「まくだけでいいから」と私を誘う。退職した夫が家庭菜園を始めた。耕された畑は寸分の狂いもない程、正確な畝が並び、それは美しく心地よい。職人であったため、計測には人一倍こだわり、その気質に感じ入り、引かれた直線上に丹念に種をまいていく。収穫の際には「お前のまき方がうまいから」と大げさに茶化すので、思わず顔を見合わせ、噴き出したものだった。
今一人になり、畑作業の大変さを知る。根を上げ、腰を下ろすと青い空に雲一つ。どんな顔で見ていることやら……と思っている、と風がそっと頬を撫で、大根の花も優しく揺れている。
出水市 井尻清子 2013/5/4 毎日新聞鹿児島版掲載
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