「夢の裂け目」
作 井上ひさし
演出 栗山民也
新国立劇場
例え「戦争」などという信じられないようなひどい状況にあっても、普通の人たちは、それなりに折り合いをつけてたくましく生き抜いていく。
井上ひさしさんの目は、いつも庶民の側から普通の暮らしと、きれいごとではない感情を淡々と見つめている.
ただ、今回は、庶民にもちょっと厳しい目が向けられている。
国家の命令で戦争に突き進んでいったとはいえ、国民個人にも全く責任がなかったと言えるのか・・・みたいな。
昭和21年、紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉(段田安則さん)がある日突然GHQから呼び出しを受け、東京裁判の検察側証人になったことから、彼を心中も含めて取り巻く世界が変わっていく。
東条英機の戦争責任を問うための裁判の証人となった後の天声は、そのことで自分の名前が新聞に載ったことに気をよくして、自分の名前を探すべく、毎日しっかり新聞を読んでいくうちに、東京裁判のからくりに気が付いてしまう。
そのことを自身の紙芝居の最後に書き加えたことで、今度は彼が投獄されてしまう。
焼け残った東京の片隅で身を寄せ合って暮らしていた彼の家族や紙芝居の仲間たちもそれに巻き込まれ・・・。
子供のころに彼の紙芝居のとりこになり、彼に想いを寄せる検事(保坂知寿さん)の計らいで、権力に屈する内容の書類にサインを求められる。
そのときに湧き上がるそれぞれの「でも・・・」の気持ち。
天声の義父であり、紙芝居の絵師でもある清風先生(木場勝己さん)のセリフが心に響く。
「でも、でも・・・って思いながら生きていくのが生活なんだ」、と。
「それでも、毎日は楽しいんだから仕方がない」とも。
その通りだ、と思った。
色々な理不尽に自分の中の正義を通せないことは日常茶飯事だ。
けれど、それなりに折り合いをつけて生きている。
割り切れない思いはあっても、それでも毎日はそこそこ楽しい。
東京裁判で戦犯と言われる人たちにすべての責任をかぶせて、天皇陛下と国民を諸外国から守ることができたのかもしれない。
そうするための出来レースの裁判だったのかもしれない、と天声は思った。
でも、その思いを封印して、毎日を生きていく。
戦時中、こんなことをしていてはいけない、という思いを国民一人一人が思っていたのかもしれない。
命令なんだから仕方がない、と自分を納得させていたのかもしれない。
それに乗っかってやらなくていいことまでやったかもしれない。
でも、生き抜かなくては・・・。
パンフレットの表紙の裏にこんなことが書いてあった。
学問 それはなにか
人間のすることを
おもてだけ見ないで
骨組 さがすこと
舞台を最後まで見た後でもう一度読み返すと、深い。
井上ひさしさんの劇は、歌が入る音楽劇が多いけれど、今回はカーテンコールも歌いながら。
明るく楽しい歌とともに、出演者の紹介があり、客席も手拍子で盛り上がる。
やがて、少しトーンダウンして、
劇場は夢を見る懐かしいゆりかご
その夢の真実を考えるところ
その夢の裂け目を考えるところ
という歌に変わっていく。
最後の一節「その夢の裂け目を考えるところ」を繰り返しながらフェイドアウト。
じわ~っと心に染み入る。
この日一緒に行った友人は、観劇後の予定をしっかりと決めていたのだが、木場さんのセリフを聞いてすっかりどうでもよくなった、と言い出す。
私はこの観劇後、知人の絵の展示会をのぞいてから帰る予定だったが、一緒には行けないと言っていた彼女がやっぱり私も行く、と。
休憩時間に言っていたことといきなり変わっているのに驚いた。
なにか心に刺さるものがあったに違いない。
演劇が人の心を変える瞬間を目の当たりにして、ちょっと驚く。
ということで、私たちはその後銀座に向かい、展示会を見て絵の美しさに感動し、彼女が大好きな焼物の食器のお店に立ち寄りバーゲン情報を仕入れ、長野県のアンテナショップで買い物をして家に帰ったのでした。
作 井上ひさし
演出 栗山民也
新国立劇場
例え「戦争」などという信じられないようなひどい状況にあっても、普通の人たちは、それなりに折り合いをつけてたくましく生き抜いていく。
井上ひさしさんの目は、いつも庶民の側から普通の暮らしと、きれいごとではない感情を淡々と見つめている.
ただ、今回は、庶民にもちょっと厳しい目が向けられている。
国家の命令で戦争に突き進んでいったとはいえ、国民個人にも全く責任がなかったと言えるのか・・・みたいな。
昭和21年、紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉(段田安則さん)がある日突然GHQから呼び出しを受け、東京裁判の検察側証人になったことから、彼を心中も含めて取り巻く世界が変わっていく。
東条英機の戦争責任を問うための裁判の証人となった後の天声は、そのことで自分の名前が新聞に載ったことに気をよくして、自分の名前を探すべく、毎日しっかり新聞を読んでいくうちに、東京裁判のからくりに気が付いてしまう。
そのことを自身の紙芝居の最後に書き加えたことで、今度は彼が投獄されてしまう。
焼け残った東京の片隅で身を寄せ合って暮らしていた彼の家族や紙芝居の仲間たちもそれに巻き込まれ・・・。
子供のころに彼の紙芝居のとりこになり、彼に想いを寄せる検事(保坂知寿さん)の計らいで、権力に屈する内容の書類にサインを求められる。
そのときに湧き上がるそれぞれの「でも・・・」の気持ち。
天声の義父であり、紙芝居の絵師でもある清風先生(木場勝己さん)のセリフが心に響く。
「でも、でも・・・って思いながら生きていくのが生活なんだ」、と。
「それでも、毎日は楽しいんだから仕方がない」とも。
その通りだ、と思った。
色々な理不尽に自分の中の正義を通せないことは日常茶飯事だ。
けれど、それなりに折り合いをつけて生きている。
割り切れない思いはあっても、それでも毎日はそこそこ楽しい。
東京裁判で戦犯と言われる人たちにすべての責任をかぶせて、天皇陛下と国民を諸外国から守ることができたのかもしれない。
そうするための出来レースの裁判だったのかもしれない、と天声は思った。
でも、その思いを封印して、毎日を生きていく。
戦時中、こんなことをしていてはいけない、という思いを国民一人一人が思っていたのかもしれない。
命令なんだから仕方がない、と自分を納得させていたのかもしれない。
それに乗っかってやらなくていいことまでやったかもしれない。
でも、生き抜かなくては・・・。
パンフレットの表紙の裏にこんなことが書いてあった。
学問 それはなにか
人間のすることを
おもてだけ見ないで
骨組 さがすこと
舞台を最後まで見た後でもう一度読み返すと、深い。
井上ひさしさんの劇は、歌が入る音楽劇が多いけれど、今回はカーテンコールも歌いながら。
明るく楽しい歌とともに、出演者の紹介があり、客席も手拍子で盛り上がる。
やがて、少しトーンダウンして、
劇場は夢を見る懐かしいゆりかご
その夢の真実を考えるところ
その夢の裂け目を考えるところ
という歌に変わっていく。
最後の一節「その夢の裂け目を考えるところ」を繰り返しながらフェイドアウト。
じわ~っと心に染み入る。
この日一緒に行った友人は、観劇後の予定をしっかりと決めていたのだが、木場さんのセリフを聞いてすっかりどうでもよくなった、と言い出す。
私はこの観劇後、知人の絵の展示会をのぞいてから帰る予定だったが、一緒には行けないと言っていた彼女がやっぱり私も行く、と。
休憩時間に言っていたことといきなり変わっているのに驚いた。
なにか心に刺さるものがあったに違いない。
演劇が人の心を変える瞬間を目の当たりにして、ちょっと驚く。
ということで、私たちはその後銀座に向かい、展示会を見て絵の美しさに感動し、彼女が大好きな焼物の食器のお店に立ち寄りバーゲン情報を仕入れ、長野県のアンテナショップで買い物をして家に帰ったのでした。
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