道内出身研究者ら 近く臨床試験
膠原病などの代表的な治療薬ステロイド剤の副作用の一つで、筋肉が衰える筋萎縮の原因を遺伝子レベルで解明したと、東大医科学研究所の田中広寿准教授=日高管内新ひだか町出身=と吉川賢忠助教=江別市出身=らのグル-プが、米科学誌セル・メタボリズムの電子版に発表した。筋萎縮を防ぐ新たな治療法として、その有効性を確認するため、同研究所付属病院で近く臨床試験に入る。
筋萎縮は、患者自身が副作用と気付かないなど、これまで実感把握が不十分だった。しかし、筋力が衰えると、転倒・骨折などの危険が増し、病床生活が長引いて、さらに筋力が衰える-といった悪循環に陥る可能性も高く、新たな治療法に患者団体「全国膠原病友の会」(東京)が期待を寄せている。筋萎縮は、ステロイド剤の成分であるホルモン(グルココルチコイド)の副作用により、筋細胞内でタンパク質の合成と分解のバランスが崩れた際に起こる。田中准教授らは、独自開発した遺伝子探索法で複数の遺伝子が筋萎縮に関連していると突き止めた。これらの遺伝子は、タンパク質や、ヒトが体内で合成できない3種類の必須アミノ酸(BCAA)の分解を促進する。これに対して細胞内のBCAA濃度を高めると、タンパク質の合成が促される一方、分解は抑えられ、筋萎縮が改善することがラットの実験で明らかになった。BCAAは、筋力増強を目的としたタンパク質性食品やスポ-ツ飲料などにも含まれ、これらを筋萎縮患者の治療薬として応用する。臨床試験では、患者に一定条件で BCAAを服用してもらい、筋力の回復効果を調べる。田中准教授によると「糖尿病など、他の疾患に伴う筋萎縮でも有効な可能性がある。また、今回の遺伝子探索法は、他の臓器の副作用の克服にも応用できる可能性がある」という。