はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

心優しい老婦人

2020-08-31 13:07:37 | はがき随筆
 ヂヂーと一声、一匹の蝉が落ちて来てそのままひっくり帰り動かなくなった。早朝、ラジオ体操に集まった人たちが蝉を取り囲み、輪になってのぞき込む。「熊蝉だ。ご臨終だね」と男の声。体操が始まる。
 間もなく一人の老婦人がよろけるようにして蝉に近づき、両手ですくい上げるようにして近くのケヤキの大樹のくぼみに運び寝かせる。「このままだと蟻地獄だよ、おやすみ」と、祈るようにして体操の輪に帰る。ほんの一瞬の出来事だったが、心優しい老婦人の後ろ姿が、いかにも美しく、まぶしいものに感じられた一瞬だった。
 熊本市中央区 木村寿昭(87) 2020/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載

最新の画像もっと見る

コメントを投稿