はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新型コロナ

2020-09-05 22:37:26 | はがき随筆
 新型コロナ感染がこわい。3月から自粛自制により夫婦の楽しみである温泉めぐり、旅行など皆無である。
 7月後半、コロナ感染者がものすごい勢いで増加した。病気療養中の娘の通院がとても心配である。娘の家族は娘にうつしてはならぬと神経を使い、外出規制している。私も気をつけているが怖さは増している。
 また、コロナの影響で老人ホームにいる99歳の母の面会ができず残念だ。人生最後の時であるこの今の母に逢いたい。
 一日も早く、コロナ感染拡大がやわらかくなることを切に願っている。
 宮崎市 濱元カズ子(70) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ロスの三線

2020-09-05 22:28:10 | はがき随筆
 私には琉球・奄美の血が流れているのだろう。三線の音を聞くと五体に沁み渡る。にぎやかな曲では心が躍り、静かな曲にはしみじみとする。
 もう幾昔も前、ロスアンゼルスに留学し、日系人経営の大きな下宿屋に逗留していた。そこの大方の住人は日本からの出稼ぎのガーデナーだった。窓の下を酔っ払いが野太い声で歌って行く。そんな中、一階の遠い部屋から三線の透き通るような音が流れてくる。おそらく沖縄出身の方が故郷をしのんで奏でておられたのだろう。
 異郷で聞いたその音色は今でもよみがえってくる。
 鹿児島市 野崎正昭(88) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

精霊様トンボ

2020-09-05 22:20:38 | はがき随筆
 お盆も過ぎたのに、酷暑の日は終わりそうにない。今年は異常に早く、精霊様トンボを見つけたので、何か変と思いながら、子供の頃を懐かしんでいた。
 お盆が近づくと、たくさんのトンボが、庭を低く飛ぶ。私はそのトンボを竹ボウキを持って追いかけるのが楽しかった。
 そばで見ていた祖父がきまって「そんトンボは、とったらいかんど、精霊様を乗せて帰って来っとじゃかい」と言っていた。
 祖父は末息子を20歳の若さで戦地で亡くし、遺骨も帰らなかった。そんな祖父の悲しみも分からなかった遠い夏。私はトンボと無邪気にたわむれていた。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(72) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ホトケノザ

2020-09-05 22:08:57 | はがき随筆
 夕日をあびてまぶしそうに駆けてきた3歳の息子。「ハイ! 母ちゃんにあげる! キレイだけんとってちた!」「これ母ちゃんにくれると?」「うん!」「ありがとう」。濃いピンクのかわいらしい花をつけたホトケノザだ。あたたかい気持ちになった。「かわいいお花ね。徹心君もかわいい!」と抱きしめた。ホトケノザの小さな花をキレイと思える心を持ってくれた事に喜びを感じた。
 小さなコップにさして、テーブルの上に置いた。
 雑草として普段気にもとめていなかった野草が、息子のおかげで愛おしくなった。
 熊本市南区 紫垣明子(37) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

エール

2020-09-05 22:00:28 | はがき随筆
 庭の紫木蓮に今春も赤紫色の花がいっぱい咲いた。社会はコロナ禍で自粛生活の中でも、我が家に季節感を届けている。
 花を見て妻が「木蓮も彼岸花も花が咲いている間は葉は出ない。葉が出るときは花が咲いていない」と話した。なるほどと納得したが、今年の木蓮は違った。花は散り、やがて葉が茂ってきた。すると茂みの中に赤紫の花が二十数輪咲いている。異変に近所の木蓮を見て回ったが、どこも咲いていない。木蓮の花言葉「自然への愛」は、コロナ感染でざわつく今、自然汚染を考慮してという人間性へのエールなのかもしれない。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

うちわと蚊帳

2020-09-05 21:51:58 | はがき随筆
 連日、まるで地球が怒っているような暑さ。家の中ではクーラー、扇風機がフル稼働だ。
 子どもの頃、我が家には、クーラーはもちろん扇風機もなかった。でも暑くてたまらなかった、夜寝付けなかったという記憶はない。あったのは、数本の「うちわ」そして「蚊帳」。暑い時は自分でうちわをあおいで涼んだ。夜は蚊帳を張り、戸を少し開けて寝た。地球は優しく自然の風はちょうど良かった。
 そういえば、昼寝する時、母がうちわであおいでくれた。自然の風に、母の思いがこもっていたのか、すやすやと眠ることができた。
 宮崎県日向市 福島重幸(67) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナ禍の夏

2020-09-05 21:45:14 | はがき随筆
 8月も半ばを過ぎると、あんなに騒々しかったセミの声も聞こえなくなった。でも、暑い! 
 コロナと熱中症の予防対策だとクーラーの効いた部屋から外を見ている。外出できずに春は草取りばかりしていた庭に、百日草や久留米けいとうの花が咲く。涼し気にチョウがひらひらと舞う。今年はアゲハが多い。
 ちょっとばかりの風に揺れる花。涼しい部屋にいると、外もそうなのかと錯覚する。
 でも一歩外に足を出すと焦げるような暑さだ。間違ってはいけない。コロナ禍の中で戦っているいろんな人がいるのだということを。
 熊本県宇土市 岩本俊子(71) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

さあ歩こう

2020-09-05 21:38:59 | はがき随筆
 背筋を伸ばしてつかまっていればリハビリの先生が押してくださりゴロゴロと車が回ってスイスイ進む。病棟の廊下を2周できたすごーい。
 5年ほど街に出かけていないので秋になったらフリルやギャザーの服を着て、白玉だんごを食べたいと夢見ていたのに、やっぱり歳には勝てないとしょんぼり。
 病室では今まで見えなかった街並みと車の流れが遠く絵画のように広がっている。金峰山もどっしりとそびえている。活力が湧いてきた。残り少なくなった時間の中で七色の虹を追いかけます。一歩一歩踏みしめて。
 熊本市熊本市東区 黒田あや子(88) 2020/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載

思いは自由

2020-09-05 21:28:01 | はがき随筆
 「何事も思うことは自由です」。М紙投稿川柳、98歳の熟女。小生も負けじと87歳の挑戦。あの人とディズニーで遊び、居酒屋の焼き鳥で一杯。酔いが回り気炎が上がる。コロナ禍転んで福となる。でも誹謗中傷、情けない。思いやり深い民族ではなかったか。思いは募り、トランプ大統領、習主席を呼びつけて叱責、安倍首相に喝! 空を仰いで鳥となり、海に潜ってクジラとなる。野口英世に負けじとコロナ新薬開発。人類恒久平和へ力を尽くす。……思うことは自由です。幸せが広がる。
 でも現実は厳し。ただ、思いは願いへ、ピンピンコロリ!
鹿児島県姶良市 宇都晃一(87) 2020/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

いっそ魚に

2020-09-05 21:20:10 | はがき随筆
 橋の上に立ち止まって川の流れをのぞく。目の悪い私には魚は水面のゆらぎと同化してみえない。が、目を凝らすと、ハエの群れに出会うこともある。
 魚はなぜひれを動かすだけでさかのぼれるのだろうか。川遊びをした遠い日。浅瀬でも流されぬようにと、足を踏ん張っていたっけ。きっと何かがあるはずだ・粘膜で水の抵抗をなくしているからか。では人の身体にオイルを塗ったらば⏤⏤。いやいやうまくいくわけがない。
 今日も暑い。泳ぐには息継ぎもできない私だが、幸い肥えているので何とか浮くことはできる。いっそ魚になりたい。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(72) 2020/9/2 毎日新聞鹿児島版掲載