ケン坊のこんな感じ。
キーボーディスト、川村ケンのブログです。




「ちょっとすいません。そこのあなた。」

電車の中で、声がしました。

僕も座っていたのですが、扉とひとつ挟んだ並びからだったので、声の主の顔は見えませんでした。

「携帯、やめてもらえますか?」

そう言われていたのは、乗り込んできたばかり様子のサラリーマンらしき人。その声の主のすぐそばに立って、携帯を出したところだったようです。

そして、優先席に座っているらしい声の主は、こう言いました。

「いのちつけてるから。」

「(あ、心臓ペースメーカーをつけていらっしゃるのか)」と、意味はわかりました。でも最初僕は、その方がなんて言ったのか、わかりませんでした。なんとなく日本語の並び違和感を感じたせいでしょう。

「いのちつけてる」、って、変わった言葉使いだな、って思ったんです。

電車には駅ごとに、次々に人が乗り込んできます。そして今の時代、電車に乗ったら携帯ターイム、という人が多いですよね。メールチェックに、調べごとに、ゲームに、と。

その方は、その度ごとに、結構に大きな声で、「ねえ、そこの方。携帯、やめてもらえますか?いのちつけてるから。本か新聞にして下さい。」と、言うのです。

 

言われたほうはどうでしょう。

無言でその人をチラリとみて、なんとなくムッとしたような表情で携帯をパタン!と折りたたんだ中年の人。

「あ、はい。」と声に出して、そっと携帯をしまった女性。

ヘッドフォンをしていて聞こえなかったのでしょう、なんどか声の主が「あなた、あなた!やめて下さい!」と言っているのに、気付かずに携帯をいじり続けている若者もいました。すると、脇に立っていた女性がその若者の肩を叩き、「あなた、心臓の悪い方が乗ってるから、その携帯」と声をかけていました。

そう、その若者が一番ちゃんと・・・どういうのが「ちゃんと」っていうのか分かりませんが、とにかく、対応としては素直な態度だったように見えました。「え?僕ですか?・・・あ!・・・すいませんでした」と言って、その人に頭を下げてました。

でも、乗っている僕らは解っているけれど、本当に駅ごとにどんどん乗ってくる人は、当たり前のように次から次へと携帯を出します。

 

その声の主の言い方には、「申し訳ないんですけど・・・やめてもらえますか?」といった表情は読み取れませんでした。どちらかというと、少しキツいというか、何かこう、少し苛立ったような声の感じにすら聞こえました。「あー、もう!みんな、いいかげんに」とでも思っているのかも、と受け取れるような。

最初は、人に何かお願いするにしてはちょっとトゲを感じる言い方だなぁ、と思いましたが、これは・・・すぐに無理もないよな、と思いなおしました。

 

だって、僕たちには「たかが携帯」が、その人にとっては、・・・命に関わることなんだもの。

 

そして、「車内には心臓ペースメーカーの着けている人がいらっしゃる可能性があるから、優先席付近では携帯はご遠慮下さい。」って、ちゃんとアナウンスしているんだもの。

今日が、そういう方を実際に車内で見た初めての経験でした。先の声の主は男性で、結局お顔は見ませんでしたが、声の感じからして、歳のころ、5~60歳といった感じでしょうか。

でもね、いくら命に関わるとはいえ、ああして人前で大きな声に出して言えない性格の方だって、きっと沢山いらっしゃるんだろうな、とは容易に想像ができます。とあるペースメーカーを着けていらっしゃる方が、「電車や人ごみが怖くて、とてもじゃなけど街に出られない」と言っていらっしゃるのを、いつだったかテレビで見たことがあります。

 

街を歩いていて、携帯で、殺されるかもしれない、ということですよね。

逆に言えば、僕たちは、例えば電車に乗っていて、携帯で、人を殺してしまうかもしれない、ということですよね。

 

僕も、いつもではないですけれど、電車の車内で携帯を出すことがあります。

よくよく注意せねばな、と考えさせられました。そして、せめて優先席付近では、もう二度と出すのはやめよう、とも。

 

「いのちつけてるから。」

ペースメーカーは、まさにその方にとっては、いのち、なんですよね。そして、そのいのちを奪う武器に、携帯がなりかねないということですものね。

 

 

そんなことがあって、今日の車内では珍しい光景がみられました。

その車内では、見渡す限り、誰一人携帯を出していないのです。・・・まるで、携帯なんてこの世に無いかの様。

本を読む人、雑誌を読む人、中吊り広告に目をやる人、隣の人とおしゃべりをする人、手を繋いで外を見ているカップル、じっと目を瞑っている人、

 

・・・本を片手にはしているけれど、そんな車内をちょろちょろと観察している、僕(笑)。

 

なんか、懐かしいというか(僕が20歳ころまでは本当に携帯なんて無かったですからね(笑))、とっても良かったですよ。

どこか、のんびりといいますか、むしろ豊かな時間にすら見えた、というか。

この齷齪(あくせく)した時代では珍しくなってしまった光景、なんだか、ホッと安心する感じがしましたよ

 

ではー。



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