お茶お花、日舞,仕舞、三味線などの音曲、バレエや音楽鑑賞などなど、厳しく鍛えられた「げい」の走りの「こけしさん」
上場企業社長に連れられて、彼の店に行き数少ない女友達として認めてもらっている
小説家や政治家、もちろん一流企業の経営者しか行けないバーだった。兄弟だったらどちらか一人しか店に入れない、お客の吟味も厳しい店だった
こけしさん一人でひと癖も二癖もある男たちを相手に、まるで一人芝居の役者のようにふるまっていたし、その話題たるや深くて面白い、気の利いた粋な言葉が飛び交う。名前を挙げれば「ああ」という方ばかりが集まっている社交場でもあった
あまりにも面白いのである時女友達を連れて行ったら
「比佐子ちゃんここは女が来る店ではないの、連れて帰って頂戴、あんたはいいから戻ってきて」
(うん?わたちはおんなあつかいでない!)
当時彼は家賃100万円はするところに住まわせてもらっていたし、フアーストクラスでパリに行ったり来たりと
「人のお金を湯水のように使っていたわね」
そのこけしと何年振りかにぱったり「バス停」で会う
都内の図書館巡りにシルバーパスを使って動いているのだという
「笑っちゃうわ」
「でしょう?人生はプラスマイナスゼロにしないとあちらの世界に行けないのよ」
「そうなの?清貧を貫いているわけ?」
「あたりまえでしょう?今更だけどまさしくあぶく銭で生活していたということがよくわかる、社会にたいしてきちんとお返ししなければね」
それで資格を取って身障者の生活お手伝いをしているのだそうだ
「貯金していたの?」
「お人の金よ貯金なんかするわけないでしょう?」
「極端から極端ね」
あれだけ好きだった本も図書館で読むようになって、家の中に空間できたと言ってあかるく笑う
物を持たない生活、お金を頼りにしない生活、何でも自分で生み出す生活
「これこそが本来の人間の生き方なのよね」
「超浪費生活をしていたこけしが言うと説得力あるね」
それにしても「眼力」は衰えてはいなくて、あの人この人のこけし節がとどまることなく、バスの中で笑い転げていたら。老年の男から睨みつけられて、少年少女のように二人とも首を縮めてくすくす笑っていた