遺体になった姉に「着物を着せてほしい」と私たちは頼んだ
おくりびとは躊躇なく「分かりました」
葬儀屋が用意したのは化合繊の帷子だった
着物生活をしていた姉にそれを着せるのは忍びがたい
彼女が米寿のときのお茶会に
お祝いとして私がデザインして贈った着物を着せることになった
藤色ピンクの地色に桜の花びらが散っている
花びらの間に叩きで表現した川
3月生まれの姉にはピッタリの柄。しかし私のその着物の主題は
西行の、願わくば花の下にてわれーーのイメージ
元気な姉には言えない
「綺麗ねちょっと華やかすぎる気もするけどありがとう」
と気分良く袖を通してくれた
また皆さんの評判も上じょう
「比佐子おばちゃんが贈った着物にしよう」と衆議一決
「私狙っていたのよね、あの着物」と孫娘
下着から長襦袢着物とおくりびとは手際よく着せていく
私たちは座ってその手元を凝視
感動的な手際、この仕事の重要性をはっきりと認識する
最後の足袋を履かせるところは神業
「死後硬直が緩やかな方なので着せやすかったです」
心から感謝の気持ちをおくりびとに捧げる
そして火葬場
焼かれた骨が出てきたとき
火葬場の方開口一番
「94歳の方の骨とは思えません。しっかりとしてつやつやしています。いいご生涯だったのですね」
「絹のチ・カ・ラ」
もちろん姉は薬もサプリメントも飲んでいなかったけど
それでも
「絹のお力」お蚕さん有難う