はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蛇助けた優しい生徒

2020-05-11 21:41:54 | 岩国エッセイサロンより
 散歩の途中、2人の男子高校生が、町はずれの道路中央で長い棒きれを持って何か相談している。「どうした?」と声を掛けると、蛇がこのままだと車にひかれて死ぬので助けてやりたい、と言う。
 見れば、数十㌢ほどの蛇が元気なさそうにじっとしている。高校生たちが心配する通り、車が通ればひかれる位置だ。
 相談して道端の雑草の中に移すことにした。棒でつつくが動かない。そこで棒に蛇を引っ掛け、引きずって雑草の中に移した。
 高校生たちは「ヘビは好きではないが、とにかく生き物を助けてやろう」という気持ちだったようだ。2人は「ありがとうございました」と言い残して走り去った。
 蛇といえば大方の人が避ける。でも、2人は「このままでは車にひかれる」と勇気ある行動を起こした。
 新型コロナウイルスの感染拡大で重苦しい日々が続く中、優しい心根の生徒たちに出会い、散歩の足取りも軽く感じた。
 岩国市 片山清勝(79)

生きることの尊さ

2020-05-11 21:32:13 | はがき随筆
 半世紀以上の昔、夫が他界し15歳の息子と二人残された。
 今、世界は新型コロナウイルスにより、多くの人が闘いいまだ終わらずに続いている。私は昔の苦労と今の苦痛とどちらが大変か考える。
 夫の死と時を同じくして地元の鉱山が閉山した。商いで暮らす身は生活の糧を失ったが、今頑張らなければ後がない。
 悲しみは生きることの尊さを教えてくれた。息子にはただまっすぐに育ってほしい。いくら働いても疲れなかった。
 青い山、紺碧の川、忍び音もらす幼い鳥にも癒された。
 今、何を頑張るのか?
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(93) 2020/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクの洗い方

2020-05-11 21:11:15 | はがき随筆
 今まで「使い捨てマスク」と呼ばれていたものは一見素材が紙のように見えるけれど不織布ですから洗えないものか実験してみました。からりと晴れた日を選んで実行開始。まず使用済みのマスクを丁寧に形を整えて、火傷する位の熱湯に衣料用中性洗剤を垂らして1時間ほど浸けておき振り洗いをします(揉み洗いは駄目)あと数回お湯で濯いで日光で干して出来上がり。
 みんなに見せましたが誰も未使用の物と見分けられませんでした。ヘルパーさんにも伝授しました。介護事業所に各自1枚ずつ配られたアベノマスクよりずっと良いと言っています。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

夕日と甘い風

2020-05-11 20:51:14 | はがき随筆



 キンギアナムが咲いている。カミさんが毎年少しずつ株分けしたもので、それほど数はないが、それでも白とピンクの花が甘い香りを放つ。洗濯物を取り込んでいたカミさん、「ここまで甘い香りが漂ってくるわよ」
 午後5時半も過ぎ、夕日を背に受けて帰路に就く看護師さんたちが「あら、甘い香りがするわよ」「ホント、いい匂い」と口々に言いながら通りすぎた。
 向かい側のオガタマは花弁を散らし初めてはいるが、香りはまだまだ健在、キンギアナムと甘い香りを競い合っているかのようだ。そして、ニオイバンマツリが次の出番を待っている。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

もう少しは

2020-05-11 20:32:11 | はがき随筆
 もう少しは生きたいしな。
 そんな夢を見たことを思いだした。つい先日、裏山の茂み切りや家周りの草取りをして疲れていた夜だ。母も妻もこの家から病で去り、寂しさの心情もあったのだろう。それに連日のコロナ感染者の方とそれに伴う不幸の方々のご冥福を祈る毎日なのでもある。特に医療従事者の方々の苦労、心労には頭の下がる思いなのである。
 中でもマスク不足の解消が最優先課題だろう。私は当初から、不織布マスクを洗浄し、殺菌も考え、15分煮沸し乾かしてアイロンし、再使用している。煮沸にも十分耐え重宝だ。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

「渡邉」考

2020-05-11 17:32:18 | はがき随筆
 「わたなべ」という姓は全国に分布し、数の上でも上位にランクされるのではなかろうか。それだけに「邉」の字体も「辺・邊・邉」など多様で、よく「わたなべのなべの字は?」と聞かれる。「べの字ですね。冠の下はハロです」と答える。「邉」に「なべ」という読みはなかろう。
 「目な尻」(眦・まなじり)、「目な子」(眼・まなこ)、「手な心」(掌・たなごころ)などの「な」は、格助詞「の」の古形。それに準じると「渡邉」は「渡な邉」で「渡し場の辺り」ということになろうか。
 先祖は渡し場の辺りにでも住んでいたのだろう。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載
















ツワブキ

2020-05-11 17:24:31 | はがき随筆
  家内が田舎の百均市場でツワブキを買った。皮をむくのは小生の仕事である。なぜなら認知症の予防になると、手を動かしなさいと任命されているのである。しかし、晩酌にツワの油イタメを食べる楽しみもあるからだ。ツワブキの花は秋から咲いており、山登りの下山時、それを見ることは、達成感と共に何故か安堵感を与えてくれるのである。花は豪華ではないが、健気に咲いた花に心が癒されるのであろう。
 新鮮で若いツワブキのある野山を知っているので、新型コロナに負けないように出かけてみよう。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

娘は還暦

2020-05-11 17:17:38 | はがき随筆
 3歳ごろの娘が初めてエレベーターに乗ったとき「へえ~」とたまがった声を出し、周囲の人を笑わせていたっけ……。
 当時、保育園勤務の私は娘を自転車の後ろに乗せての通勤だった。出掛けの家の戸締り確認は娘の仕事で「大丈夫だよ!」のひと声で出発だ。小学生にもなると下校時に私の仕事場に顔を見せて「お母さん、お米は2合ね」と炊飯器にセットする夕飯の手伝いもしてくれた。
 早いものでその娘も還暦を迎える。コロナ騒動で不安な日々だが、一人暮らしを気遣い、毎日のように声を掛けてくれる。
 「ありがとうネ」
 宮崎市 田原雅子(86) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

子育てがしたい

2020-05-11 17:10:29 | はがき随筆
 もう一度あの頃に帰れるなら、ぜひやりたいことが一つある。娘の子育てをみていて羨ましく思っている。専業主婦だからそうできるのだと納得していても、それだけではないようだ。子育てを楽しんでいるかに見えて仕方がない。夏は川で時間を気にせず水遊び。友達感覚の会話が多い。私の子育ては3交代の仕事をしながらで余裕など皆無。必死で一日が過ぎていった。体調が悪い時は自分の事で精一杯。宿題なんて半端にしか見なかった。次男坊はよく忘れものをして校門まで走らされた。退職して随分たつ今こそ完璧な子育てができる気がするのだが。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ひめくり

2020-05-11 09:54:00 | はがき随筆
 月が改まり「さあこれからだ」と気合十分の一日を始める。一夜開けると「つまずいたって良いじゃないか人間だもの」。このほほ笑ましい展開には、楽な姿勢になれる。「良いことはお蔭さま、悪いことは実から出た錆」とくると、反省を覚えたり、自然の営みに目を凝らしたりして、精神のバランスをとっている。おかげで単調になりがちな老いの日々にメリハリがついてとても満足。だからかつて子からのプレゼントの日めくりを飽くことなく使っている。
 改めて諸行無常を学び、生活がマンネリ化しないよう心しているこの頃です。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(83) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ピンクがお好き

2020-05-11 09:42:16 | はがき随筆
 春分の日、桃色の上着に靴の格好で2歳の孫が車を降りた。庭の濃い桃色のチューリップに「ピンク、可愛い」とにっこり。
 御飯の後、母親の茶のペットボトルに飛びついた。「可愛いピンク、さくら」とはしゃぐ。桜が描いてあるボトルを見てはお菓子を口に入れる。側面を回し繰り返す仕草は花見のようだ。
 墓へは坂道だが足取りは軽く大人に負けてない。大声で「さくら!ピンク、可愛い」と散り始めたヒカンザクラを指さした。
 あちこちで桜が咲き誇り春らんまん。車窓から見える桜にご満悦で、保育園の通園がご機嫌であるだろう孫を思う。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(65) 2020/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載