【太鼓叩いて笛吹いて】
作 井上ひさし
演出 栗山民也
2024/11/16 紀伊國屋サザンシアター
小学校から高校までを一緒に過ごした友人二人と観劇っていうのはこれが初めて。
一人は今年の夏の初めに北海道から横浜に引っ越してきた。
もう一人は、地元に残っているが、今回所用で上京した。
せっかくの機会だから観劇を、と言うことになり、
スケジュールが合い、チケットとれたのがこの舞台。
大竹しのぶさん主演の土日のチケットが
わりと直前に取れたのはラッキーだったと思う。
「林芙美子」といえば、森光子さんが舞台上で、「でんぐり返し」をしていた
「放浪記」があまりにも有名。
残念ながら私はこの舞台を観ていない。
「でんぐり返し」ばかりがクローズアップされて、なんだか興ざめしてしまった・・・
今回はすでにべ®ストセラー作家になっている林芙美子。
第二次世界大戦を経て47歳で心臓まひで急逝するまでの16年間を描いている。
売れっ子作家がゆえに、発した言葉の影響は大きく、
結果的に国民を戦争へと駆り立てることになってしまう。
外国の戦地を慰問し、戦況を知り、自分のしてきたことを悔いる姿が痛々しい。
きっと林芙美子が言わなくたって、誰かがそんな風に利用されていただろうに。
林芙美子を演じるのは大竹しのぶさん。
無邪気だったり、ちょっと高飛車だったり、
自分を悔いた後の険しさや悲しみだったりを、
クルクルと演じ分けるのがさすが!
林芙美子の母、キクを演じるのは高田聖子さん。
大竹さんよりずっと年下だけど、しっかりおばあちゃん。
コミカルに、シリアスなときはしっかりと重く、
林芙美子の「おかあさん」そのもの。
キクの行商の弟子(近藤公園さんと土屋佑壱さん)だった二人の変貌が恐ろしい。
純粋さが仇になり、時代にほんろうされ、みるみる洗脳されて、
戦争に異を唱える人たちを弾圧する側に回ってしまう。
戦後
「書かなくてはね、もっと書かなくては」と
市井の真実を書き続けた無理がたたって、命を落としてしまう。
47歳はあまりにも早すぎる。
オープニングでピアノ伴奏とともにみんなで歌う歌が、
その時は明るく聞こえたけれど、
最後に聴いた時は、同じ歌なのに深く重く響く。
とても重くつらく恐ろしいテーマだけれど、
井上ひさしさんの舞台は、なんだかすっと心に入ってきて、
希望のようなものが最後に残る気がする。
戦争を扱った作品は多いけれど、
渦中の市井の人々は、大変な中にあっても、明るくて、強くて、前を向いている。
こまつ座の作品を見た後は、顔が自然と上を向く気がするのだ。
たまたまだけど、
この日は井上ひさしさんのお誕生日なんだとか。
なので、会場には井上さんのお写真が飾られていた。
もっともっと長生きして、心に染み入る素敵な戯曲をたくさん書いていただきたかった。
観劇の前に、早めのランチをして、観終わった後はゆっくりお茶をして、感動を分かち合う。
高校を卒業してから、
それぞれにいろいろな出来事があり、
都度、なんとか乗り越えてきた私たち。
今、故郷から遠く離れた東京で、一緒に観劇できる環境にいられるなんて本当に幸せなことだ。
林芙美子の駆け抜けた人生を見て、
大切な人たちと一緒にいられる時間を
これからもたくさん作っていきたいとより強く思った。