機能性ディスペプシアという疾患があります。
※NHKテキスト「きょうの健康2021年8月号参照
胃の組織自体には異常がなく、他にも疾患が見当たらないのに、胃の機能がうまく働かなくなるという症状です。
(ディスペプシアとは、ギリシャ語で消化不良という意味)
胃には3つの機能があります。
1.口から入った食べ物をためる。
2.蠕動運動(波打つように動く)によって食べ物と胃液を混ぜ合わせて粥状にする。
3.粥状にした食べ物を十二指腸に送り出す。
胃の機能が低下してうまく働かなくなると、以下のような症状が現れます。
・食べ物をためることができない→早期満腹感
・胃から十二指腸に食べ物を送り出さず、胃内に食べ物が長くとどまる→胃もたれ
・胃の知覚過敏があり、胃酸の分泌や胃の動きを強く感じてしまう→胃の痛み、しゃく熱感
これらの症状が特に食後に起こることが最近分かってきたようです。
機能性ディスペプシアは、以前は慢性胃炎、神経性胃炎と言われていました。
胃自体には炎症などはないので、気のせいとされることが多かったようですが、日本では10人に1人の割合で患者さんがいるそうです。
私は10代のほとんどの時期を胃の痛みを抱えながら過ごした経験があります。私自身の強い希望で胃カメラもしましたが、胃の組織には異常が見当たらず。当時のかかりつけ医からは神経性胃炎でしょうと言われていました。もし今だったら、機能性ディスペプシアと診断されていたかもしれません。
機能性ディスペプシアの原因は自律神経の乱れと考えられています。
自律神経は自分の意思でコントロールできません。また、恐怖や不安や危険などに敏感で、強いストレスがかかると自律神経が乱れて胃の動きは止まったり、胃の知覚が敏感になったりします。
以上のようなことから、自律神経の乱れが機能性ディスペプシアを引き起こすとされています。
命に関わる病気ではないものの、生活の質には大きく関わります。
運動機能の異常と知覚過敏を改善する治療として、以下のような薬が用いられます。
・運動機能改善薬:アコチアミド
・漢方薬:六君子湯
・胃酸分泌抑制薬
また、生活習慣の改善も欠かせないとされています。
機能性ディスペプシアの患者さんはストレスを強く感じていたり、睡眠不足、胃の不調のため朝食を食べらないといったことも問題になります。
・夜更かしせず十分な睡眠を摂る。
・決まった時間に起きる。
・胃そのものに異常がないため好きなものを食べていいが、食べ過ぎや早食いは避ける。
・温度差は自律神経を乱すため、冷房などで体を冷やさないようにする。
・タバコは交感神経を高ぶらせるため、喫煙を控える。
以上のような対策を取ることが大切になります。
治療のポイントとしては信頼できる先生を見つけることが大切で、患者さんの話を聞いてきちんと説明してくれる医師を見つけることが治療の第一歩とも言われています。
機能性ディスペプシアについて調べていると、この疾患には鍼灸がよく効くのではないかと思いました。その疾患名を患者さんから伺って治療したことはまだありませんが、胃の痛みや胃もたれなど、機能性ディスペプシアに見られる症状を治療する機会は多いです。
特に当院で行っているような全身の状態を診た上で鍼灸治療の場合、患者さんのお話を細かく伺うことでより良い治療をすることが可能となります。
投薬に関しては病院にかかることが必要になりますが、生活習慣の改善に関しては鍼灸治療でお手伝いできることがたくさんあります。鍼灸治療は自律神経の調整を得意とするため、生活習慣の改善をすることすらままならないような方でも、それが自分の力で行えるような身体づくりをしていくことができます。
私自身も症状が出ていた頃は毎日胃の痛みに悩まされて本当に辛かったです。
かかりつけ医からは服薬の必要がないと言われていたので、症状に対してなす術がなく、それ自体がストレスになっていたような気もします。
当時の自分を今の自分が治療するなんてことはもちろんできないですが、かつて自分が経験したような痛みに対してどのような治療がより有効となるか、そんな視点でも治療方法を考えています。
胃の不調を感じる度に市販の胃薬を飲んでいる方、医師の診察を受けても特に原因が見当たらなかった方には、ぜひ一度鍼灸治療を検討して頂けたらと思います。