南の窓から台所に暖かく注いでいた早春の日差しが今は窓際高くで足を止め、季節が進む。冬の花々は緑の芽吹きにバトンを渡してひっそりときえた。窓々を開け放ち、使い込んだ冬の道具を片付ける。
こたつ、湯たんぽ、ストーブ、etc。ぬくもりをくれたこの道具たちとの来年の再会は確たるものではないのだとコロナ禍を憂え、ふと気弱になった。
そして今日、3番目の孫息子が自立の道を歩み始めた。
「踏ん張りなさいね」と声をかけると「はい」とだけ寡黙に答えた。惜別の風は優しく吹いて、私はただただ手を振った。
宮崎県延岡市 柳田慧子(76) 2021/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます