こまつ座第88回公演・紀伊國屋書店提携『兄おとうと』を観た。(8月7日(金)紀
伊國屋サザンシアター。6時半開演)全席指定はほぼ満員、後ろの席が少しだけ空
いていた。
主人公吉野作造については、歴史の教科書(『現代の日本史A』)に次のように述
べられている。
東京帝国大学教授で政治学者の吉野作造は、1916(大正5)年に発表した評論
の中で、デモクラシーを民本主義と翻訳したうえで、民衆の意思にもとづき、民
衆の利益と幸福をめざした政治をすすめる必要があると主張した。彼の説く民本
主義は、藩閥、官僚、軍部などの特権的勢力による政治を批判し、議会中心の政
治を確立しようとする動きを方向づける指導理論となり、知識人をはじめ言論界
などで広い支持を集めた。・・・・・・大正時代を中心とするこのような新しい時代の
風潮は、のちに大正デモクラシーとよばれるようになった。
吉野作造には、信次という10歳違いの弟がいた。信次は農商務省の官僚から次官、
そして二度の大臣にまでなった人物である。(--この事実はまったく知らず。)
作造、信次の夫人は姉妹だった。(--これも無論知らなかった。)井上ひさし
は、両者の日記、自伝など膨大な資料を調べて、芝居にした。
吉野作造;辻萬長
吉野玉乃;剣 幸
吉野信次;大鷹明良
吉野君代;高橋礼惠
青木存義;小嶋尚樹(5役)
大川勝江;宮本裕子(5役)
ピアノ;朴 勝哲
プロローグ
一場 東京本郷の吉野作造の借家
二場 江戸川べりの料理旅館
三場 東京帝国大学吉野研究室
四場 本郷区駕籠町の吉野信次宅
五場 箱根湯本温泉の小川屋旅館
『兄おとうと』は3回目の上演である。初演は2003年。2006年の再演時に一場増え
て、二幕五場となった。鵜山さんは、2003年の『兄おとうと』等によって読売演劇
大賞/大賞・優秀演出家賞を受賞している。
ストーリーはあまり詳しく書かないが、兄とおとうとの国家観の違いからドタバタ
するというものだった。
6:35ピアニストの朴勝哲が舞台右そでに登場、序奏を弾き始めると舞台がいった
ん暗くなり、「プロローグ」が始まった。登場人物が「ときは明治と大正、昭和/
三つの御代の長いおはなし/寒さきびしい小さな町に/生まれ合わせた兄とおとう
と」と歌い始めた。出だしから音楽劇だった。
いくつかの場面で、官僚主義に対する批判・風刺のセリフが出てくる。しかし、そ
れがメインではなく、いやそれもさることながら作造と信次の「立場」と「肉親の
関係」のバランスが見事に演じられていた。
終盤のセリフ--「三度のごはん きちんと食べて 火の用心」にひきつけられ
た。五場は笑いの中にも涙、涙であった。(最近はいつも涙もろい!ハンカチを持
っていてよかった!) 9:35終演
総体としては、台本、演出、俳優が真に三位一体となった舞台!
まずは台本。井上ひさしの演劇はカタルシスへの道というよりは、基本的にはエン
ターテイメントである。しかし、単なるエンターテイメントではなく、そこに庶民
の目線が感じられる。
演出は、無論知らない世界だが、合唱の指揮と似ているのではないだろうか。最初
からこうあるべしと指揮する指揮者もいるが、合唱団とのやりとりを繰り返しなが
ら、小出しに要求をあげていくタイプもある。鵜山さんはおそらく後者のタイプで
はないだろうか。--難しい言葉は使わないけれど、それをじわじわと役者に納得
させて、演技させてしまうような。(当たっていないかしらん?)
演出家というのは、その稽古場に透明で風通しのよい「網」をなげかける漁師み
たいなものかもしれない。稽古場に集う人たちは様々な人生を背負っているし、
その日その時によってものの見方、考え方も当然ちがう。僕らが投げる「網」の
目は、作品のエッセンスをすくい取りながら、稽古場のみんなの息遣いを吸い込
んで、毎日その内容を更新していきます。
さてキャストは、辻、剣、大鷹、小嶋、が三度目、宮本、高橋が初めてということ
であったが、いずれもいい意味で安定しつつも新鮮な演技だった。全員立派な演技
だったが、個人的には剣と宮本のうまさと味に“感心”した。ピアニストの朴さん
にも拍手を送りましょう!
*公演は、今週も継続、8/16(日)まで。詳しくは→こちら 是非お運びください。
おすすめです。
なお、私は学生時代の合宿祭において、光栄にも鵜山さん(当時学生)の演出・演
技指導で「主演男優賞」を頂戴したことがある。
それにしても のりピーもね~。
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