はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

母が結んでくれた縁

2020-09-13 21:44:38 | はがき随筆
 出会いは友人のジャズライブだった。「同郷の方だからお話が合うかと」と友人が紹介してくれたその方は、娘さんとみえていた。背がすらりと高く、90歳を超しておられるとは思えないお話ぶりで、ライブが始まる前のひととき、故郷のあの人この人に話が弾んだ。「小学校の時の担任は福山ルイ先生という方で……」「あ、それ私の母です」。驚きで絶句された。翌日「昨夜は興奮して眠れませんでした」との電話をいただいた。
 好奇心をもって活字に親しむ御日常とか。母が結んでくれた縁を大切にお付き合いさせていただいている。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2020/9/13  毎日新聞鹿児島版掲載

黙礼

2020-09-13 21:26:00 | はがき随筆
 バックミラーの中に1台の軽自動車が来て止まった。助手席が開き、足元のおぼつかない老紳士が現れる。小さい歩幅で2.3歩進み、少し休み、またよちよちと駐車場からスーパーの入り口を目指す。おしゃれなハットに粋なアロハのいでたちは確か田村のおじいちゃん。耳にはいつもイヤホンをつけ、ごひいきのセリーヌ・ディオンを聴く。
 車を降りて声を掛けようとして……やめた。このコロナ騒動の中、感染を恐れ車内で待機する身には気が引けたのだ。「またお会いしましょう」。後ろ姿に黙礼した。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(71) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

サンダンカと蝶

2020-09-13 21:04:41 | はがき随筆
  梅雨明けを思わせる晴れた日の夕方、ナガサキアゲハがサンダンカの蜜を吸いに来た。母屋の縁側に腰掛けながらカメラで追っていたら、ふと先日の夜、亡き母の夢を見たことを思い出した。母はちょうどいま私が腰掛けているところに腰掛け、背中を丸めて庭を眺めていた。そういえば母は何でも丸く刈り込むのが好みだった。サザンカもオガタマも丸められている。それらを改めて見ていたら、そうだ、母はこの庭を見に来ていたのだ……と気がついた。
 そして今もアゲハ蝶に姿を変えて、サンダンカの周りを舞っているに違いないと……。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(84) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

猫の楽園

2020-09-13 20:57:12 | はがき随筆
 敷地を囲むブロック塀の上は、絶好の散歩道らしい。時々新参者の猫と古参の間で、この道の取り合いが起きる。「ミヤーン」「ギャオー」と、しばらくいさかいが続く。やがて上下関係が決まり、以後、この同士のケンカは起こらない。
 物置の床下は、風通しが良く夏場の絶好の涼み場で、大の字で昼寝をしている。
 しゃくに障るのは、平気な顔をして、手入れした花壇を見境なく引っかき回したり、留守中に足跡をつけてベランダに上がり込んだりすることである。
 猫にとっては楽園でも、家主はほとほと手を焼いている。
 宮崎市 実広英機(75) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう、さようなら

2020-09-13 20:50:12 | はがき随筆
 末の娘は、今年小学4年生になる。小さい頃から下着が小さくなったり、靴下のつま先に穴が開いてしまったるすると「ありがとう、さようなら」と言って処分させてきた。
 先日、歯ブラシが交換時期になっていたので、新しいのに換えようねと言っていたのだった。「あんちゃーん、さよならしたー?」「さっき、長々とさよならしよったよー。えらいよねぇ」と母。大した事ではないが、私がほめられた気になってしまった。
 最近では、穴が開いている靴下も大事にし過ぎて中々捨ててくれないのは困りものだが。
 熊本市中央区 木野茂美(31) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

魚捕り

2020-09-13 15:21:01 | はがき随筆
 ♪夏が来れば思い出す。魚捕り。なかでも小川で竹製ざるのショケを使っての魚捕りがとっても面白かった。小川は安全で、こどもが遊ぶには最高の場所だった。水草の密集した岸辺が小魚の隠れ場所だ。1人が上流からバシャバシャと水草を勢いよく足で踏んで魚を追い出す。もう一人は岸の下流でショケを構え、一気にすくい上げる。「出てきた、出てきた、エビ、ドジョウ」「あ~、どっさい(たくさん)」とうれしかったものである。こうしてこどもたちが戯れ遊んでいた岸の多くがコンクリート化された今、そんな遊びもなくなった。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(72) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

バプテスマ記念日

2020-09-13 15:14:30 | はがき随筆
 6月23日で、私が教会に入って30年になった。以前、別の教会に通っていたが、そこを離れていたとき、義父が末期がんで余命1カ月と告げられた。
 「死んで終わりではない」という一言を、私は義父に言ってあげられなかった。
 それは私の中にずっと残り、私が入る教会を祈り求めた。祈りは届き、ある夜2人の宣教師が、わが家の戸をたたいた。
 バプテスマ(洗礼)を最初反対していた夫も、3年後の再検討を条件に許してくれた。
 3年後も、そして30年後も夫はその日を忘れており、私は今も教会に通っている。
 宮崎県延岡市 渡邊比呂美(63) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ピース

2020-09-13 15:08:00 | はがき随筆
 白い大きな体をゆらしてピースが走って来る。こんばんは!
 夫と私に順番に体中で喜びをぶつけてくる。ピースは7歳のゴールデンレトリバー犬。金曜の夜、私たちの散歩コースにやって来る。人懐こくて賢い犬。決して吠えない。人間が大好きなので番犬にはならないとお姉さんは笑う。時には犬の苦手な人にも近づいて行ってはお叱りを受ける事もある。
 今夜は2人の若い女性に囲まれてちぎれんばかりにシッポを振っている。「犬も若い人の方がいいのかなあ」「当然だろう。ピースはオス犬だぞ」と隣で声がした。
 熊本県天草市 岡田千代子(70) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

目覚め

2020-09-13 14:59:14 | はがき随筆
 毎朝5時起床の主人が「おはよう」。7時開店のコーヒー店に朝一番に行きたいのだ。週3回、「コーヒー飲みに行こう」と、元気に誘ってくれる。
 夜中寝つけず、ゴロゴロ本を読んでる私は「まだ早いわー。今から寝たいのに……」。しかし、気合で起きる。車のエンジンをかけて余裕で待ってくれている主人。ちょちょっとメークしてやっと乗り込む私。
 5分後、店に着いた。入り口も開け放たれて涼しい。店員さんは「おはようございます」。笑顔の接客は百点満点! コーヒーの香りに包まれて幸せ。だんだん目が覚めてくる私です。
 宮崎市 鶴薗真知子(57) 2020/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

感染症で思うこと

2020-09-13 14:52:06 | はがき随筆
 私が小学校に入学の頃、父は肺結核で長期入院中であった。その間、母は3人の子供を抱えどうして生活を支えていたのだろうか。
 小学生の兄が点滴をしている記憶が残っている。兄は赤痢にかかっていたのである。当時、両親は子供に生水、生ものを口にさせなかった。
 姉は幼い頃破傷風で亡くなったと聞いている。両親は姉のことを語ろうとしなかったので、詳しいことは知らない。
 当時は、小児まひ(ポリオ)や日本脳炎にかかる子供もいた。みんな感染症を恐れながら懸命に生きていたと思う。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載