はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蛍の夕べ

2008-05-16 21:38:25 | アカショウビンのつぶやき
 I病院は、鹿屋市街中心部に近い距離にあるが、清流に囲まれ自然豊かな環境の中に建っている。
 この病院で毎年GWに開催する、「蛍の夕べ」は地域の恒例行事となり病院の入院患者はもちろん、併設された老人施設の入所者にも喜ばれている。
 「今年のイベントは終わったけれど、今夜は気象条件も申し分ないので見に来ない」と、施設に勤務するMさんからお誘いがあった。

 施設に着くと、Mさんは、ベッドに伏す入所者の方々に蛍を見て頂くため、職員が考案したユニークな仕掛けをゴロゴロ押しながら、部屋を巡回していると言う、まずそちらにお邪魔してみた。

 照明を切り、「よく見ててね、光り始めますよー」とMさんが、蛍の入った網に霧吹きで水を吹きかけると、「ピカーッピカーッ」と、一斉に光り始めた。
「きれいじゃなぁ」「幻想的だねえ」「ほたるを、見がなって、よかったぁ」と口々に喜びの声が上がる。わざわざ起き上がって見ようとする方もあり、感動の様子が伝わってくる。

 今から14年前のある夜の出来事を思い出した。
 召される一月前…という厳しい状況の中にあった夫は、I病院の訪問看護士・Tさんの献身的なターミナルケアを受けながら自宅で過ごしていた。
 5月7日夜、「今日は病院で《蛍の夕べ》があったので、Nさんにも見て頂きたくて持ってきました」と、蛍籠を持った小学生の坊ちゃんと一緒に、Tさんが来てくださった。籠から飛び立った蛍は、部屋のあちこちで光り、私たちは言葉もなくその美しい光に見入っていた。やがて一言「きれいだね、これで最期かな」と夫は静かに言った。「来年、もう一度見ようよ…」と答えながら、私の声は震えてくるのだった。そして6月15日、彼は静かに旅立った、蛍の思い出は切ない。

 ようやく外が暗くなった、蛍が一番集まると言う場所に行ってみると、うわぁ!いるわいるわ…。
数え切れないほどの蛍が、「ピカーッピカーッ」と一斉に点滅を繰り返し、フワーッ、フワーッと飛び交っている。同行したKさんは、FMラジオの取材のため、マイクを向けながら楽しいおしゃべりが続いている。カメラを担いだ人も大勢集まってきた。このすばらしい夜を、Mさんに感謝しながら、私たちは、やがて家路についた。




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