絵話塾だより

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2023年2月25日(土)文章たっぷりコース第4期・7回目の授業内容/高科正信先生

2023-03-01 17:20:43 | 文章たっぷりコース

ロシアのウクライナ侵攻から1年経ったということで、最初にフォトジャーナリストの安田菜津紀さんの話をされました。

安田さんは世界の難民の人たちと話をされる機会が多いそうで、ウクライナ難民に世界の同情が集まっているなか

以前から難民として他国に移住しているシリアの人たちが、「自分たちが受け入れてもらえないのは白人ではないからか?」

と言われ、答えに困ったと言っておられたそうです。世の中の矛盾というのは、たくさんあるのですね。

この日も、前回の続きで「わたしとは誰か」というテーマで授業を進めていきました。

前回紹介してくださった、楳津かずおの『わたしは真悟』(小学館)の冒頭には

「奇跡は誰にでも一度は起こる。そのことに誰も気づかない」という言葉があるそうです。

先生は「何の変化も起こらないありふれた日常こそが奇跡なのではないか?」とおっしゃいました。

こんなに毎日、いろんなところでさまざまな問題ごとが発生する世の中なら、本当にその通りなのかもしれませんね。

この日先生が紹介してくれたのは(『ボクラ小国民』(講談社)で有名な)、山中恒の『ぼくがぼくであること』(岩波書店)です。

1968年に出版されたこの本は、家のしがらみから離れたい主人公の少年・秀一が、夏休みに家出をするお話です。

ベトナム戦争で疲弊していたアメリカの若者の間でレオ・レオーニの『あおくんときいろちゃん』(訳:藤田圭雄/至光社)が流行したように、この本も日米安全保障条約で揺れていた日本の学生たちの間でブームになりました。

60年に締結した条約が70年に自動延長されるということで、以前のように反対運動をする気にもならず

自暴自棄になり、自己否定していた学生たちは、この本を読んで主人公のように「僕は僕で良いんだ」

「俺は俺であることをわかってもらおう」という気持ちになり、どんどん広がっていったのだそうです。

  

ぼくがぼくであること https://www.iwanami.co.jp/book/b269561.html

ボクラ少国民 https://www.keisoshobo.co.jp/book/b23353.html

 

そして「私」という漢字の説明がありました。

「私」という字は「禾」と「△」から成っています。

「禾」は米麦粟稗豆(五穀)、「△」は囲うということを表しており、主要な穀物を囲い込むのが「私」という漢字だそうです。

農耕が始まった当初は、収穫をみんなで均等に分け、原始共同体として暮らしていたものが、だんだん格差が出てきて、収穫物(財産)の私有化が始まりました。

助け合わないと生存が危険にさらされるから共同で暮らしていたものが、そのうち危険をおかしてもそこから出る必然が生じます。

「家出」もその一つで、「自分とは何か」「自分はこのままで良いのか」を知るために、外に出なければいけない時がきます。

志村志保子の短編集『ミシンとナイフ』(集英社)の中に入っている「即興動物園」は、主人公である中学生の少女が、義母との関係を確認するために家出をして、異父兄弟のところに居候する話です。

 

子どもは家出をしなければいけない。が、その家出は実際に家を出る必要はありません。

詩人の くどうなおこ は、よく空想の家出を克明に思い浮かべることをしていたといいます。

実行はしなくても、親離れをするために「家出」を経験しなければならないのです。

高科先生の著作『オレのゆうやけ』(理論社)では、主人公の少年は学校に家出をします。

子どもの物語によくある「行って帰ってくる話」は、日常から別世界へ行って、目的を達成すると帰ってくるというものです。(注:行ったままは死を意味します)

そういう意味では、「家出」も自分を確認する旅〜子ども成長をとらえるもの〜だと考えたら良いでしょう。

そしてもう一つ神沢利子の『ふらいぱんじいさん』(あかね書房)を紹介してくれました。

長年使い古されたふらいぱんじいさんが旅に出て、いろんなものに出会って、どんどん食べていきます。けれども、食べても食べても飢餓感はおさまらず、とうとう宇宙へ飛び出していくというお話です。

このように「自分は何者で、どこからきてどこへ行くのか」という根源な問題が、子どもの文学にもきちんと盛り込まれているのです。

  

●ふらいぱんじいさん https://www.akaneshobo.co.jp/search/info.php?isbn=9784251006356

次にエズラ・ジャック・キーツの『ピーターのいす』(訳:木島始/偕成社)を読みきかせてくれました。キーツは『ゆきのひ』(訳:木島始/偕成社)で1963年のコルデコット賞を受賞した作家で、コラージュの手法で絵を描いています。

妹が生まれ、自分のものがどんどんピンクに塗られていくのを見て、黒人の少年ピーターは家出をします。最後には自分が大きくなったことを理解して、妹に譲るのでした。

子どもには子どもの自尊心があり、傷つけられると外に出たくなるが、帰ってくるために必要な理由が見つかると、成長して戻ってくるのです。

※ 主人公が黒人の絵本は珍しいのですが、ドン・フリーマンの『くまのコールテンくん』(訳:まつおかきょうこ/偕成社)の主役も、カラードの女の子です。

   

●ピーターのいす https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033280608

●ゆきのひ https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033281209

●くまのコールテンくん https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784032021905

休憩をはさんで、『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)の「Ⅱ さあ、書こう」から、「5. 借り物ではない言葉で」「6. 異質のものを結びつける」「7. 自慢話は書かない」のところを、交代で音読していきました。

5. については、①自分にしか書けないことを ②自分の感覚、心でとらえ ③借り物ではない自分の言葉で ④誰にでも分かる文章で書く とまとめられていますが、これはなかなか難しそうです。

6.については、Aについて書きたくてもそれだけでは話しが単調になるので、異なるジャンルのXの話を持ってきて、うまく結びつける。そうなれば成功だそうです。

7. 気の利いた文章を書くためには、自分の欠点を情け容赦なく書いてピエロになることであり、反感を買うのは、欠点を書いているように見えて実は自慢話になっていること、だそうです。気をつけたいですね。

最後に前々回の課題についてに言及されました。

同じ話を2パターン書いて提出された方がいらっしゃったのですが、絵本ではそういうことをされる方が多いそうです。赤羽末吉は、5パターンくらい構図や画材を変えたものを描いておられたそうです。

今回の課題は、高科先生のデビュー作『たんぽぽコーヒーは太陽のにおい』(理論社)から「ひみつきち」の箇所を読んで、原稿用紙3〜5枚程度で感想文を書いてください。

好きなように読んで、解釈の仕方は何でも自由、中に描かれている人物やできごとに関して好きに書いてください。

提出は3月11日(土)です。よろしくお願いします。

 


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