万引きGメン―正式名称は、私服保安員―の研修期間は、異様に長い。
ひとりで店を任されるようになるまでには・・・
早いひとでも半年、遅いひとでは3年以上を要する。
そりゃそうだ、警官でもない「一般人」が現行犯逮捕し、ソイツを犯罪者にしてしまう職業なのだから。
自分は八王子の小さな警備会社に在籍していたが、研修場所は秋葉原だった。
敢えて偏見の強い表現をするが、いろんな不審者が居るため、様々な事案が起こり、研修場所として理想的な街なのである。
美少女ゲームのパッケージを手に取りながら、もういっぽうの手でナニをナニしているキチガイが居た。
店の外から指示を送り、妊婦の嫁に万引きさせる鬼畜旦那が居た。
(逮捕されたとしても、妊婦だから情状酌量っぽくなるのではないか・・・という発想からの犯行である)
女子店員に一目惚れをし、彼女の手を放さないジジイが居た。
(「保安」員だから、そういう事案にも対処する)
遊ぶには面白い街だと思う。
ユニークなものが売っているし、メイドは可愛いし、東京のなかでも六本木とかとは「別のベクトルで」自由度が高く、何時間居ても飽きないことはたしか。
けれども。
自由度が高いことの代償か、「秋葉原通り魔事件」(2008年)が起こる「前から」不審者の出没も多かったのだ。
研修2日目―。
電化製品からゲームソフト、フィギュアまで扱い、秋葉原地域だけで何店舗も展開する「ソフマップ」の警備。
自分は1号店から、先輩は8号店から警備を始め、真ん中で合流、そこで昼食を取り情報を交換し合うという流れ。
先輩には「なにがあっても、ひとりで勝手に行動しようとするな。犯行を目撃したら、すぐに俺に連絡しろ」といわれていた。
・・・のだが、1号店の警備を始めてすぐに浮浪者風の男の万引き現場に遭遇し、男はもう店の外に出てしまっていた。
8号店に居る先輩に電話をかけても、間に合うわけがない。
もういいや。
犯罪者を取り逃がすより、先輩に怒られたほうがマシだろう・・・と考え、男の肩をつかんで声をかけた。
「分かりますよね」
これ、自分が決まって「声かけ」に使用していた台詞である。
「あん?」
と返されたので、もういちど丁寧にいってみた。
「なぜ声かけられたのか、分かりますよね」
これでシラを切るようであれば強く出てみるが、男は、
「・・・あぁ」
と返し、罪を認めたので、男のベルトを掴んだ状態で先輩に電話をした。
「え! 捕まえちゃったの!? なんでまた・・・」
「すいません、先に連絡する時間がなかったもので」
万世橋警察署(トップ画像)の、待合室にて―。
先輩はぽつりと、「ヌケガケしやがって・・・」といった。
・・・・・。
いやいや。
まぁ、分からないでもない。
長いことGメンやってみて気づいたが、この職業もまた「成績がすべて」なのである。
営業職のように、事務所の壁に成績をグラフ化したものが貼り出される。
成績が悪ければボスから小言をいわれるし、また、店のほうからも「あのひとはNG」などと指名拒否されてしまうのだった。
それはともかく。
取調室が、なんだか騒がしいぞと。
警官がひとり、「新聞紙持ってこい!!」と叫んでいる。
いかつい警官たちが何人もワチャワチャし始めたので、気になって取調室の前までいってみた。
「おい、コイツ連れてきたの君たち?」
「えぇ、まぁ・・・」
「いきなりクソもらしたぞ!!」
「えっ」
「君たちさぁ、もうちょっとマシなヤツを捕まえてきてくれよ」
・・・って、知らんがな!!
犯人が取調室で、クソをもらした―というインパクトを前に、研修2日目の大仕事が「完全に」負けてしまった。
ガッデム!!
でも、まぁいいか。
これはこれで大きな経験であったし、なにより、ちょっと拗ねていた先輩が自分と顔を見合わせて「笑ってくれたから」ね。
おわり。
※秋葉系格闘家といえば自演乙だろうが、もうちょっと活躍出来ると思っていたのだけれどもね。
対日本人とであれば結果を残せる、しかし・・・といった感じかな~。
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『柔肌に絆創膏』
ひとりで店を任されるようになるまでには・・・
早いひとでも半年、遅いひとでは3年以上を要する。
そりゃそうだ、警官でもない「一般人」が現行犯逮捕し、ソイツを犯罪者にしてしまう職業なのだから。
自分は八王子の小さな警備会社に在籍していたが、研修場所は秋葉原だった。
敢えて偏見の強い表現をするが、いろんな不審者が居るため、様々な事案が起こり、研修場所として理想的な街なのである。
美少女ゲームのパッケージを手に取りながら、もういっぽうの手でナニをナニしているキチガイが居た。
店の外から指示を送り、妊婦の嫁に万引きさせる鬼畜旦那が居た。
(逮捕されたとしても、妊婦だから情状酌量っぽくなるのではないか・・・という発想からの犯行である)
女子店員に一目惚れをし、彼女の手を放さないジジイが居た。
(「保安」員だから、そういう事案にも対処する)
遊ぶには面白い街だと思う。
ユニークなものが売っているし、メイドは可愛いし、東京のなかでも六本木とかとは「別のベクトルで」自由度が高く、何時間居ても飽きないことはたしか。
けれども。
自由度が高いことの代償か、「秋葉原通り魔事件」(2008年)が起こる「前から」不審者の出没も多かったのだ。
研修2日目―。
電化製品からゲームソフト、フィギュアまで扱い、秋葉原地域だけで何店舗も展開する「ソフマップ」の警備。
自分は1号店から、先輩は8号店から警備を始め、真ん中で合流、そこで昼食を取り情報を交換し合うという流れ。
先輩には「なにがあっても、ひとりで勝手に行動しようとするな。犯行を目撃したら、すぐに俺に連絡しろ」といわれていた。
・・・のだが、1号店の警備を始めてすぐに浮浪者風の男の万引き現場に遭遇し、男はもう店の外に出てしまっていた。
8号店に居る先輩に電話をかけても、間に合うわけがない。
もういいや。
犯罪者を取り逃がすより、先輩に怒られたほうがマシだろう・・・と考え、男の肩をつかんで声をかけた。
「分かりますよね」
これ、自分が決まって「声かけ」に使用していた台詞である。
「あん?」
と返されたので、もういちど丁寧にいってみた。
「なぜ声かけられたのか、分かりますよね」
これでシラを切るようであれば強く出てみるが、男は、
「・・・あぁ」
と返し、罪を認めたので、男のベルトを掴んだ状態で先輩に電話をした。
「え! 捕まえちゃったの!? なんでまた・・・」
「すいません、先に連絡する時間がなかったもので」
万世橋警察署(トップ画像)の、待合室にて―。
先輩はぽつりと、「ヌケガケしやがって・・・」といった。
・・・・・。
いやいや。
まぁ、分からないでもない。
長いことGメンやってみて気づいたが、この職業もまた「成績がすべて」なのである。
営業職のように、事務所の壁に成績をグラフ化したものが貼り出される。
成績が悪ければボスから小言をいわれるし、また、店のほうからも「あのひとはNG」などと指名拒否されてしまうのだった。
それはともかく。
取調室が、なんだか騒がしいぞと。
警官がひとり、「新聞紙持ってこい!!」と叫んでいる。
いかつい警官たちが何人もワチャワチャし始めたので、気になって取調室の前までいってみた。
「おい、コイツ連れてきたの君たち?」
「えぇ、まぁ・・・」
「いきなりクソもらしたぞ!!」
「えっ」
「君たちさぁ、もうちょっとマシなヤツを捕まえてきてくれよ」
・・・って、知らんがな!!
犯人が取調室で、クソをもらした―というインパクトを前に、研修2日目の大仕事が「完全に」負けてしまった。
ガッデム!!
でも、まぁいいか。
これはこれで大きな経験であったし、なにより、ちょっと拗ねていた先輩が自分と顔を見合わせて「笑ってくれたから」ね。
おわり。
※秋葉系格闘家といえば自演乙だろうが、もうちょっと活躍出来ると思っていたのだけれどもね。
対日本人とであれば結果を残せる、しかし・・・といった感じかな~。
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明日のコラムは・・・
『柔肌に絆創膏』