ゆるゆるらいふ

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【観劇メモ】地を渡る船  ~アチック・ミューゼアムと記述者たち~

2013年11月23日 | 演劇

脚本家 長田育江さんの主宰する劇団てがみ座から、公演のご案内をいただく。

この夏、市川海老蔵さんの自主公演、ABKAIのお手伝いをさせていただいたときに
窓口となってくださり、たまたまではあるが、お手伝い当日もご一緒させていただいた。

金子みすゞを主人公にした前回の公演では、本公演前の通し稽古まで見学させてくださった上に、
私が建築士であることを知ると、舞台装置のことまで細かく説明してくださった。
その節は本当にありがとうございました。

長田さんは、実在した人物の人生の中の数年間にスポットをあてて、脚本を書いてらっしゃる。

前回は金子みすゞさんが自らの命を絶つまでの2年間。
常に前向きでいようとした彼女が徐々に希望を失い、絶望の中に命を絶つ魂の叫びのようなものが
ひしひしと感じられる力強い作品だった。

今回の舞台は、財界人であり、民俗学者でもあった渋沢敬三氏が自宅に建てた博物館「アチックミューゼアム」。

「屋根裏の博物館」の意味。

なので、渋沢氏のお話しかと思いきや、地道な活動を渋沢氏に見いだされ、
研究のため自分の足で各地を歩いた研究者、宮本常一にスポットがあてられている。

昭和10年から20年夏、戦争中の不穏な情勢の中、スパイの嫌疑を掛けられたりしながらも、
ひたすらに「ただのひと」たちの生活を聞いて歩く常一と、それを支える家族、ほかの研究者、
渋沢家の人々や使用人たちの様子が、それはそれは丁寧に描かれている。

必ず現地に取材に赴く、という長田さんの脚本は緻密で、かつスケールが大きい。

常一が訪ねた島根の老人が、自分の父親が漁に出て遭難し、何年も色んな島を渡り歩いたことになぞらえて、
常一のことを「船のようだ」つぶやくのが印象的。

老人にそう言われて「積荷は全部焼いてしまった」となげく常一。

このとき、常一は、それまで10年かけて書き溜めた資料を戦争で焼失してしまっていた。

「もとから目に見えない積荷だ」と言う老人の言葉に、自分の身一つで積荷を届けねば、と決意する姿が神々しい。

終戦後、財産などすべてを没収される渋沢氏とともに歩き出す常一。

新たな未来を感じさせるラストシーンだ。


前作の中で、「心が道を照らす」という金子みすゞのセリフが心に残ったので、
ABKAIの時に、長田さんに聞いてみた。

あれは、金子みすゞがホントに言った言葉ですか?と。

彼女の詩の一節をヒントに思いついたセリフだとおっしゃる。

今回の登場人物たちも、民俗学、自分の環境、反戦への想いなど、さまざまな素敵なセリフを話す。

長田さんが現地や書簡を取材して、生まれた台詞なのだろうが、
想いを的確に表している感じがして、すっと胸に響いてくる。

この日は終演後、長田さんや演出をなさった方のアフタートークがあり、
苦労話などを聞くことができ、ちょっと得した気分

これからも、素敵な作品を書いてください。
次回作を楽しみに待っています
















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