ケン坊のこんな感じ。
キーボーディスト、川村ケンのブログです。




道を訊かれる。

祖母が生前、いわゆる「角のタバコ屋」をやっていたこともあり、僕も子供の頃に店番を手伝っている時などには、祖母の真似をして、「はいはい、それならあっち行って、こっち行って、グッ。」と、それなりにお答えしておりました。

・・・が。

大人になるにつれ、残念なことに、僕は自分が方向音痴なんだと気付きました。しかも、拍手を頂きたいくらい重症の。こちら、と思えば逆方向。じゃ、思った方と逆に行ってみれば。でも、それはやっぱり、逆方向。

何年か前、用事でちょっと郊外へ出た時のことです。ホームで帰りの東京方面行きの電車を待っていました。

すると、ひとりのおじいさんに、「あのぅ、私、横浜へ行きたいんですけど、こちら側の電車に乗ればいいですかね?」と、訊かれました。僕はその路線を使うのはその時が初めてだったのですが、まぁ、その位はね。

「はいはい。あ、でもこちら側は東京へ向かう電車なんで、横浜方面でしたら、反対側ですよ。」と教えてあげると、おじいさんは「あ、そうでしたか。こりゃあ、どうも。」と丁寧にお辞儀をして、ホームの反対側へ。そしてほどなく、東京方面行きの電車がホームに入って来ましたので、僕はそれに乗り込み、もう一度なんとなくおじいさんを見ると、あちらも振り返ってもう一度頭をちょこん、と下げてくれました。ぼくも頭を下げて、発車オーライ、出発進行 。「小さな親切できたなー。」

・・・まぁね。もう結末は見えてると思うんですが(笑)。

ドアが閉まり、電車が動き出すと、ほどなく車内アナウンスが「毎度ご乗車ありがとうございます。えー、この電車はー、横浜方面行き、急行列車でございます。」と、僕の小さな親切は、確実に大きなお世話、いや迷惑、詐欺、騙し行為であったことを告げます。

「・・・(は、はうぅ。よ、よこはまほうめん)」

・・・あとはただひたすら、あのおじいさんが乗る前に気付いてくれたことを祈るばかりです。いや、今でも、祈ってます。少なくとも、急行を一本逃させてしまったことは確かなのですが、せめてあれが最終電車じゃなくて、良かった(良くはないけど)。ほんと、ごめんなさい。以来、道を教えるときは、慎重にしてます、えぇ、極力

昨日、おばあさんと分かれた後、僕はやっぱり道に迷いました(笑)。ただね、別に目的地を設定して歩いていたわけではないので、「別に迷ってもいいや。最終的に誰かに訊けば。いきなり名古屋に出るはずもなし。」と思っていたので、もーまんたい。

気が付くと、さっきまでの畑の風景から、小さな町工場の立ち並ぶ町へ出てました。ガチャコンー、ガチャコンー、と何を造ってるんだかわかりませんが、機械の音があちこちから。こういう場所も生活感があって、いいものです

しかし、そろそろクルマを引き取りにいかなきゃだし、と、とある小さな工場でお仕事をしていたおじさんに、「あのー、すいません。ちょっと道をお訪ねしますが、○○通りの××って信号のところへ出たいんですけど、どっち方面でしょうか?」と訊ねました。すると、

「○○通り?うーん、××信号ね、そりゃ△△町のあたりかい?」

「いやー、すいません。僕、この辺りの地名は全然わからないんですよ。でも、そばにラーメン屋さんと松屋がありました(←僕の記憶対象はこんなもん)。」

「んー、・・・それだけじゃちょっと私もわかんないな。でも・・・××信号だよねぇ。」

「はいー。」

「うーん、じゃやっぱり、△△町の辺りだなぁ。・・・よし、じゃあ、その先に信号が見えるでしょ。あれを、シダリへ行って。で、それからあとはずーっとまっつぐ行ってみな。その辺りまで行ってわかんなかったら、またそこで誰かつかまえて訊いてみな。」大きな身振りを交えて、おじさんは教えてくれました。

「ありがとうございます。行ってみます。」と、お礼を言うと「いやいや。でも、そこまででいい?大丈夫?ごめんね。わかるかなー。そこ、シダリ、あとはまっつぐね。」「いえいえ。十分です。通りにさえ出られれば、あとは大丈夫ですから。」とお礼を言って、僕は教えてもらった信号を「シダリ」へ曲がりました。あとは「まっつぐ」でしたね(笑)。

「シダリ」「まっつぐ」・・・かぁ。あの人は、江戸っ子なのかな、なんて考えながら教えてもらった道を歩いていると、遠く後ろの方から声がします。振り返ると、さっきのおじさんが大声で叫びながら、走ってくるのが見えました。

「おぅーーーいっ!ねぇっ!ちょっとあんたっ!」

何事?何か落としたかな?と思っていると、おじさん、

「ちょっとちょっと。あんたの行きたいトコのそばに、マクドナルドが無かったかい?」

少し息を切らせながら、おじさんはそう言いました。マクドナルド・・・(・・・マルクナルゾ)。「・・・。あー!はい!ありました。マクドナルド!大きなのが(笑)。」

「あぁ良かった(笑)!よし、合ってる。じゃあ後はこのまま、ずーっとまっつぐいけばいいよ。じゃあね!」

 

・・・。

僕が最初に道を訊いたとき、おじさん、確か軍手を外しながら答えてくれてた。そして、いま走ってきたおじさんは、軍手をしていた。

ほんの2~3分の間。でも、あの後、一旦、仕事に戻ったんだ。そして・・・。

道を訊かれただけの見ず知らずの僕のために、わざわざ仕事を放って、走って、大きな声まで出して、呼び止めてくれたんだ

・・・教えた道が正しいか、確かめるために。

 

ああいう人を、親切な人というのだ。僕は、道端で大声で知らない人を呼んだことは、たぶん無い。ああいうことがサラッと出来る人に、僕もなりたい。走って仕事に戻るおじさんの後姿を見送りながら、そう思いました。うん、よし。じゃ僕もその時のためにも、

 

・・・とりあえず、この方向音痴は何とかしとかなきゃなー。もう何ともならんかなー(笑)。

ありがとうございました。お蔭様で、無事に辿り着きました

ではー。



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