30数年前、ある居合の先生
二人と居酒屋で飲んでいた。
お一人は私を可愛がってく
れた高齢の先生で、某県警
退職警察官で元刑事。退職
時の階級は警部だった。
この先生は戦時中は北支で
戦闘をしてきて、戦後は中
共と戦うために現地に残り
蒋介石の国民軍と合流して
戦争を続けた人だった。
国民党の軍の事を「正規軍」
と呼んでいた。
幅員したのは昭和23年頃だ
った。
だが、絶対反戦主義者。
戦後は右翼にも左翼にも与し
ないが、「左翼が言う反戦は
正しい。ただやり方が過激な
んはあかん」と言い切る元警
察官だった。
居合を通してとても私に目
をかけてくれた方だ。
いろんな戦時中の話や警察
官在職中の裏話エピソード
も私に教えてくれた。
歴史にも詳しい方で、古代
史について意見交換しなが
らの二人での毎週の飲み会
はとても面白かった。
私の学生時代の来歴も知っ
ていたが「そら学生やったら
やるやろ(笑」と言って達観
していた方だった。
いつも稽古帰りに「おい。
一杯やってくか」と私を誘っ
てくれた。(平成18年以前
は剣道や居合の稽古帰りに
道具を持ったまま酒席に参
加するのも連盟で禁じられ
てはいなかった)
今は鬼籍に入られた方だが、
本当に私の事をまるで息子
のように可愛がってくれて、
有難い存在だった。
もうお一方は当時現職警察
官の剣道と居合の高段者で
某県警に在職されていた。
その現職警察官の先生が、
悩み事を聞いてくれと私た
ちに言う。
「先生、どうされました?」
と尋ねると、自分には一人
息子がいる。それがどうにも
こうにもバイク好きなのはい
いのだが、暴走族なのだ。や
めろと言ってもやめる気がな
い、という。
先生は「マル走」と警察用
語で語っていた。
私ともう一人の退職警察官の
先生はなんだか苦笑いした。
そして私もその元警部も「別
によいのでは」「ええんちゃ
うか」と同じ発言をほぼ同時
にした。
現職警察官の先生は「だって
マルソーだよ、マルソー。困
ってるんだよ」と。
私が「江戸時代にも旗本奴や
町奴というかぶく者たちもい
たのだし、それ以前にはバサ
ラの武将たちもいたのですし」
と言うと元警部も「そう、そ
れなんよ」と相槌を打った。
「そういう見方もあるかぁ。
でもさぁ・・・」と現職警官
の先生は言う。
退職警官の元警部の先生は言
った。
「永遠に続ける訳やない一過
性のもんやろ。ほら暴力団
みたいなんになったらあかん
けどな。そのうちやめるやろ」
と。
「悪事に手を染めとる訳や
ないやろ?」とも。
すると現職警官の先生曰く、
「それはないみたいだけど、
いつも休みになると爆音バイ
クで走り出して行くんだよな
ぁ」と。
止めても叱っても爆音バイク
で出かけると言う。
元警部は言った。
「それ、単に単車が好きなだ
けちゃうん?」と。
だが、現職警官の先生による
と、音の大きい集合管でいろ
いろ改造しているとの事だ。
私もバイクに乗るので少し
そのバイクの仕様を聴いてみ
たら、それは走り屋仕様だっ
た。
でも、現職警察官の先生から
したら、それはかつての集団
暴走型暴走族と同じく「暴走
族」なのだと言う。マル走規
定。
警察組織はそう見做していた
という事だ。
私と元警部の先生は「それは
暴走族と違うのでは」と言っ
たが現職警官の先生は「同じ
だよぉ」と言って顔を曇らせ
ていた。
元警部の先生は「そら親とし
たら心配やろな。ま、一杯
いこか」と言って現職警官の
先生に日本酒を注いだ。
そりゃあ、悩む筈だよなぁと
も思った。
現職警察官の先生は某県警の
交通課に勤務していたからだ。
ただ、自分の立場上云々では
なく、子を思う親としての面
で悩み事を語っていたのが印
象的だった。
そして、改めて「警察では旧
来の暴走族も走り屋もどちら
も暴走族認定扱いなんだなぁ」
と感じたのだった。