恐怖の記憶 弱める部分特定
北大研究グル-プマウス実験で確認 新薬開発に期待
北大大学院医学研究科の渡辺雅彦教授らのグル-プが、マウスの実験で、大脳の感情を制御する部分に、「脳内マリファナ」と呼ばれる物質をつくって恐怖や不安の記憶を薄れさせる「シナプス(神経細胞の接合部分)」があることを突き止めた。人間でも同様のシナプスがあるとみられ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の新薬開発につながる可能性がある。
米科学アカデミ-に発表した。恐怖の記憶には大脳の奥にある「へんとう体」がかかわり、その記憶が薄れるには麻薬と似た成分の脳内マリファナと呼ばれる物質「内在性カンナビノィド」が働いていることが分かっていたが、その物質がへんとう体のどこで作られ、どのように反応しているかは未解明だった。渡辺教授らはレ-ザ-顕微鏡などを使い、マウスの脳の神経細胞やシナプスを解析。へんとう体に神経細胞が食い込んで接合している珍しい形のシナプスがあることを発見した。 このシナプスを分子レベルで観察したところ、脳内マリファナを合成する酵素や脳内マリファナに反応する分子などが集中して存在していた。酵素を刺激してマリファナを発生させた実験では、恐怖の記憶に特有の脳内の電気反応が減った。哺乳動物では大脳の部位ごとの働きはほぼ同じで、人間でも同様の機能があるとみられる。 渡辺教授らは「脳内マリファナの発生や分解をコントロ-ルできれば、恐怖の記憶を弱められる可能性を示すことができた。臨床研究が進めば、将来的に人間のPTSDの治療にも役立てられる」と話している。
心的外傷ストレス障害(PTSD) 事故、災害、犯罪、虐待などのショック体験後、1ヵ月以上続く心身の病的反応。体験を鮮明に思い出すフラッシュパックや悪夢のほか、感覚のまひや不眠などの症状もある。通常は時間の経過で記憶は薄れ、反応も落ち着くが、ストレスへの反応が強い人や子どものように自我が未発達な場合、症状が重くなるケ-スもある。