ケラクロス第6弾「消失」
作 ケラリーノ・サンドラヴィッチ
演出 河原雅彦
2025/1/22 紀伊國屋サザンシアター
「ディストピアもの」だとご本人がおっしゃっている。
ディストピアってなに?
ググってみたら
ユートピアとは真逆の暗黒世界のことらしい。
ユートピアが「いまだ実現していない、理想の社会」を描くことで現実社会を批判するのに対し、ディストピアは「実現しうる、最悪の社会」を描くことで現実社会を批判している。
などと書いてある。
「実現しうる最悪の世界」ってめっちゃ怖い。
初演は2004年だという。
舞台上は始まりから何やら不穏な様子。
兄弟でクリスマスパーティの準備をしていて、
なんだか楽しそうなんだけど、何かがおかしい。
家はところどころ崩れ落ちそうだし、
お兄さんのチャズを演じる藤井隆さんは、
弟スタンリー(入野自由さん)にも他の人達にも、ものすごく優しけど目が笑ってないし。
闇医者ドーネンの坪倉由幸さんは、
脳が病魔かなにかに侵されていってるようで「言葉」を思い出せなくて、なんだかヤバい。
スタンリーに電極を付けて、記憶を消す、とか言ってるし。
弟スタンリーは年齢(おじさんの年齢)のわりに幼な過ぎて子供のよう。
スタンリーは一体人間なのか、ロボットかなにかなのか、っていう疑問も残る。
ホントは一度死んでしまったみたいなやりとりを、チャズとドーネン医師がしていたし。
スタンリーが想いを寄せるスワンレイク(佐藤仁美さん)も、間借りしたいとやって来たネハムキン(猫背椿さん)も何やら秘密を抱えてそう。
ガスの修理業者ジャック(岡本圭人さん)は実は諜報部員っぽいし。
スタンリーを愛し執着するあまり、彼が好きになった人たちを文字通り排除していくチャズの怖さ。
シリアス・コメディとケラさんがおっしゃっているようだけれど、
コメディっぽいのは前半の休憩まで。
後半はじわじわと背中がうすら寒くなってくる。
私は共産主義国の話のように感じた。
戦争が終わったような続いているような状況で、一般人の生活も制限されているようで、
現在も世界のあちこちで起こっている戦争の話のような気もするし、
月にあるユートピアに移住するはずが、打ち上げ失敗で行方不明になっているネハムキンの夫の話は、
かつてブラジルや北朝鮮に新天地を求めて大変な思いをした方々を思わせる。
諜報部員ジャックが「正義」とか「国」のために一般の人々の生活を監視して、
銃殺しちゃったりするのは、共産主義国のそれだし、
任務に燃えているのに急に国の体制が変わってお払い箱になるのは、戦後の日本のようだ。
登場人物はみんな「善人」なのに、
あんなに楽しそうにクリスマスの準備をしていたのに、
善意の掛け違いが破滅へとつながっていく様は、
背筋がざわざわする。
ラストに向かって、花火のような爆撃の音のような音とともに、
次々といろいろなものや人が「消失」していく。
現代社会のどこかで起こっているようなリアリティ。
10年以上前にこれを書いていたケラさんはすごい!
終ったあと、何とも重苦しい気持ちになったけれど、
これは現実に起こりうることなのだ、と納得のような気持ちにもなる。
後味はよくないけれど、見ごたえのある舞台だった。
5月のケラさんの舞台も抽選に申し込んでみた。
当たるといいな~