仙台に帰ると金木犀の香り。いつもどおりなら、9月の末に香り始めるのだが、10日ほど遅いようだ。
山もどうなのだろう、朝の冷え込みがそれほどでもなく、紅葉の彩りも、あと1週間後あたりが見ごろのようだが、秋田焼山(1366.1m)の稜線付近はウルシやナナカマドの朱、カエデ類の黄が映えていたが、雨模様のためカメラをザックに仕舞いがちであったのが、心残り。
1984年から4年間在住していた青森県八戸から何度か通った八幡平周辺の山々だったが、その後、2007年ころに八幡平頂上から三ッ石山まで歩いたきりで、2020年のことし、八幡平を八幡平たらしめている点在する静寂な湿原や麓の湯けむりに霞む温泉地を訪ねるのは、30数年ぶりか。
秋色の広大な黒谷地湿原
湯けむりたなびく後生掛温泉
八幡平山頂から秋田側にくだって、後生掛温泉に宿をとった。日帰り温泉は、午後3時までとなっていて、宿泊客は、午後4時から翌朝9時まで自由に湯に入れるので、午後4時から1時間、夕食飲酒後寝ざめに午後9時から40分間、朝4時目覚め後20分間、なつかしの湯舟にドップリと浸かった。
まるで30数年前にタイムスリップしたかのように変わっていない浴場の構えと湯の感覚。熱すぎず温すぎず、浴槽の中では大浴場の「神経痛の湯」がちょっと熱い露天よりお気に入りだが、何と言っても「泥湯」が気に入った。泥が溶け出した温い湯に15分、少し火照った体に、お隣の打たせ湯で両肩、背筋、うなじ、頭頂部などをあて凝った血の道を解きほぐし、また「泥湯」に浸かって瞑想する。もう病みつきになって、「またここの湯に湯治に来よう」という気持ちになった。
翌日は、後生掛から秋田焼山を越えて、これまたなつかしの玉川温泉にくだる、今回の山歩きで想定7時間の最長コース。
見晴らしのいい「毛せん峠」からは、あいにく雨となってきたが谷筋はいい色づとなっていた。焼山は3度目か、標高わずか1300m少しだが、なにゆえ300名山にも推薦されないか、不思議になるほど新しい火山が作り出した稜線の景観の素晴らしい山だ。
そんなことを思いつつ、山頂からやや色づいたブナの森の眼下に見えた玉川温泉への下り道に歩みを入れた。コースタイム1時間50分。昼前だったので、午後2時前には着いて、玉川の湯をゆっくり懐かしもうと頭に描いて。
それが安易な想定だった。親切に背丈ほどもあるササ道を刈り払いしてくれたんだろうが、刈られた笹が道を埋め、凹凸を見いだせない状況で、ストックで地面を確認しながらの恐る恐るの下りに時間を要し、おまけに濡れていたものだから何度か滑り、尻もちをついた。刈り払い跡のササが竹やり状態の鋭角で突き出している箇所が何カ所もあり、下手すると串刺し状態にもなるかと恐怖のルートであった。
結局玉川温泉に到着したのは2時15分を周っていた。日帰り入浴は、午後3時までとの表示。懐かしむ余裕もなく、酸っぱい強酸性の風呂に体を沈めた。
おお、玉川温泉に流れる沢は、遠近に湯けむりをあげている。さすが、日本一の湧出量の温泉。ゆっくり入りたかったな。