庭先に、昔伯母のために父が建てた小さな家がある。伯母は目が不自由で小さな犬と寄り添って暮らしていた。大学在学中帰省したお盆に、伯母は父にみとられながら息を引き取った。
父は定年後、ここを書斎とし、私の学生時代の机に向かい、日々書道に励んでいた。
父の死後、ここは物置となった。最近、獣が入り込み、床も抜けて痛みがひどいので、中を片付けた。先に逝った父母や弟の思い出の品に手が止まる。名残の一部を残し、後は廃棄した。
小さな家は解体すれば、そこの記憶と共に自然にかえり、やがて庭木に埋もれるだろう。
宮崎県串間市 岩下龍吉(69) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます