はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

町に行く

2017-11-29 02:54:04 | はがき随筆
 昔、小高い里山が町と村とを隔てていた。村人は里山の真ん中を裁ち、削り、町への道を通した。とげん阪(峠の阪)である。子供の頃、とげん坂を通り町に行くのが楽しくてならなかった。暗いとげん坂も母や友達と一緒なら平気。町行きにスリル満点のおまけがついた。
 母と映画を見ての帰り、切りぎしに切り取られた細長い夜空にまたたく星が美しかった。
 切りぎしの上の白い月に梯子をかけて登って行く、そんな夢を見た日々があった。
 今、とげん坂の道幅は広くなり、車が行き交い、切ぎしには「虹の橋」がかかっている。
  鹿屋市  伊地知咲子  2017/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

坂元棚田

2017-11-29 02:37:47 | はがき随筆




 道々、黄金色のススキに秋到来を感じつつ現地に着く。こうべをたれた稲穂。たわわに実をつけた柿の木。風にゆれ楚々と咲くコスモス。ちょっぴり居残りしてる彼岸花。秋が大集合。
 ここは日南市酒谷の坂元棚田。この大集合を見たくてタイミングをうかがって訪ねた。
 小松山の斜面に70枚の棚田が耕作されているとか。その昔、ここは屋根をふく茅を刈る原野で茅場と呼ばれていたとの事。農閑期は、棚田一面れんげの花が楽しめるらしい。
 先人たちの知恵やご苦労をしのび、道の駅「酒谷」に立ち寄ると茅のふき替え中だった。
  垂水市 竹之内政子  2017/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

彼岸花に思う

2017-11-29 02:24:51 | はがき随筆


 秋の彼岸を告げるかのように、季節を信じ、毎年土手や畑、庭に咲きほこる赤、白、黄の彼岸花。花の間にうずくまり、寝ころび、はてしなく澄みわたる空に向かい両手をいっぱい広げ、押し上げてみる。そして赤い花を一本折り、髪にかざしてみる。きつねのかんざし。
 「どう? 似合うかしら」
 空にそっと聞いてみる。「すてき! かわいい!」なんて。とんと、昔の童心にかえってみる。
 深まりゆく秋の昼下がり、こんなドラマチックな気持ちに誘ってくれるこの時季、大好き。
  指宿市  外薗恒子  2017/11/10  毎日新聞鹿児島版掲載

野外ジャズコン

2017-11-09 23:01:11 | はがき随筆
 ジャズの野外コンサートが9月初め、天文館公園で初めて開かれた。本県ではめったに生で聞けない、20人ほどのジャズアーティストが出演。演奏時間は午後1時~5時間。入場無料とはいえ、真夏日の炎天下に長時間いるのは無理なので、最後の1時間だけ足を運んだ。
 会場には周りのビルの影が大きく伸びて、暑さも少し和らいで感じられる。ラストステージは一番聞きたかったテナーサックス奏者のカルテット。70歳の彼は熟練の腕で、艶やかで輝かしい音色を響かせる。ビール片手に堪能していると、陽はビルの谷間にすっかり隠れていた。
  鹿児島市 高橋誠  2017/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載


風の鳴る音

2017-11-08 06:46:03 | はがき随筆
 小学3年の孫息子から電話がかかる。「風の鳴る音を作ったから、ばあばに聞かせるね」。すると雑音の中にガツガツと確かに聞こえる。いや違う。カタッ、カタッだよとつぶやくばあば。じゃ、もう1回。今度は「カタッカタッ」。前より少し軽い具合だ。うん、もう少しだ。3回目。「カタッ、カタッ」と快く聞こえた。〝風の鳴る音〟。孫息子は試行錯誤の末に小さな達成感。父親が少し手伝ったらしい。筒と風船が材料だという。採点ナシの「おまけ」をつけて五重花丸。孫息子は「わーい」と飛び上がり、父親と喜びを分かち合った。
  姶良市 堀美代子 2017/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載

予想

2017-11-08 06:38:49 | はがき随筆
 孫の中で唯一、紅一点の孫娘は可愛くて活発で、私の自慢の子である。年に数回の上京で会える楽しみが三つあり、私の胸を膨らます。一つは、孫の好物の土産を買いあさるうれしさ。二つは、風呂で背中を流してもらえる幸せ。三つは、妻と孫娘と川の字で床に入る安堵。……なのに、薄情にも「その楽しみはつかの間のこと」と妻に言われた。孫娘が上級生になるにつれ、背中を流すことも、川の字で寝ることも無残に消え去り、妻の予想は的中した。孫娘の成長と共に、私の楽しみは土産の買い物だけとなった。あー無情!
  出水市 宮路量温  2017/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

記念演奏会

2017-11-08 06:32:47 | はがき随筆
 文化会館内に、トランペットやフルートなどの大迫力の協和音が響き渡った。若々しくて力強く、しかも澄んだ音である。
 10月7日、出水市文化会館で出水市と台湾の埔里鎮プーリーチンとの姉妹都市盟約の記念演奏会が開かれた。出水市の某高等学校の吹奏楽部と台湾の交響楽団との合同演奏である。
 出水市の某高校の、7回も全国大会出場の実績をもつ吹奏楽部を中心に編成されていて、実に吹奏楽の音が素晴らしい。
 私が果たせなかった夢を孫たちが見せてくれているようだった。ホルンのKさんも頑張っていた。皆さん、ありがとう。
  出水市 小村忍 2017/11/6  毎日新聞鹿児島版掲載


イークンの記憶力

2017-11-08 06:23:21 | はがき随筆
 猫のイークンが謎めいた行動をみせた。だいぶ前からガラス戸を自分で開けて出入りする術は心得ていたが、最近帰って来たら「開けてニャーン」と鳴き、出るときも呼び付けるのだ。彼は何を考えているのか……あれこれ考えた末、思い当たった。カミさんが「開けっばなしだとエアコン代が無駄になるのよ」と度々話しかけていたことを。開けてもらったら、開けた者が閉めてくれていた――。それを思い出したに違いない。
 「そうか、開け方をしらない頃はそうしていたものね。帰ったら早速聞いてくなくちゃ」。カミさんは喜色満面だ。
  西之表市 武田静瞭  2017/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載


疑心暗鬼

2017-11-08 06:16:28 | はがき随筆
 すでに寝苦しい季節は過ぎた。その時刻目覚めていたか、轟音で目が覚めたかはっきりしない。急いで時計を見ると2時40分。紛れもなくジェット音で、ぼくには長く感じた。昼間旅客機が頭上高く飛ぶが、豆粒のような機体がキラキラ光るだけで、ジェット音は聞こえない。
 緊迫している朝鮮半島情勢に思考が走る。空爆したB1爆撃機がグアムに戻る音ではと。勝手に想像したらもう眠れない。4時半の定時ニュースはなく緊張感が消える。連日言葉の応酬を聞かされていると、物音にさえ不安を感じてしまう。
  志布志市 若宮庸成  2017/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

イノシシと共存遠く

2017-11-08 06:08:59 | 岩国エッセイサロンより
2017年11月 7日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝

 散歩中、イノシシが防獣ネットの外周りを掘り起こし、土中の餌を探した跡が長く続いている畑で、農作業中の人と話した。
 どこの畑にも防獣ネットは張ってある。それでも入り込み、農作物を荒し、畑を掘り返す。最近は人を恐れないのもおり、安心して仕事ができずに困っているそうだ。
 あの大きな体を維持する餌の量は半端ではなかろう。雑食性だから餌選びはしないだろうが、山から危険を冒して麓まで下りてくる、生きることの大変さは人も動物も変わりはない。
 ある日の夜明け前の散歩中、道沿いの畑から数頭のうり坊を連れた大きなイノシシに出くわしたことがある。
 子に合わせてゆっくりだが堂々とした歩みで道を横切り、山中に続くけもの道を上る姿を見送った。 人の親と同じく、子を思う優しい姿が強く印象に残っている。
 ちょっと、イノシシ寄りの心情になったが、荒らされた畑の様子を見ると共存の夢は遠い。

    (2017.11.07 中国新聞「広場」掲載)

一人慰問

2017-11-08 06:08:19 | はがき随筆
 施設にお世話になっている母を見舞う。顔を見るなり私の名前を呼び、両手を広げて大喜び。その顔を見たくて、また足を運ぶ。好物のプリンを無心に頬張る母。他の歌は歌えずても唱歌だけは記憶に残り、共に口ずつむ。母の手拍子に合わせ身振り手振りの「おはら節」が始まる。張り切って踊ったせいか私の方が疲れぎみ。帰る頃、決まって「ここに泊りなさい」とベッドを指す。「2人は狭くて寝れないよ」と諭すと困ったような顔。寂しいのだろう。母からすると娘はいつまでも子供のまま。後ろ髪を引かれながら手を振り別れを惜しんだ。
  鹿屋市 中鶴裕子  2017/10/29

タイドプール

2017-11-03 20:47:11 | はがき随筆


 「潮だまり(タイドプール)に行きたい」という息子のリクエストに、ドラゴンホールに出かけた。番所鼻にある大きな潮だまりのことだ。潮で削られた溶岩には大小の穴が開き、黒いサンゴにも見える。「竜宮城の入り口」の別名を持つ海中池には、ルリスズメダイが青い身を翻し、ハゼやエビが跳びはねている。危険生物マニアの息子はゴンズイやガンガゼ、イモガイには危険フラッグを立てた。いつの間にか彼の知識は親を超えている。満ち引きを繰り返すこの潮だまりでも、世代は次々と移るのだろう。そのうち彼が竜宮城への道を見つける日がくるかもしれない。
  鹿児島市 堀之内泉  2017/11/3 毎日新聞鹿児島版掲載

鉄橋

2017-11-02 21:39:43 | はがき随筆
 「この所でな……」とよくしみじみ言われていた。煙吐く汽車の頃。故郷の街並みが見えなくなるのが、鉄橋の先の緩やかなカーブ。社長20歳。新婚1週間後の出征時、「もう二度と見られぬか」と涙でかすんだという。戦後、運良くシベリアから生還。一念発起し一代で1000人を超える企業を築き上げた。その晩年に私は秘書としてよく出張にお供した。特急つばめの車内で「戦争ってのはな……」と繰り返し教えられた。九州新幹線の今、もう通らぬ鉄橋。「社長これからどのように語り継げばよいのでしょうか」。見下ろす川のせせらぎは速い。
  出水市 山下秀雄 2017/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載

秋のけはい

2017-11-02 21:29:06 | はがき随筆


 セミの声が聞こえなくなったなと思っていると、どこからかコオロギの鳴き声。
 ヒガンバナが枯れ始めたなと思っていると、どこからかキンモクセイの香り。
 稲穂がきれいだなと思っていると、もう稲刈りの終わっている田んぼもあった。
 今日はなんだか肌寒いなと思って温度計を見てみると、20度。風も涼しい。
 柿の木も栗の木も、わんさかわんさか実をつけている。コスモスの花も咲き始めた。ソバの花も咲き始めた。ソバの花も白く咲き誇っている。日もだんだん短くなってきた。あそこにもここにも秋のけはい。
  出水市 山岡淳子 2017/11/1 毎日新聞鹿児島版掲載

彼岸花

2017-11-02 21:10:13 | はがき随筆


 台風18号が微妙な形でそれた翌日、庭掃除を思いたち、外に出て驚いた。門の近く勝手口のそこここ、そして梅の木の根方に彼岸花が角を出している。毎年この花の唐突さには驚かされる。お彼岸も間近、日々茎を伸ばし、それぞれ深紅や黄色、白の蕊を天に向けて華やかに掲げる。
 季節の移ろいに敏感な営みには、ある種の敬意を覚える。彼岸過ぎまで、庭の彼方此方を鮮やかに彩り楽しませてくれる。そうこうしているうちに、得も言われぬ芳香に嗅覚をくすぐられる。金木犀が主張を始めたのだ。秋が整いつつあるなあ!
  鹿屋市 門倉キヨ子  2017/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載