遠くから新燃岳を望むと、二つの岩が小さく見える。まるで兎の耳のように。それで、私の中で新燃岳は兎になった。兎の耳に触れたくて、道なき道を歩いた。三十数年前のことである。火口を半周する間、高千穂峰が微妙に姿を変える。その数十分は、霧島山の中でも心躍る時間だった。1人で歩き、学級の親子と歩き、妻と歩いた。
勇ましい獅子と巨大な兎の裾野に、ナナカマドが自生する十字路がある。右へ折れ、大幡池に行くのが好きだった。
もう一度兎の背に乗って、あの数十分に逢いにいきたい。
岳噴いて兎の耳の夕時雨
鹿児島県霧島市 秋野三歩(63) 2020/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載
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