はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

せみしぐれ

2009-09-01 14:17:40 | はがき随筆
 12年前の夏。8月半ばの日曜日、前日と同じように老人ホームの母に会いに行った。
 すっかり衰弱し、私の問いかけにも理解できているのか、言葉にならない声が返ってくるだけである。枯れ木のような腕をそっとさすりながら「明日また来るから」と言って帰宅した。すぐそこに来ている別れに備え、庭を掃いていたら電話が鳴った。「ついに……」と悟った。
 初七日に、住職の読経を聞きながら初めて涙を流した。お寺の周りでは、物音をかき消すほどのせみしぐれ。
 十三回忌の朝も、あの夏と同じせみしぐれを本堂で聞いた。
  鹿児島市 本山るみ子(56) 2009/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載

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