はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

初夏の香り

2020-05-16 12:21:34 | はがき随筆
 すべてが活気づく今日、新緑が目にも心にも映える。桜見て一杯。真に日本の春です。暖冬のせいか、花持ちがよい。黄色い帽子が歩く1年生。私たちも幾多の旅立ちが。よき友、よき人生に感謝です。
 初夏の楽しみとして花植え。毎年ながら同じ花、同じ色とは? そしてプランターでは簡単な夏野菜を植えてみる。男でも朝食のサラダに便利。都会ではできない夢だった。日本の四季は世界一ですね。
 すべてが動き始める時期に、コロナで全世界が自粛するとは。必ず終息すると願いましょう。小さな趣味で毎日を楽しく。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(68) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

母の贈り物

2020-05-16 12:10:51 | はがき随筆
 今日は病院が新しく変わって初の診察だったので、母、妹、私は緊張しながら診察室に入った。101歳の母の診察を終えた先生が「いやー驚きました。いい腎臓を持ってますね。腎臓の力が10あるとするとまだ6の力が残っています」とおっしゃった。私と母は安心して待合室で妹を待った。
 すると妹は先生に「いい腎臓と肝臓をもらいましたね。100歳まで生きられますよ。いいDNAをもらいましたね」と言われたと言った。えっ! ということは私にも同じDNAが。
 母と先生のうれしいお言葉に感謝です。
 宮崎県日向市 黒木節子(73) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

家内へ

2020-05-16 11:58:19 | はがき随筆
 明日からは5月だという日に家内の心肺が突然停止して、日赤病院で応急処置を施したが、生き返ることはなかった。
 全く知らなかった者同士が、一緒に暮らすようになってから、六十余年の歳月が過ぎた。若かった頃は家事・育児など、家庭のことは家内に任せて、私は職務に専念してきた。
 「俺よりも若いのにどうして先に逝ったつや」と遺影に声をかけても返事がない。感謝の気持ちを伝えておくべきだったと後悔してももう遅い。「ありがとうね」と遺影に声をかけたら、「幸せでしたよ」とほほ笑んでいるように見えた。
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

応急手当

2020-05-16 11:46:17 | はがき随筆
 仲間から色彩豊かなアジサイを頂き、挿し木していた。3月初旬、冬を乗り越えた何本かが根づき、芽吹いてくれた。
 晴天のある日、布団を干す。干し場の下にアジサイが植わっていることは分かっていたが、取入れ時にポキッと1本折ってしまった。うなだれた茎はかろうじて外皮で持ちこたえている。「ごめんね、どうか無事につなかって」。折れた個所をとっさにガムテープでクルクルっと巻いた。応急手当成功とみえ、葉をつけたまま順調に育っている。今年は無理でも来年は花芽をつけてくれることを願い、毎日回診を続けている。
 鹿児島県指宿市 外園恒子(66) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

赴任の朝

2020-05-16 11:35:45 | はがき随筆
 4月1日。赴任の朝。耳川沿いの県道51号を車で遡上する。崖が道に迫り、空は狭い。小雨が降り続いて空は重く暗かった。3月末に引き継ぎを済ませたが、今度の仕事はこれまでと全く異なるので緊張と不安を胸にハンドルを握っていた。
 突然、空が広がりフロントガラスいっぱいの桜が目に飛び込んできた。雨にぬれ、濃い桃色だ。驚きとその見事さに思わずアクセルを緩めた。車はそのままゆっくりと桜並木を進んだ。福瀬地区のバイパス沿いの桜並木だ。衝撃的な桜のお迎えへの感動が冷めないうちに辞令をもらい、私の新年度は始まった。
 宮崎市 中村薫(54) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

寂しすぎた連休

2020-05-16 11:28:53 | はがき随筆
 緑鮮やかに澄みわたる大空、団地の窓の外には鯉のぼりが風に泳ぎ、初節句を祝った遠い昔を思い出す。みんなが楽しみにしていた連休日、まさかこんな状況になるとは思ってもいなかった。孫、ひ孫たちの訪問もなく、幸い長女と通信できるタブレットで元気に遊んでいる姿を眺め安心し笑顔にもなれる。テレビ、新聞でも「新型コロナ」漬けだ。普段の日常生活に戻れる日はいつなのか。先が見えず不安な日々。戦時中「欲しがりません勝つまでは」の生活だったが、今回は「手を洗いマスクにうがい、集まりませんコロナが消えるまで」と頑張ろう。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

何とはないこと

2020-05-16 11:21:59 | はがき随筆
 また自転車通勤開始。走るのに冷たい風も心地よくなった。緑増す大地。鳥の声も花の香も確か。春は来た。近年増幅する暖冬の異常も、訪れる季節の新しみに紛れ、何事もない好日に環境の事など忘れてしまう。そうなのだろう、人は直近の事に気を取られ、たとえそれがすぐ近くに迫っていようとも気づかない。すでに限界を超えていたとしても……。そこから自然が一気呵成に事をなし、人は何ももう手出しができない時が来るとしたら……。そうなった時でも、宇宙から見た地球は青く美しい星のままなのだろうなぁ。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載