ゆるゆるらいふ

とりあえず、今日も一日機嫌よく・・・

【観劇メモ】消失

2025年02月15日 | 演劇

ケラクロス第6弾「消失」

作 ケラリーノ・サンドラヴィッチ

演出 河原雅彦

2025/1/22 紀伊國屋サザンシアター

「ディストピアもの」だとご本人がおっしゃっている。

ディストピアってなに?

ググってみたら

ユートピアとは真逆の暗黒世界のことらしい。

ユートピアが「いまだ実現していない、理想の社会」を描くことで現実社会を批判するのに対し、ディストピアは「実現しうる、最悪の社会」を描くことで現実社会を批判している。

などと書いてある。

「実現しうる最悪の世界」ってめっちゃ怖い。

初演は2004年だという。

舞台上は始まりから何やら不穏な様子。

兄弟でクリスマスパーティの準備をしていて、

なんだか楽しそうなんだけど、何かがおかしい。

家はところどころ崩れ落ちそうだし、

お兄さんのチャズを演じる藤井隆さんは、

弟スタンリー(入野自由さん)にも他の人達にも、ものすごく優しけど目が笑ってないし。

闇医者ドーネンの坪倉由幸さんは、

脳が病魔かなにかに侵されていってるようで「言葉」を思い出せなくて、なんだかヤバい。

スタンリーに電極を付けて、記憶を消す、とか言ってるし。

弟スタンリーは年齢(おじさんの年齢)のわりに幼な過ぎて子供のよう。

スタンリーは一体人間なのか、ロボットかなにかなのか、っていう疑問も残る。

ホントは一度死んでしまったみたいなやりとりを、チャズとドーネン医師がしていたし。

スタンリーが想いを寄せるスワンレイク(佐藤仁美さん)も、間借りしたいとやって来たネハムキン(猫背椿さん)も何やら秘密を抱えてそう。

ガスの修理業者ジャック(岡本圭人さん)は実は諜報部員っぽいし。

スタンリーを愛し執着するあまり、彼が好きになった人たちを文字通り排除していくチャズの怖さ。

シリアス・コメディとケラさんがおっしゃっているようだけれど、

コメディっぽいのは前半の休憩まで。

後半はじわじわと背中がうすら寒くなってくる。

私は共産主義国の話のように感じた。

戦争が終わったような続いているような状況で、一般人の生活も制限されているようで、

現在も世界のあちこちで起こっている戦争の話のような気もするし、

月にあるユートピアに移住するはずが、打ち上げ失敗で行方不明になっているネハムキンの夫の話は、

かつてブラジルや北朝鮮に新天地を求めて大変な思いをした方々を思わせる。

諜報部員ジャックが「正義」とか「国」のために一般の人々の生活を監視して、

銃殺しちゃったりするのは、共産主義国のそれだし、

任務に燃えているのに急に国の体制が変わってお払い箱になるのは、戦後の日本のようだ。

登場人物はみんな「善人」なのに、

あんなに楽しそうにクリスマスの準備をしていたのに、

善意の掛け違いが破滅へとつながっていく様は、

背筋がざわざわする。

ラストに向かって、花火のような爆撃の音のような音とともに、

次々といろいろなものや人が「消失」していく。

現代社会のどこかで起こっているようなリアリティ。

10年以上前にこれを書いていたケラさんはすごい!

終ったあと、何とも重苦しい気持ちになったけれど、

これは現実に起こりうることなのだ、と納得のような気持ちにもなる。

後味はよくないけれど、見ごたえのある舞台だった。

5月のケラさんの舞台も抽選に申し込んでみた。

当たるといいな~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【観劇メモ】こんばんは父さん(二兎社)

2025年02月09日 | 演劇

「こんばんは父さん」二兎社

作・演出 永井愛

2024/12/19 俳優座劇場

永井愛さんの作品が好き。

社会のどこかで起こっている、見過ごせないことを、

声高に糾弾するのではなく、淡々と、ユーモラスに描いて、

それでいてなんだか心にジワ~っと沁みる。

永井さんの公演は

東京芸術劇場の地下の劇場で公演されることが多かった気がするが、

この公演は六本木にある俳優座劇場。

今回の出演者は3人。

破産して行方をくらましていた町工場の経営者、風間杜夫さん。

投資詐欺にあい、エリート社員から転落して一家離散した息子が萩原聖人さん。

風間さんが借金をしている闇金業者が堅山隼太さん。

廃墟となった工場に風間さんが入ってくるところからはじまる。

梁には首を吊るかのような輪になった縄がぶら下がる。

その後を闇金が追ってきて、業を煮やして息子に電話する、と電話の音は工場の二階から聞こえる。

一流会社のエリートだったはずの息子が、何かやらかしたらしくうらぶれて潜んでいた。

町工場の腕のいい技術者でもあった父は、

日本経済を支えてきたという自負があり、プライドを捨てきれず、

家族を捨てたことを悪びれることもない。

父の理想を背負い、屈折して、道を踏み外す息子は父を憎み、

残されたまま逝ってしまった母を慈しみ憐れむ。

優しすぎる闇金は、組織への忠誠と恐怖でそこから抜けだせずにいて、

上からの指示どおりのきびしい取りたてが出来ずに右往左往。

3人とも善人なのにどうにもうまくいかない感じが切ないし、滑稽だし、残酷だ。

風間さん演じる父親は、調子に乗りやすくて、無責任発言を連発。

むかつくけれど憎めない。

根底では家族を愛しているけど、

現実から自分だけ逃げ出してしまった情けない感じがにじみ出ていて、

もうここから人生を挽回できないであろう悲哀を感じる。

個人的には闇金業者役の堅山さんがなんだかよかった。

ヤバい仕事に身を落としているのに、

人が良くて面倒見がよくて一生懸命な感じがとても自然だったし、

何ともユーモラスで救われる。

息子の萩原さんは、かわいそうだけどダメダメな感じが、

ああこういう人いるな~、とリアリティがある。

舞台上にはいなかったけれど、全部背負って早逝してしまった、

思い出として語られるお母さんが一番お気の毒。

だいたいこういうことって世の中のお母さんが背負ってる気がする。

それは決して美談ではないし、美談にしてはいけない。

かくいう我が家も、工務店を経営していた父親が

同じようなことをやらかして、姿を消していたことがある。

逃げたほうにも言い分はあるだろうし、苦悩はあったかもしれないが、

すべてを押し付けられ、すべてを失った家族はたまったものじゃない。

こういう話の最後は、この舞台上でもそうだし、テレビドラマでも何となくハッピーエンドになるけれど、

現実ではそうそう逃げた相手を理解して許してハッピーエンドにはなれない気がする。

そのあたりにちょっと違和感はあったけれど、

こういう現実がごろごろしていることを

淡々と伝える永井さんの舞台は、やっぱり面白い。

実はこの作品を2012年にも一度観ている。

私が初めて永井さんの舞台を観たのがこの作品だ。

【観劇メモ】こんばんは、父さん ~世田谷パブリックシアター~ - ゆるゆるらいふ

この時のお父さんは故平幹二朗さん。

大物過ぎる!

息子が佐々木蔵之介さんで

闇金業者が溝端淳平さん

この時もハッピーエンドに違和感を覚えていた

この時から12年余りがすぎ、

景気はあまりよくなっている気がしない。

これからの未来に

再生の希望は見いだせるのだろうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【観劇メモ】りぼん

2025年01月15日 | 演劇

【りぼん】

作・演出 渡辺えり

2025/1/14 本多劇場

 

「渡辺えり古希記念2作連続公演」と銘打った今回の公演。

この1月で渡辺えりさんは70歳になったらしい。

同じ山形県出身と言うことで渡辺えりさんのファンである友人と一緒に下北沢に出かけて行く。

 

2作とは

「鯨よ!私の手に乗れ」

「りぼん」

 

以前に「鯨よ~」は観たので、

今回は「りぼん」を観ることにした。

本当は2作とも観たかったのだけれど。

 

休憩迄の前半は

ついて行くのがやっとなくらいの目まぐるしい展開。

最初に舞台に現れるのは、ものすごい人数のセーラー服やYシャツ姿の中学生たち。

山形からの修学旅行生らしく、戦後の横浜にいるようだ。

 

その軍団の中にセーラー服姿の渡辺えりさんやシルビア・グラブさん、大和田美帆さんや室井滋さんがしれっと紛れてる。

 

そこからはいろんな時代、出来事が目まぐるしく変わり、

登場人物も役者さんたちが次々と何役も演じるのでちょっと混乱する。

ただ一つ変わらず出てくるのが水色のリボン。

それぞれの誰かの何かの証の象徴的なもののよう。

 

戦後の横浜赤レンガ倉庫

そこで生まれた子供の人生

 

関東大震災時の被服廠(ひふくしょう)跡地

震災で別れ別れになった恋人たちの行く末

 

同潤会アパートの取り壊しが決まり、そこに住む人々の様々な想い。

国の定めた公娼制度のもと、生きるために米兵に身をまかせざるを得なかった女性たちの悲しみやつらさ。

 

希望を託されたかのような海棠の木

 

前半でバラバラに起こっていた事件や出会いや別れが伏線になっていて、

休憩後の後半でそれが一気に回収される。

 

戦争や災害で失った大事な大事なものは計り知れないくらいたくさんで、

「失われた命」とか「愛する人との別れ」や

いつまでも残り続ける無念の思いとか、

踏みにじられた尊厳とか

信じられないくらいの切なさとか、

前半の一つ一つの場面でいろんなところに置かれたキーワードみたいなものが

むくむく起き上がってくるようで、わ~っとこみあげてくる思いが胸を打つ。

隣にいた感受性豊かな友人は号泣している。

 

こんな表現があるなんて、渡辺えりさん、すごい!

 

「霧」という文字を頭上に掲げた霧役のラサール石井さんは、

この日の夜に上演される「鯨の~」にも霧の役ででるらしい。

しかも、この「りぼん」の中の霧が「鯨よ~」の中での伏線になっているという。

 

夜の公演の残席がある、

リピーターチケットで割引がある、

とカーテンコールで渡辺さんがおっしゃる。

 

観たい・・・

 

でもさすがに昼夜それぞれに3時間くらいの舞台を続けて観る気力と体力(財力も)が無く、

二人で劇場を後にする。

 

渡辺さんは昨年最愛のお母さまを亡くされた、とのこと。

そんな思いもこの舞台に込められているのかもしれない。

 

感動が冷めやらず、

電車の中でひとしきりしゃべったのにまだ足りなくて、

地元の駅に着いてから駅前のサイゼリヤでまたしゃべる。

 

新年初観劇は想像以上の感動だった。

幸先のいい幕開けだ。

 

今年も楽しい舞台に巡り合えますように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【観劇メモ】天保十二年のシェイクスピア

2024年12月20日 | 演劇

【天保十二年のシェイクスピア】

作 井上ひさし

演出 藤田俊太郎

音楽 宮川彬良

2024/12/14 日生劇場

 

今回のこの観劇は4年前のリベンジだ。

2020年、翌日に観劇を控え、友人と待ち合わせの時間を決めた日の夜、

コロナ禍で公演中止となり、呆然としたものだ。

この日まで上演されていたのに・・・

 

再演のチケットがゲットできたので、

友人と二人、日比谷の日生劇場に出かけてゆく。

 

 

 

前回は、主役、「佐渡の三世次」は高橋一生さんが演じていたと記憶している。

今回は浦井健治さん。

 

江戸の末期、天保年間。

語り部である百姓隊の隊長役の木場勝己さんが、静かに語り始める。

 

「もしもシェイクスピアがいなかったら~~♬」

と言う出演者全員の歌声から舞台は明るく幕を開ける。

 

下総国清滝村(しもうさのくにきよたきむら)の二つの旅籠を仕切る父(中村梅雀)が

3人の娘に自分への孝行心を問い、一番父を大切に思いながらおべっかを使えない三女が追い出されてしまう、

と言うところから物語が始まる。

お?リア王?

と思っていたら、ころころとモチーフが変わっていく。

 

マクベスあり、

真夏の夜の夢あり、

ハムレットあり、

ロミオとジュリエットあり・・・

 

悲劇も喜劇も入り混じり、

悪党、三世次(リチャード三世?)の悪だくみによる

そこそこ残忍なシーンもあるけれど、

そこは井上ひさしさんの作品なので、

なんとなくカラッと明るくなってしまう。

私もそんなにシェイクスピアを知らないけれど、

シェイクスピアを全く知らないと楽しめないかも。

ちょっとだけでも知ってるととても楽しい。

 

どさくさで名前を呼ぶだけどか、名前が「まくべえ」とか、

タイトルをバサッと出すだけ、とか、

ウォーリーを探せ!みたいにくすっと笑える。

 

全作品が散りばめられてるってわかるのは、

最後の口上のとき。

 

木場さんの存在感がハンパない。

いい声だし。

浦井さんの色気と軽やかさ、

女性陣の男前な感じ、

皆さん生き生きと魅力的。

 

なんとなく見終わった後スッキリとした。

 

前回の高橋一生さんの三世次が観られなかったのは返す返すも残念だけど、

今回は今回でたっぷり楽しませていただいた。

 

さて、今回の観劇のもう一つの目的、

それは劇場を見ること。

 

建築家村野藤吾氏が設計したこの劇場は、

建築物としても見どころ満載。

 

今回は人が多くて写真をあまり撮れなかったので

2年前に劇場の無料見学ツアーに参加した時の写真を貼り付けます。

 

エントランスホール

 

大理石の階段

 

この近くにある螺旋階段

 

 

さらに上の階にあがる螺旋階段

とにかく階段が美しい

 

あこや貝の貝殻が貼り付けられた天井は圧巻

 

ガウディを彷彿とさせる曲線

この空間で観劇できる幸せをかみしめる。

 

古い建物が次々と消えていく中、

有楽町にある帝国劇場ももうすぐ無くなってしまう。

古き良き時代の贅を尽くした建物が消えていくのは寂しい。

 

地震国である以上、仕方ないのかもしれないが

この劇場はヨーロッパのようにいつまでも残ってくれるといいな、と心から思う。

 

ちょっとお高いチケットにもかかわらず、

ご一緒してくれた大学時代からの友人に感謝感謝!

 

そして私はこの後、上京した友人とお食事するために、

丸の内に向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今日いち-2024年12月15日

2024年12月15日 | 演劇
日生劇場で「天保十二年のシェイクスピア」を観劇。
演劇ももちろん面白かったけど、建築家村野藤吾氏が設計した劇場も見どころ満載。人が多くて写真があまり撮れなかったのが残念です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする