「こんばんは父さん」二兎社
作・演出 永井愛
2024/12/19 俳優座劇場
永井愛さんの作品が好き。
社会のどこかで起こっている、見過ごせないことを、
声高に糾弾するのではなく、淡々と、ユーモラスに描いて、
それでいてなんだか心にジワ~っと沁みる。
永井さんの公演は
東京芸術劇場の地下の劇場で公演されることが多かった気がするが、
この公演は六本木にある俳優座劇場。
今回の出演者は3人。
破産して行方をくらましていた町工場の経営者、風間杜夫さん。
投資詐欺にあい、エリート社員から転落して一家離散した息子が萩原聖人さん。
風間さんが借金をしている闇金業者が堅山隼太さん。
廃墟となった工場に風間さんが入ってくるところからはじまる。
梁には首を吊るかのような輪になった縄がぶら下がる。
その後を闇金が追ってきて、業を煮やして息子に電話する、と電話の音は工場の二階から聞こえる。
一流会社のエリートだったはずの息子が、何かやらかしたらしくうらぶれて潜んでいた。
町工場の腕のいい技術者でもあった父は、
日本経済を支えてきたという自負があり、プライドを捨てきれず、
家族を捨てたことを悪びれることもない。
父の理想を背負い、屈折して、道を踏み外す息子は父を憎み、
残されたまま逝ってしまった母を慈しみ憐れむ。
優しすぎる闇金は、組織への忠誠と恐怖でそこから抜けだせずにいて、
上からの指示どおりのきびしい取りたてが出来ずに右往左往。
3人とも善人なのにどうにもうまくいかない感じが切ないし、滑稽だし、残酷だ。
風間さん演じる父親は、調子に乗りやすくて、無責任発言を連発。
むかつくけれど憎めない。
根底では家族を愛しているけど、
現実から自分だけ逃げ出してしまった情けない感じがにじみ出ていて、
もうここから人生を挽回できないであろう悲哀を感じる。
個人的には闇金業者役の堅山さんがなんだかよかった。
ヤバい仕事に身を落としているのに、
人が良くて面倒見がよくて一生懸命な感じがとても自然だったし、
何ともユーモラスで救われる。
息子の萩原さんは、かわいそうだけどダメダメな感じが、
ああこういう人いるな~、とリアリティがある。
舞台上にはいなかったけれど、全部背負って早逝してしまった、
思い出として語られるお母さんが一番お気の毒。
だいたいこういうことって世の中のお母さんが背負ってる気がする。
それは決して美談ではないし、美談にしてはいけない。
かくいう我が家も、工務店を経営していた父親が
同じようなことをやらかして、姿を消していたことがある。
逃げたほうにも言い分はあるだろうし、苦悩はあったかもしれないが、
すべてを押し付けられ、すべてを失った家族はたまったものじゃない。
こういう話の最後は、この舞台上でもそうだし、テレビドラマでも何となくハッピーエンドになるけれど、
現実ではそうそう逃げた相手を理解して許してハッピーエンドにはなれない気がする。
そのあたりにちょっと違和感はあったけれど、
こういう現実がごろごろしていることを
淡々と伝える永井さんの舞台は、やっぱり面白い。
実はこの作品を2012年にも一度観ている。
私が初めて永井さんの舞台を観たのがこの作品だ。
【観劇メモ】こんばんは、父さん ~世田谷パブリックシアター~ - ゆるゆるらいふ
この時のお父さんは故平幹二朗さん。
大物過ぎる!
息子が佐々木蔵之介さんで
闇金業者が溝端淳平さん
この時もハッピーエンドに違和感を覚えていた
この時から12年余りがすぎ、
景気はあまりよくなっている気がしない。
これからの未来に
再生の希望は見いだせるのだろうか。