はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

小さな家

2021-07-10 04:56:28 | はがき随筆
 庭先に、昔伯母のために父が建てた小さな家がある。伯母は目が不自由で小さな犬と寄り添って暮らしていた。大学在学中帰省したお盆に、伯母は父にみとられながら息を引き取った。
 父は定年後、ここを書斎とし、私の学生時代の机に向かい、日々書道に励んでいた。
 父の死後、ここは物置となった。最近、獣が入り込み、床も抜けて痛みがひどいので、中を片付けた。先に逝った父母や弟の思い出の品に手が止まる。名残の一部を残し、後は廃棄した。
 小さな家は解体すれば、そこの記憶と共に自然にかえり、やがて庭木に埋もれるだろう。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(69) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

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