その人は実家を建てるときにやってきた若い大工さん。優しい笑顔と人懐こさに、私たち兄弟はすぐになじんだ。名前を尋ねるとヨコオと地面に書き、照れ笑い。それからはヨコオさん、ヨコオさんと夢中になった。
しばらく疎遠になったある時、ヨコオさんが入院したと聞き、お見舞いについて行った。盲腸炎だったらしい。変わらぬ笑顔がそこにあった。その時、白い湯のみを手渡してくれた。中には大きくて丸い枇杷の実が。私は母の陰でそれを見つめていた。なぜか恥ずかしく顔も上げられずにいた。遠い日の枇杷の甘酸っぱさを今も忘れない。
出水市 伊尻清子 2015/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載
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