はがき随筆
 県北に私の好きな場所があり、いつかは歩いてみたいと思っていたところであった。歩き始めてしばらくすると、視界の奥まで広大無辺の大海原。疲れを覚えてふと立ち止まり振り向けば、疲れは一気に安らいだ。一人歩きで帰りのバスの事とあまりの暑さにうんざりだった。次のバス停までの距離も分からない。観念して歩いていると、追い越したライトバンが10㍍先に急停車!「よければとうぞ」と大きな声! 喜んで乗せていただきバスにもお陰で間に会った。
 名も聞かず別れてしまったが、気持ちの上で禍根を残した。
 宮崎市 黒木正明(85) 2018/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載