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◎2020年10月9日(金)
松川温泉駐車場(6:15)……松川大橋コースとの合流点(7:13)……三ツ石山荘(7:54)……三ツ石山(8:30)……三ツ沼(9:07)……1447.9m三角点(9:18)……小畚山(9:43)……大深岳(10:45)……源太ヶ岳(11:40)……大深山荘からの道合流(11:58)……水場(12:21)……松川温泉(13:28)
※あくまでも各スポットへの到着時刻で、休憩タイムは相応にとっている。
かなり前というか、20年は経つだろうか、八幡平の「裏岩手連峰縦走コース」を歩いてみたいと思っていた。昨日車を置いたレストハウスからスタートし、畚岳、諸桧山、嶮岨森、大深岳、三ツ石山を経由して松川温泉に下るコースだ。松川温泉からは八幡平に路線バスで戻ることになる。ここ数年前から改めてその気になって調べると、松川温泉からのバスが午前中の一本だったかで、三ツ石山荘(山荘とはいっても避難小屋)か松川温泉の宿に泊まるしかなかった。これを逆歩きしても同じ。結局は、いつかはと思いながらで、そのままで終わっていた。
そのコースの一部でもと歩いたのは、前記事でも記したが、三年前の畚岳から嶮岨森区間で、その時はせめて大深岳まで行きたかったが気力でくじけた。今回は、気持ちの上ではその延長になる。南側の松川温泉から三ツ石山、大深岳の周回。『山と高原地図』のコースタイムでは8時間半になっている。三ツ石山だけを登るのなら、網張温泉からリフトを使う手もあるが、これとてピストンながらも5時間は歩くことになる。どうせ行くなら周回しか想定していない。
まぁ、そんなコースを設定したわけだが、関東の天気は知らないが、東北のこの日は、台風14号接近にも関わらず、移動性高気圧の影響で秋晴れという予報で、晴天は保証されている。
駐車場には車が10台ほど。準備中の方もいる。あと数台の駐車余裕はある。皆が三ツ石山方面とは限らない。現に、32年前、自分はこの駐車場から岩手山に登っている。横道に逸れるが、その時、高速代がもったいなく、ずっと4号線を北上し、松尾八幡平インターの手前の滝沢ICから東北道に入り、すぐの岩手山PAで車泊した。松尾ICから出る際、料金徴収のオジサンに怪訝な顔をされて何で?と聞かれたことを覚えている。40kmもない一区間の出入りに6時間ほどかけたのだから当然だろう。当時は、長距離トラックの高速通行券の交換も流行っていた。あの頃は、まだ無茶なこともできたが、今は温泉付きの宿泊まりに成り下がってしまった(むろんGo To の恩恵を利用してのこと)。しかも、高速代をケチるのは県内の移動だけ。今の方が当時よりも金銭的には恵まれていないのだが。
今日は地下タビにした。特別な理由はない。長時間歩きになりそうだし、理由は不明だが、ワークマンでまた足の爪が出血したのではかなわない。地下タビでこれまでそういうことはなかった。ワークマンもいいが、自分には、ロング歩きには地下タビの方が身体の一部になりきってくれて歩きやすい。
(地熱発電のパイプか)
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(三ツ石山登山口)
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駐車場から先の三ツ石山登山口までどう行くのかはしかとは知らない。標識もない。駐車時の前には左右を通る車道と、突っ切って右下に下る道があり、それは松川荘に至る道だ。地図を見ても方向感覚がずれていてよくわからない。左から駐車場に入り込んだから、右は松川大橋に至るのだろうと、ここは道を渡って、松川荘の方に下った。実はそれで正解なのだが、下ったところにあった案内図看板を見ても、立体的な感覚での位置はわからないまま。看板地図が広範囲のせいもある。そのまま行くと、右手に三ツ石山登山口の道標が置かれていた。ほっとした。三ツ石山荘までは3.7kmとある。この標識を見落としたら、岩手山に登ることになったかもしれない。
(次第に急になってくる)
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緩い階段になっていたが、すぐに階段は消え、湿っぽい急な登山道になった。泥濘すらある。昨日の八幡平や先日の月山に比べたら登山道の状態はあまりよろしくない。普通といえば普通の登山道だ。帰路では大深岳から松川温泉に下ったが、そちらの方がこちらよりもさらに状態は悪く、滑った跡があちこちにあったし、石ゴロ区間もあった。感覚としては、反対に歩いていたら、いつになったら大深山に着くのかとため息が出てくるかもしれない。実際は、コースタイムは反対周りが8時間5分と25分ほど短い。おそらく、こちらがいきなりの急登が続くからの違いだろう。
(この辺はもう少しといったところか)
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(湿っぽい道だが歩いていて気持ちは良い)
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淡い紅葉が左右に続く。あと一週間も経てば、すっかり紅葉して、きれいな登山道になるだろう。岩手山も今日ははっきり見えている。つい三ツ石山の山頂の紅葉を期待してしまうが、「終わりかけ」ではなぁ。
急な登りはずっと続いていて、ようやく息切れにも慣れた状態にはなったものの、標識の距離数値は大して減らず、1.1km歩くのに40分も費やしている。えらく先が長く感じる。周囲の紅葉がなければ、おそらく気が滅入る歩きだろう。息を整える立ち休みをしては色づきを楽しめる。
(岩手山が見えた)
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(閉鎖されている登山道)
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(こんな泥濘があちこちにあった)
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(これは盛り)
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何とか傾斜が落ち着き、緩い登りになった。先に行くと、標識では松川大橋から続く道との合流点となっている。だが、松川大橋方面はロープでふさがれ、看板には通り抜けできないと記されている。赤川増水時渡ることができませんと説明書きがあるところから、崩れてもいるのだろう。2017年版の『高原地図』には通行止めの付記はない。
(木道になって)
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(ここはえぐられているような地形で、向こうから下ってここに上がっている。階段はヌルヌルしていた)
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(あれが三ツ石山か)
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ところどころに木道が現れる。これは泥濘対策だろう。きれいな赤いモミジが出てくると、ようやく山荘まで1kmの距離になった。出発から1時間15分経過。もっと歩いていた気がする。
えぐれたようなところの階段を登ると、また息切れが復活した。前にも後ろにもハイカーの姿はずっとない。焼け気味の黄赤の葉が続き、ササの回廊を行くと、前方に、オオシラビソ越しに三ツ石山が見えた。上に岩があり、その下の斜面が帯状に赤くなっている。あれが、ずっと行きたかった三ツ石山かと思うと、感無量とまではいかずとも、この晴天の中、ようやく来られたかとうれしい思いにはなる。
(三ツ石山荘)
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(山荘から三ツ石山。なだらかな山だ)
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(山荘を近くで)
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平坦になって三ツ石山荘が見えた。そして、大松倉山からのコースが左手から合流する。山荘までは泥濘の中に朽ちかけた木道が続いていて、池塘も点在している。この辺は湿地帯のようだ。実は、この山荘に泊まったら、歩いて5分ほどの水場の水が秋には涸れることもあると『高原地図』に記されているから、池塘の水を飲む羽目になるのではと、携帯用の浄水器は買っておいていたが、使わず仕舞いのままで、日帰りの今日とて持参はしていない。
山荘の周辺には7~8人のハイカーの姿が見えた。その中には、ここに泊まった人もいるのではないだろうか。そんな雰囲気がした。ただ、8時近くに行動開始では遅過ぎる。大方が三ツ石山の方に向かって行く。小屋の中を拝見したかったが、中にだれかいたらなと、目的もなく覗くのはやめにした。
(三ツ石山へ)
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(大松倉山)
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(山頂の岩)
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(山頂直下から。右手は秋田駒ヶ岳)
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(同じく。秋田駒は左に)
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(山頂は広く、岩峰というほどではないが、岩がいくつかある)
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(これから行く北側方面)
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(山名標識が見えている)
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(山頂のケルン)
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(なんとも惜しい色具合)
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(こちらも)
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(あちらも。この時点では白い煙のようなものに気づいていない)
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(これだもんなぁ。盛りの時はどうだったのだろう)
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(こんなのでもまったく飽きない)
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(山頂の北側から南側を)
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(きりがないのだが)
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(結局、こうやって載せてしまう)
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(そろそろ小畚山に向かおうかと)
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(振り返る)
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(この岩の下でタバコを吸った)
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木の階段が続いていた。そのうちに湿地帯は抜けたのか、狭い普通の登山道になった。何人かを追い越し、若いのには抜かれる。トレランのカップルもいる。時々振り返る。ササの原しか見えない。山頂の大岩がすぐそこというところで見下ろすと、赤というか赤茶の絨毯が広がっていた。あぁやはり一週間遅かったか。帰宅してから、2日に自分とは逆回りでここに来た方のネット記事を拝見したが、掲載された絨毯写真は栗駒ほどではないにせよ、真っ赤に染まっていて、まさに盛りの状態だった。一週間でこうも違うのか。それでも見ごたえ感はあるとがっかり気分を慰める。大松倉山はオオシラビソでうっそうとして、間近の秋田駒ヶ岳は黒いシルエット。そんなコントラストの中で、赤茶とはいえども、十分に周囲の色彩からは浮いた存在だ。
山頂は広くて展望良好。岩の塊りがいくつかあって、一番高い岩が実際の山頂だろう。鳥海山が見えると言っている声が聞こえた。自分にはわからなかった。森吉山だけはわかった。
しばらく写真を撮っていたが風が吹き付けて寒い。山頂に10人近くいるのではタバコも吸えない。ふと、岩の下を見ると、青年が石に腰かけてタバコを吸っていた。オレもあれをやるかと小畚山の方に向かうべく、山頂から離れた。青年はすでにいなく、菓子パンを食べて一服した。
しばらく景色を眺めていた。やはりどうしても悔いは残る。3日の月山はガスガスの中だったが、こちらの天気はどうだったのだろう。当初は2日に月山、3日はこの三ツ石山の予定でいたが、仕事の関係で休めず、一週間延期にしていた。やはり、紅葉の見頃は一瞬にして過ぎて行くものだ。
(別に疑問もなく小畚山は手前のピークだと思っていたが、その奥だった)
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(小畚山への緩い登り)
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(振り返って三ツ石山だが、このアングルからの三ツ石山が一番不細工な姿だった)
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(三ツ沼と三角点峰)
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(三ツ沼と三ツ石山。沼は二つだが)
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(そこが小畚山だと思っていたら)
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(山名なしの三角点峰だった)
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小畚山の方に向かうハイカーはあまりいない。広くなだらかな稜線の先にそのピークは見えている。こちらの紅葉もさぞきれいだったろう。タバコ青年が先を歩く姿がチラチラと見える。景色を楽しみながら行くと、形の上では鞍部となるのだろうか。傾斜が緩やかなので、さして鞍部の意識はないが、そこに池があって三ツ沼。ここから見る小畚山方面の風景も格別だ。振り返ると、三ツ石山がいつの間にやら遠くなっている。
少し急になってピークに到着。途中、下って来るオッサンに出会った。さてこのピーク、小畚山かと思っていたら、名無しの三角点峰で、基準点名は三ツ石。小畚山はさらに先だった。だれもいないことを良いことに、ここでも一服して休んだ。三ツ石山のように風はない。こちらに来ると、三ツ石山よりも紅葉の密度は薄れている。それでも赤茶の絨毯の塊りが点在している。小畚山の登りに入っているタバコ青年の姿が見える。
腰を上げて小畚山に向かう。逆から来るハイカーが数人。小畚山が目的か、あるいは八幡平からの縦走か。
(小畚山はあれか?)
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(西側の斜面だったかと思うが)
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(小畚山)
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(山頂)
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(岩手山)
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(三ツ石山は遠くなった)
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小畚山に到着。タバコ青年以外にもう一人の青年がいた。タバコ青年と少し話をした。彼は網張温泉の方から登ったらしく(詳細は忘れた)、ここから引き返すそうだ。来年、今、自分がやっている松川温泉からの周回を来年やるつもりで、その下見だそうだ。律儀な青年だ。あの足取りでは、一発勝負でいきなり周回もできるだろうに。その間、もう一人の青年は北に向かって行き、ところどころで再会したが、大深山荘分岐あたりで見失った。八幡平の方に向かったのかもしれない。この先、トレランの一組に抜かれたが、出会うハイカーはほんの数人だった。三ツ石山はかなり離れてしまい、山頂にあった岩は乳首のように見えている。そして、手前には三角点峰。標識には、ここから三ツ石山荘までは3.3kmとある。山荘からは特に息切れもせずにのんびりと歩いてきた。それに比べたら、登山口から山荘までの3.7km区間の前半2/3区間が何とも長く感じたことか。
(次は大深岳へ。電光型の道が見える)
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(アップの方がわかりやすいか)
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このまま楽勝歩きで、次のポイントの大深岳まで行けると思ったのは甘かった。ここから大深岳は見えてはいるが、その稜線に至るまでの登山道は電光形になっている。これは急であることは明らか。かなりひるんだ。今さらここまで来ては、先に行くしかないし、周回をあきらめるつもりもない。せめてもの救いは、ここからの下りが激急ではないこと。小畚山には20分ほど滞在した。大深山を目指す。
(歩きやすい道が続いている)
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(正面の稜線。右端が源太ヶ岳かと思う)
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(振り返って、小畚山から三ツ石山)
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(つい気になる秋田駒)
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(鮮やかなのが残っていた)
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(知らずのうちにハイマツ帯になっていた)
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(大深山山頂)
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歩きやすい道を下って鞍部。ここもまた、少なくなった紅葉が楽しませてくれた。電光形の道が目の前にきた。見下ろして眺めた時ほどに急な登りではないことに安心した。とはいっても、一気に電光形を登れたわけではない。小休止を続けては後ろを振り返る。さっきから見え隠れする岩手山よりも、どうしても秋田駒が気になる。だれも歩いていないから、あせる気分も出ず、好き勝手に歩いている。ややきついところもあって、ここでようやくストックを一本だけ出した。
稜線が正面に近づく。右端で切れている。あれが源太ヶ岳かと思う。ようやく傾斜が平らになった。ハイマツ帯になったところで大深岳に到着。山頂らしからぬピーク。ただの通過点だった。嶮岨森もそうだったし、昨日の源太森もそうだった。八幡平は、こういったタイプの山が多いようだ。山頂には三角点がある。さほどに景色が良いわけでもないので、休まずにそのまま先に行く。
この先をどう歩くかで迷っていた。大深山荘を経由すると源太ヶ岳は迂回することになる。大深山荘周辺の湿地帯の景色も見たかった。ただ、あまり意味もない気がして、結局は源太ヶ岳経由にすることにし、山荘周辺の探索はやめることにした。こういうことがあるから、三年前、半端に嶮岨森で終わらせず、せめて大深山荘まで行っていればよかったのだと後悔する。今さらのこと。
(源太ヶ岳に向かっている。前方に二人連れの姿が見えた)
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(飽きない風景が続いている)
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(ここで鳥海山を確認した)
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(緑だけの世界になっている。大深山)
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(八幡平方面。三角峰が二つ見える。左が畚岳かと思う。右は位置からして茶臼岳かと思う)
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稜線上は歩きやすかった。かなり先を二人連れが歩いているのが見える。これまで見なかった。追いつきそうになったので歩を緩めた。間もなく大深山荘に下る分岐を過ぎ、なだらかに上り調子の道を行くと、ここで初めて雲間に浮かぶ鳥海山のシルエットが見えた。秋田駒の向こう側だから、位置的には鳥海山しかないはずだ。あれでは、上は晴れていても、下はガスガスだろう。そういえば、自分としてはあまり思い出したくない山行になったが、四年前の9月に鳥海山に登った時も、途中は雨すらあたる悪天と強風で、山頂に出るとすっきりした青空が出てきたことがあった。あの鳥海山の紅葉も今季のテーマに入れていたが、月山を優先してしまった。
広大なパノラマの風景を飽かずに見ながら歩いている。充実というよりも贅沢な気分に浸っていられる。こんなのも久しぶりだ。ハイカーが少ないということもあるのだろう。余計なことは気にせず、ゆっくり、ゆったり歩ける。
(あれが源太ヶ岳かと思ったが)
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(まだ先があった。二人連れが下りて来る)
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前方のピークから二人連れが下って来る。さっき見かけた方々だ。ということは、あのピークが源太ヶ岳だろうか。あそこまでの往復だったのだろう。脇に寄って、コンニチワでやり過ごす。後で思うと、源太ヶ岳はまだ先で、あの歩きでは途中でやめて戻って来たのかもしれない。
(この風景も捨てがたかった。左端に三ツ石山)
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(三ツ石山のアップ)
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(三角点峰と小畚山)
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(稜線のカーブ。あの端が源太ヶ岳だろう)
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すでにササは消え、ハイマツだけになった。右手谷間越しの山の斜面はオオシラビソ。黄色と赤色はどこにも見えない。と思っていたら、遠くの山麓に白い物が見えた。目を凝らすと、橋のようだ。地図を広げる。どうも、あれは松川大橋か。確信はない。
なおも行くと、右斜面がちょっとした断崖状になったピークが見えてきた。大深岳下の鞍部から見えた稜線の右端、源太ヶ岳と思っていたピークかもしれない。今日の歩きの、もう終盤かと思うと、ちょっと残念な気がしてくる。
(ここが源太ヶ岳かと思って休んだ)
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(北の八幡平方面。奥から畚岳、諸桧岳、嶮岨森かと思う。大深山荘はオオシラビソに隠れてしまった)
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石がゴロゴロし、ケルンも積まれた山頂だった。ここが源太ヶ岳かと思ったが、これまではどこにでもあった山名標識がどこを探してもなかった。風に飛ばされたのだろう程度に考え、ここで石に座って休憩し、一服する。ここからは真下にさっきの橋と、地熱発電所から出ているらしき白い湯気が見える。しばらくそれを眺めていると、トレランのカップルがやって来て、自分のいるところから少し下って50m程先のところで休んでいる。ハイマツで姿は見えない。話し声が聞こえるだけだ。
(こちらが源太ヶ岳の山頂だった)
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(ここで意識した白い物二つ)
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(松川大橋と)
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(地熱発電の煙突? 左に松川温泉)
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15分は休んだろうか。まぁ仕方がない。そろそろ下るかと、重い腰を上げて行くと、その50m先に源太ヶ岳の標識があった。何だ、山頂はここだったのか。「松川温泉3.8km」の標識もある。もう休んだから、ここで改めて腰かけることはしなかった。三ツ石山が正面に見える。さっきとはアングルが違うためか、乳首には見えず、山頂には大岩が三つ見える。なるほど、それで三ツ石岳というのかと納得した。撮った写真を後でアップで見てみると、それぞれの岩に立つ人の姿があった人。
(松川温泉に下る)
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(今度は岩手山を正面に見ながら)
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(大深山荘からの道がここで合流する)
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残念ながらの下山。松川大橋が明瞭に見えた。あの大橋の架かる松川渓谷は紅葉のメッカであることを知ったのは後のことだが、渓谷の紅葉はまだ早かったらしい。現に、上から眺める限りはまだ淡い色彩になっている。
(えぐれた登山道)
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(下はやはり淡い)
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(色とりどり)
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(この時点で曇りかけになっていて、青空だったらきれいに写ったかと思うが。やはり見頃は中腹に移行中だった)
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下りの風景も飽きることはなかった。遠くには池塘も見えている。だが、大深山荘から上がって来る道と合流してからが、徐々に変わってきて、下るに連れて前方の視界も狭くなっていく。そして、道もえぐられたようになり、気をつけないと滑る。大きな石も転がっている。三ツ石山荘から源太ヶ岳までが楽園とすれば、その前後は失楽園ということにはなるかもしれないが、さほどにそんな感覚はなく、ありきたりの、どこにでも普通の登山コースだった。狭い視界でも、それなりに個々の木々の色づきは楽しめた。ただ、足元に気を遣いながら、時には両手で石やら枝を頼りに下りたところもあり、三ツ石山から稜線にかけての延長気分で松川温泉に下れるということはなかった。それを期待したのはちょっと虫の良すぎる話かもしれない。
(水場)
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(木道が出てくる。おそらく、泥濘対策だろう)
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(アップで)
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(あちらもいいねぇ)
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一瞬、視界が開けたところに水場があった。そこの標識は「水場」で、松川温泉まで、まだ2.6kmもある。ここでノドをうるおす。そういえば、今日の道中で、飲水した唯一のところだった。
木道も出てくる。まだまだ先は長い。周囲の景色は登り時とさして変化はないが、ここを上りに使うのはきついと思った。気分的にも長過ぎるだろう。傾斜はきつくはないが、自分が歩いたコースの方が傾斜がきつい分、集中して歩けるし、いずれは緩くなるだろうと期待したところに三ツ石山荘と池塘が出てきてほっとできるところから気分的には楽かもしれない。その点、こちらは延々と単調な登りが続き、登り上げたところから見る三ツ石山ははるかに遠い。
(丸森川に架かる橋)
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(こうなったら里は近い)
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(フィニッシュ)
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愚痴はともかく、長いので、二回ほどタバコ休憩を入れた。いささか飽きてきた。「丸森川」の標識のある木橋を渡るところでラスト1.7km。12時48分。導水のパイプが出てくる。もう終点は近い。もしかして温泉を引いているのかなとパイプにさわると冷たかった。
柵に囲まれた建屋の脇を通過。登山口まで200mの標識。もちろん関係者以外の車両は進入禁止だろうが、車の通れるような道がフェンス越しに通っていて、やがて合流した。人気はない。木々の、緑と赤の半々を見ながら歩いて行くと松川荘の上に出た。
ここからすんなりと駐車場に戻れたわけもなく、車道がいくつかクロスしているからど
う行けばいいのかわからなくなり、ここで初めてGPSを取り出した。それを見ながら戻ると、駐車地になりそうな空地があちこちにあるのが目に入った。そりゃそうだろう。収容が15台もないあの駐車場では、岩手山も三ツ石山へのハイカーをまかなえるはずはない。
オレの姿を見て、車を止めたフリースタイルのオッサンに声をかけられ、「松川大橋はどの道を通って行けばいいのでしょうね」と聞かれた。すでに駐車場も近かったので、頭は呆けた状態になっていて、きょとんとして、「自分は地元でもないしわかりません」と答えたが、その時は、松川大橋からのルートは通行止めになっていたことも、上から松川大橋を眺めたことも失念していた。聞いたことのある橋の名前だなと思って終わり。それを思い出したところで、車での道順を教えることはできなかったろう。GPS頼りに歩いていて、どこをどう歩いているのかもわからなかった。このことが気になって、松川渓谷のことを後で調べた次第だが、当日はまだは見頃には早かったというネット記事があった。
(ようやくこの標識を目にして)
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(駐車場に帰り着いた。岩手山組はまだまだだろう)
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駐車場に戻ってほっとした。改めて駐車する車のナンバーを見ると、東京やらその近辺、北陸、九州県のナンバーがずらりと見えた。大方は岩手山だろう。それに比べて三ツ石山はマイナーだ。
13時半。結果として、8時間半コースを休憩込みの7時間チョイで歩いたことにはなるが、これは、『山の高原地図』の記載タイムが甘過ぎる。心地良い疲れながらも下半身はすでに痛い。明日はどうしよう。台風も近づき、天気が良いはずはない。そして、ここは一週間遅れの紅葉だった。予定の乳頭山とて同じに違いない。
今夜の宿は網張温泉にしている。地図上の直線距離はたいしてないが、車で行くとなると50キロほどある。チェックインには3時過ぎで早いが、ここで後始末をしたり、コンビニに寄ってコーヒーを飲んだりして適当に時間をつぶせば、到着は3時半過ぎになる。温泉に入って、チューハイを飲んで、明日の行動を改めて考えることにしよう。
宿に到着。これは知らなかったが、すぐ隣にリフト乗り場があり、リフトで下って来るハイカーの姿が結構目に入る。どこに行けるリフトなのかと地図を見ると、ここがリフトに乗って大松倉山を経由して三ツ石山に行けるコースの起点だった。なるほど、そういうことかと、今さらながらに理解した。リフトの上で、岩手山に向かうコースも分岐している。
宿は朝食なしだが夕食付き。早朝に乳頭山に行くつもりでいたからそうした。温泉に入って、缶チューを飲みながら横になって地図を広げる。明日の計画立案だ。ついでにタブレットも出して調べる。天気が悪けりゃ、滝見の方が確実かなぁ。天気が良かったとしても、乳頭山の紅葉は期待できまい。暗に、二日続きで歩くのはつらいという気持ちもあった。
夕食はバイキング形式だった。レストランにマスクをして入ると、薄いビニール手袋を渡された。大皿から料理を取る際に、素手で箸やらスプーンをつかむなということらしい。もちろん、食べる際にはマスクも手袋も不要だが。手袋のことはここまできたのかと、初めて知ったが、おそらくは、どこでも同じかもしれない。日本酒を熱燗で二合。二合とて、実際は1.5合もあるか。
喫煙室でタバコを吸い、部屋に戻ると布団が敷かれていた。もう一度風呂に入り、浴衣に着替えてテレビを見ていると、疲れもあってか、そのまま寝てしまった。
(今回の歩き)
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「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」
読み直してみると、どうも今回は、拙い文章を一人よがりのいつも以上の写真掲載でカバーした感がある。最後までお付き合いいただいた方には御礼申し上げます。
松川温泉駐車場(6:15)……松川大橋コースとの合流点(7:13)……三ツ石山荘(7:54)……三ツ石山(8:30)……三ツ沼(9:07)……1447.9m三角点(9:18)……小畚山(9:43)……大深岳(10:45)……源太ヶ岳(11:40)……大深山荘からの道合流(11:58)……水場(12:21)……松川温泉(13:28)
※あくまでも各スポットへの到着時刻で、休憩タイムは相応にとっている。
かなり前というか、20年は経つだろうか、八幡平の「裏岩手連峰縦走コース」を歩いてみたいと思っていた。昨日車を置いたレストハウスからスタートし、畚岳、諸桧山、嶮岨森、大深岳、三ツ石山を経由して松川温泉に下るコースだ。松川温泉からは八幡平に路線バスで戻ることになる。ここ数年前から改めてその気になって調べると、松川温泉からのバスが午前中の一本だったかで、三ツ石山荘(山荘とはいっても避難小屋)か松川温泉の宿に泊まるしかなかった。これを逆歩きしても同じ。結局は、いつかはと思いながらで、そのままで終わっていた。
そのコースの一部でもと歩いたのは、前記事でも記したが、三年前の畚岳から嶮岨森区間で、その時はせめて大深岳まで行きたかったが気力でくじけた。今回は、気持ちの上ではその延長になる。南側の松川温泉から三ツ石山、大深岳の周回。『山と高原地図』のコースタイムでは8時間半になっている。三ツ石山だけを登るのなら、網張温泉からリフトを使う手もあるが、これとてピストンながらも5時間は歩くことになる。どうせ行くなら周回しか想定していない。
まぁ、そんなコースを設定したわけだが、関東の天気は知らないが、東北のこの日は、台風14号接近にも関わらず、移動性高気圧の影響で秋晴れという予報で、晴天は保証されている。
駐車場には車が10台ほど。準備中の方もいる。あと数台の駐車余裕はある。皆が三ツ石山方面とは限らない。現に、32年前、自分はこの駐車場から岩手山に登っている。横道に逸れるが、その時、高速代がもったいなく、ずっと4号線を北上し、松尾八幡平インターの手前の滝沢ICから東北道に入り、すぐの岩手山PAで車泊した。松尾ICから出る際、料金徴収のオジサンに怪訝な顔をされて何で?と聞かれたことを覚えている。40kmもない一区間の出入りに6時間ほどかけたのだから当然だろう。当時は、長距離トラックの高速通行券の交換も流行っていた。あの頃は、まだ無茶なこともできたが、今は温泉付きの宿泊まりに成り下がってしまった(むろんGo To の恩恵を利用してのこと)。しかも、高速代をケチるのは県内の移動だけ。今の方が当時よりも金銭的には恵まれていないのだが。
今日は地下タビにした。特別な理由はない。長時間歩きになりそうだし、理由は不明だが、ワークマンでまた足の爪が出血したのではかなわない。地下タビでこれまでそういうことはなかった。ワークマンもいいが、自分には、ロング歩きには地下タビの方が身体の一部になりきってくれて歩きやすい。
(地熱発電のパイプか)
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(三ツ石山登山口)
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駐車場から先の三ツ石山登山口までどう行くのかはしかとは知らない。標識もない。駐車時の前には左右を通る車道と、突っ切って右下に下る道があり、それは松川荘に至る道だ。地図を見ても方向感覚がずれていてよくわからない。左から駐車場に入り込んだから、右は松川大橋に至るのだろうと、ここは道を渡って、松川荘の方に下った。実はそれで正解なのだが、下ったところにあった案内図看板を見ても、立体的な感覚での位置はわからないまま。看板地図が広範囲のせいもある。そのまま行くと、右手に三ツ石山登山口の道標が置かれていた。ほっとした。三ツ石山荘までは3.7kmとある。この標識を見落としたら、岩手山に登ることになったかもしれない。
(次第に急になってくる)
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緩い階段になっていたが、すぐに階段は消え、湿っぽい急な登山道になった。泥濘すらある。昨日の八幡平や先日の月山に比べたら登山道の状態はあまりよろしくない。普通といえば普通の登山道だ。帰路では大深岳から松川温泉に下ったが、そちらの方がこちらよりもさらに状態は悪く、滑った跡があちこちにあったし、石ゴロ区間もあった。感覚としては、反対に歩いていたら、いつになったら大深山に着くのかとため息が出てくるかもしれない。実際は、コースタイムは反対周りが8時間5分と25分ほど短い。おそらく、こちらがいきなりの急登が続くからの違いだろう。
(この辺はもう少しといったところか)
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(湿っぽい道だが歩いていて気持ちは良い)
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淡い紅葉が左右に続く。あと一週間も経てば、すっかり紅葉して、きれいな登山道になるだろう。岩手山も今日ははっきり見えている。つい三ツ石山の山頂の紅葉を期待してしまうが、「終わりかけ」ではなぁ。
急な登りはずっと続いていて、ようやく息切れにも慣れた状態にはなったものの、標識の距離数値は大して減らず、1.1km歩くのに40分も費やしている。えらく先が長く感じる。周囲の紅葉がなければ、おそらく気が滅入る歩きだろう。息を整える立ち休みをしては色づきを楽しめる。
(岩手山が見えた)
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(閉鎖されている登山道)
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(こんな泥濘があちこちにあった)
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(これは盛り)
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何とか傾斜が落ち着き、緩い登りになった。先に行くと、標識では松川大橋から続く道との合流点となっている。だが、松川大橋方面はロープでふさがれ、看板には通り抜けできないと記されている。赤川増水時渡ることができませんと説明書きがあるところから、崩れてもいるのだろう。2017年版の『高原地図』には通行止めの付記はない。
(木道になって)
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(ここはえぐられているような地形で、向こうから下ってここに上がっている。階段はヌルヌルしていた)
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(あれが三ツ石山か)
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ところどころに木道が現れる。これは泥濘対策だろう。きれいな赤いモミジが出てくると、ようやく山荘まで1kmの距離になった。出発から1時間15分経過。もっと歩いていた気がする。
えぐれたようなところの階段を登ると、また息切れが復活した。前にも後ろにもハイカーの姿はずっとない。焼け気味の黄赤の葉が続き、ササの回廊を行くと、前方に、オオシラビソ越しに三ツ石山が見えた。上に岩があり、その下の斜面が帯状に赤くなっている。あれが、ずっと行きたかった三ツ石山かと思うと、感無量とまではいかずとも、この晴天の中、ようやく来られたかとうれしい思いにはなる。
(三ツ石山荘)
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(山荘から三ツ石山。なだらかな山だ)
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(山荘を近くで)
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平坦になって三ツ石山荘が見えた。そして、大松倉山からのコースが左手から合流する。山荘までは泥濘の中に朽ちかけた木道が続いていて、池塘も点在している。この辺は湿地帯のようだ。実は、この山荘に泊まったら、歩いて5分ほどの水場の水が秋には涸れることもあると『高原地図』に記されているから、池塘の水を飲む羽目になるのではと、携帯用の浄水器は買っておいていたが、使わず仕舞いのままで、日帰りの今日とて持参はしていない。
山荘の周辺には7~8人のハイカーの姿が見えた。その中には、ここに泊まった人もいるのではないだろうか。そんな雰囲気がした。ただ、8時近くに行動開始では遅過ぎる。大方が三ツ石山の方に向かって行く。小屋の中を拝見したかったが、中にだれかいたらなと、目的もなく覗くのはやめにした。
(三ツ石山へ)
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(大松倉山)
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(山頂の岩)
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(山頂直下から。右手は秋田駒ヶ岳)
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(同じく。秋田駒は左に)
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(山頂は広く、岩峰というほどではないが、岩がいくつかある)
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(これから行く北側方面)
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(山名標識が見えている)
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(山頂のケルン)
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(なんとも惜しい色具合)
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(こちらも)
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(あちらも。この時点では白い煙のようなものに気づいていない)
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(これだもんなぁ。盛りの時はどうだったのだろう)
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(こんなのでもまったく飽きない)
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(山頂の北側から南側を)
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(きりがないのだが)
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(結局、こうやって載せてしまう)
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(そろそろ小畚山に向かおうかと)
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(振り返る)
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(この岩の下でタバコを吸った)
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木の階段が続いていた。そのうちに湿地帯は抜けたのか、狭い普通の登山道になった。何人かを追い越し、若いのには抜かれる。トレランのカップルもいる。時々振り返る。ササの原しか見えない。山頂の大岩がすぐそこというところで見下ろすと、赤というか赤茶の絨毯が広がっていた。あぁやはり一週間遅かったか。帰宅してから、2日に自分とは逆回りでここに来た方のネット記事を拝見したが、掲載された絨毯写真は栗駒ほどではないにせよ、真っ赤に染まっていて、まさに盛りの状態だった。一週間でこうも違うのか。それでも見ごたえ感はあるとがっかり気分を慰める。大松倉山はオオシラビソでうっそうとして、間近の秋田駒ヶ岳は黒いシルエット。そんなコントラストの中で、赤茶とはいえども、十分に周囲の色彩からは浮いた存在だ。
山頂は広くて展望良好。岩の塊りがいくつかあって、一番高い岩が実際の山頂だろう。鳥海山が見えると言っている声が聞こえた。自分にはわからなかった。森吉山だけはわかった。
しばらく写真を撮っていたが風が吹き付けて寒い。山頂に10人近くいるのではタバコも吸えない。ふと、岩の下を見ると、青年が石に腰かけてタバコを吸っていた。オレもあれをやるかと小畚山の方に向かうべく、山頂から離れた。青年はすでにいなく、菓子パンを食べて一服した。
しばらく景色を眺めていた。やはりどうしても悔いは残る。3日の月山はガスガスの中だったが、こちらの天気はどうだったのだろう。当初は2日に月山、3日はこの三ツ石山の予定でいたが、仕事の関係で休めず、一週間延期にしていた。やはり、紅葉の見頃は一瞬にして過ぎて行くものだ。
(別に疑問もなく小畚山は手前のピークだと思っていたが、その奥だった)
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(小畚山への緩い登り)
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(振り返って三ツ石山だが、このアングルからの三ツ石山が一番不細工な姿だった)
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(三ツ沼と三角点峰)
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(三ツ沼と三ツ石山。沼は二つだが)
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(そこが小畚山だと思っていたら)
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(山名なしの三角点峰だった)
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小畚山の方に向かうハイカーはあまりいない。広くなだらかな稜線の先にそのピークは見えている。こちらの紅葉もさぞきれいだったろう。タバコ青年が先を歩く姿がチラチラと見える。景色を楽しみながら行くと、形の上では鞍部となるのだろうか。傾斜が緩やかなので、さして鞍部の意識はないが、そこに池があって三ツ沼。ここから見る小畚山方面の風景も格別だ。振り返ると、三ツ石山がいつの間にやら遠くなっている。
少し急になってピークに到着。途中、下って来るオッサンに出会った。さてこのピーク、小畚山かと思っていたら、名無しの三角点峰で、基準点名は三ツ石。小畚山はさらに先だった。だれもいないことを良いことに、ここでも一服して休んだ。三ツ石山のように風はない。こちらに来ると、三ツ石山よりも紅葉の密度は薄れている。それでも赤茶の絨毯の塊りが点在している。小畚山の登りに入っているタバコ青年の姿が見える。
腰を上げて小畚山に向かう。逆から来るハイカーが数人。小畚山が目的か、あるいは八幡平からの縦走か。
(小畚山はあれか?)
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(西側の斜面だったかと思うが)
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(小畚山)
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(山頂)
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(岩手山)
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(三ツ石山は遠くなった)
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小畚山に到着。タバコ青年以外にもう一人の青年がいた。タバコ青年と少し話をした。彼は網張温泉の方から登ったらしく(詳細は忘れた)、ここから引き返すそうだ。来年、今、自分がやっている松川温泉からの周回を来年やるつもりで、その下見だそうだ。律儀な青年だ。あの足取りでは、一発勝負でいきなり周回もできるだろうに。その間、もう一人の青年は北に向かって行き、ところどころで再会したが、大深山荘分岐あたりで見失った。八幡平の方に向かったのかもしれない。この先、トレランの一組に抜かれたが、出会うハイカーはほんの数人だった。三ツ石山はかなり離れてしまい、山頂にあった岩は乳首のように見えている。そして、手前には三角点峰。標識には、ここから三ツ石山荘までは3.3kmとある。山荘からは特に息切れもせずにのんびりと歩いてきた。それに比べたら、登山口から山荘までの3.7km区間の前半2/3区間が何とも長く感じたことか。
(次は大深岳へ。電光型の道が見える)
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(アップの方がわかりやすいか)
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このまま楽勝歩きで、次のポイントの大深岳まで行けると思ったのは甘かった。ここから大深岳は見えてはいるが、その稜線に至るまでの登山道は電光形になっている。これは急であることは明らか。かなりひるんだ。今さらここまで来ては、先に行くしかないし、周回をあきらめるつもりもない。せめてもの救いは、ここからの下りが激急ではないこと。小畚山には20分ほど滞在した。大深山を目指す。
(歩きやすい道が続いている)
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(正面の稜線。右端が源太ヶ岳かと思う)
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(振り返って、小畚山から三ツ石山)
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(つい気になる秋田駒)
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(鮮やかなのが残っていた)
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(知らずのうちにハイマツ帯になっていた)
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(大深山山頂)
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歩きやすい道を下って鞍部。ここもまた、少なくなった紅葉が楽しませてくれた。電光形の道が目の前にきた。見下ろして眺めた時ほどに急な登りではないことに安心した。とはいっても、一気に電光形を登れたわけではない。小休止を続けては後ろを振り返る。さっきから見え隠れする岩手山よりも、どうしても秋田駒が気になる。だれも歩いていないから、あせる気分も出ず、好き勝手に歩いている。ややきついところもあって、ここでようやくストックを一本だけ出した。
稜線が正面に近づく。右端で切れている。あれが源太ヶ岳かと思う。ようやく傾斜が平らになった。ハイマツ帯になったところで大深岳に到着。山頂らしからぬピーク。ただの通過点だった。嶮岨森もそうだったし、昨日の源太森もそうだった。八幡平は、こういったタイプの山が多いようだ。山頂には三角点がある。さほどに景色が良いわけでもないので、休まずにそのまま先に行く。
この先をどう歩くかで迷っていた。大深山荘を経由すると源太ヶ岳は迂回することになる。大深山荘周辺の湿地帯の景色も見たかった。ただ、あまり意味もない気がして、結局は源太ヶ岳経由にすることにし、山荘周辺の探索はやめることにした。こういうことがあるから、三年前、半端に嶮岨森で終わらせず、せめて大深山荘まで行っていればよかったのだと後悔する。今さらのこと。
(源太ヶ岳に向かっている。前方に二人連れの姿が見えた)
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(飽きない風景が続いている)
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(ここで鳥海山を確認した)
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(緑だけの世界になっている。大深山)
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(八幡平方面。三角峰が二つ見える。左が畚岳かと思う。右は位置からして茶臼岳かと思う)
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稜線上は歩きやすかった。かなり先を二人連れが歩いているのが見える。これまで見なかった。追いつきそうになったので歩を緩めた。間もなく大深山荘に下る分岐を過ぎ、なだらかに上り調子の道を行くと、ここで初めて雲間に浮かぶ鳥海山のシルエットが見えた。秋田駒の向こう側だから、位置的には鳥海山しかないはずだ。あれでは、上は晴れていても、下はガスガスだろう。そういえば、自分としてはあまり思い出したくない山行になったが、四年前の9月に鳥海山に登った時も、途中は雨すらあたる悪天と強風で、山頂に出るとすっきりした青空が出てきたことがあった。あの鳥海山の紅葉も今季のテーマに入れていたが、月山を優先してしまった。
広大なパノラマの風景を飽かずに見ながら歩いている。充実というよりも贅沢な気分に浸っていられる。こんなのも久しぶりだ。ハイカーが少ないということもあるのだろう。余計なことは気にせず、ゆっくり、ゆったり歩ける。
(あれが源太ヶ岳かと思ったが)
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(まだ先があった。二人連れが下りて来る)
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前方のピークから二人連れが下って来る。さっき見かけた方々だ。ということは、あのピークが源太ヶ岳だろうか。あそこまでの往復だったのだろう。脇に寄って、コンニチワでやり過ごす。後で思うと、源太ヶ岳はまだ先で、あの歩きでは途中でやめて戻って来たのかもしれない。
(この風景も捨てがたかった。左端に三ツ石山)
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(三ツ石山のアップ)
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(三角点峰と小畚山)
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(稜線のカーブ。あの端が源太ヶ岳だろう)
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すでにササは消え、ハイマツだけになった。右手谷間越しの山の斜面はオオシラビソ。黄色と赤色はどこにも見えない。と思っていたら、遠くの山麓に白い物が見えた。目を凝らすと、橋のようだ。地図を広げる。どうも、あれは松川大橋か。確信はない。
なおも行くと、右斜面がちょっとした断崖状になったピークが見えてきた。大深岳下の鞍部から見えた稜線の右端、源太ヶ岳と思っていたピークかもしれない。今日の歩きの、もう終盤かと思うと、ちょっと残念な気がしてくる。
(ここが源太ヶ岳かと思って休んだ)
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(北の八幡平方面。奥から畚岳、諸桧岳、嶮岨森かと思う。大深山荘はオオシラビソに隠れてしまった)
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石がゴロゴロし、ケルンも積まれた山頂だった。ここが源太ヶ岳かと思ったが、これまではどこにでもあった山名標識がどこを探してもなかった。風に飛ばされたのだろう程度に考え、ここで石に座って休憩し、一服する。ここからは真下にさっきの橋と、地熱発電所から出ているらしき白い湯気が見える。しばらくそれを眺めていると、トレランのカップルがやって来て、自分のいるところから少し下って50m程先のところで休んでいる。ハイマツで姿は見えない。話し声が聞こえるだけだ。
(こちらが源太ヶ岳の山頂だった)
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(ここで意識した白い物二つ)
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(松川大橋と)
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(地熱発電の煙突? 左に松川温泉)
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15分は休んだろうか。まぁ仕方がない。そろそろ下るかと、重い腰を上げて行くと、その50m先に源太ヶ岳の標識があった。何だ、山頂はここだったのか。「松川温泉3.8km」の標識もある。もう休んだから、ここで改めて腰かけることはしなかった。三ツ石山が正面に見える。さっきとはアングルが違うためか、乳首には見えず、山頂には大岩が三つ見える。なるほど、それで三ツ石岳というのかと納得した。撮った写真を後でアップで見てみると、それぞれの岩に立つ人の姿があった人。
(松川温泉に下る)
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(今度は岩手山を正面に見ながら)
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(大深山荘からの道がここで合流する)
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残念ながらの下山。松川大橋が明瞭に見えた。あの大橋の架かる松川渓谷は紅葉のメッカであることを知ったのは後のことだが、渓谷の紅葉はまだ早かったらしい。現に、上から眺める限りはまだ淡い色彩になっている。
(えぐれた登山道)
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(下はやはり淡い)
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(色とりどり)
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(この時点で曇りかけになっていて、青空だったらきれいに写ったかと思うが。やはり見頃は中腹に移行中だった)
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下りの風景も飽きることはなかった。遠くには池塘も見えている。だが、大深山荘から上がって来る道と合流してからが、徐々に変わってきて、下るに連れて前方の視界も狭くなっていく。そして、道もえぐられたようになり、気をつけないと滑る。大きな石も転がっている。三ツ石山荘から源太ヶ岳までが楽園とすれば、その前後は失楽園ということにはなるかもしれないが、さほどにそんな感覚はなく、ありきたりの、どこにでも普通の登山コースだった。狭い視界でも、それなりに個々の木々の色づきは楽しめた。ただ、足元に気を遣いながら、時には両手で石やら枝を頼りに下りたところもあり、三ツ石山から稜線にかけての延長気分で松川温泉に下れるということはなかった。それを期待したのはちょっと虫の良すぎる話かもしれない。
(水場)
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(木道が出てくる。おそらく、泥濘対策だろう)
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(アップで)
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(あちらもいいねぇ)
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一瞬、視界が開けたところに水場があった。そこの標識は「水場」で、松川温泉まで、まだ2.6kmもある。ここでノドをうるおす。そういえば、今日の道中で、飲水した唯一のところだった。
木道も出てくる。まだまだ先は長い。周囲の景色は登り時とさして変化はないが、ここを上りに使うのはきついと思った。気分的にも長過ぎるだろう。傾斜はきつくはないが、自分が歩いたコースの方が傾斜がきつい分、集中して歩けるし、いずれは緩くなるだろうと期待したところに三ツ石山荘と池塘が出てきてほっとできるところから気分的には楽かもしれない。その点、こちらは延々と単調な登りが続き、登り上げたところから見る三ツ石山ははるかに遠い。
(丸森川に架かる橋)
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(こうなったら里は近い)
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(フィニッシュ)
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愚痴はともかく、長いので、二回ほどタバコ休憩を入れた。いささか飽きてきた。「丸森川」の標識のある木橋を渡るところでラスト1.7km。12時48分。導水のパイプが出てくる。もう終点は近い。もしかして温泉を引いているのかなとパイプにさわると冷たかった。
柵に囲まれた建屋の脇を通過。登山口まで200mの標識。もちろん関係者以外の車両は進入禁止だろうが、車の通れるような道がフェンス越しに通っていて、やがて合流した。人気はない。木々の、緑と赤の半々を見ながら歩いて行くと松川荘の上に出た。
ここからすんなりと駐車場に戻れたわけもなく、車道がいくつかクロスしているからど
う行けばいいのかわからなくなり、ここで初めてGPSを取り出した。それを見ながら戻ると、駐車地になりそうな空地があちこちにあるのが目に入った。そりゃそうだろう。収容が15台もないあの駐車場では、岩手山も三ツ石山へのハイカーをまかなえるはずはない。
オレの姿を見て、車を止めたフリースタイルのオッサンに声をかけられ、「松川大橋はどの道を通って行けばいいのでしょうね」と聞かれた。すでに駐車場も近かったので、頭は呆けた状態になっていて、きょとんとして、「自分は地元でもないしわかりません」と答えたが、その時は、松川大橋からのルートは通行止めになっていたことも、上から松川大橋を眺めたことも失念していた。聞いたことのある橋の名前だなと思って終わり。それを思い出したところで、車での道順を教えることはできなかったろう。GPS頼りに歩いていて、どこをどう歩いているのかもわからなかった。このことが気になって、松川渓谷のことを後で調べた次第だが、当日はまだは見頃には早かったというネット記事があった。
(ようやくこの標識を目にして)
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(駐車場に帰り着いた。岩手山組はまだまだだろう)
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駐車場に戻ってほっとした。改めて駐車する車のナンバーを見ると、東京やらその近辺、北陸、九州県のナンバーがずらりと見えた。大方は岩手山だろう。それに比べて三ツ石山はマイナーだ。
13時半。結果として、8時間半コースを休憩込みの7時間チョイで歩いたことにはなるが、これは、『山の高原地図』の記載タイムが甘過ぎる。心地良い疲れながらも下半身はすでに痛い。明日はどうしよう。台風も近づき、天気が良いはずはない。そして、ここは一週間遅れの紅葉だった。予定の乳頭山とて同じに違いない。
今夜の宿は網張温泉にしている。地図上の直線距離はたいしてないが、車で行くとなると50キロほどある。チェックインには3時過ぎで早いが、ここで後始末をしたり、コンビニに寄ってコーヒーを飲んだりして適当に時間をつぶせば、到着は3時半過ぎになる。温泉に入って、チューハイを飲んで、明日の行動を改めて考えることにしよう。
宿に到着。これは知らなかったが、すぐ隣にリフト乗り場があり、リフトで下って来るハイカーの姿が結構目に入る。どこに行けるリフトなのかと地図を見ると、ここがリフトに乗って大松倉山を経由して三ツ石山に行けるコースの起点だった。なるほど、そういうことかと、今さらながらに理解した。リフトの上で、岩手山に向かうコースも分岐している。
宿は朝食なしだが夕食付き。早朝に乳頭山に行くつもりでいたからそうした。温泉に入って、缶チューを飲みながら横になって地図を広げる。明日の計画立案だ。ついでにタブレットも出して調べる。天気が悪けりゃ、滝見の方が確実かなぁ。天気が良かったとしても、乳頭山の紅葉は期待できまい。暗に、二日続きで歩くのはつらいという気持ちもあった。
夕食はバイキング形式だった。レストランにマスクをして入ると、薄いビニール手袋を渡された。大皿から料理を取る際に、素手で箸やらスプーンをつかむなということらしい。もちろん、食べる際にはマスクも手袋も不要だが。手袋のことはここまできたのかと、初めて知ったが、おそらくは、どこでも同じかもしれない。日本酒を熱燗で二合。二合とて、実際は1.5合もあるか。
喫煙室でタバコを吸い、部屋に戻ると布団が敷かれていた。もう一度風呂に入り、浴衣に着替えてテレビを見ていると、疲れもあってか、そのまま寝てしまった。
(今回の歩き)
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「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」
読み直してみると、どうも今回は、拙い文章を一人よがりのいつも以上の写真掲載でカバーした感がある。最後までお付き合いいただいた方には御礼申し上げます。
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