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◎2009年6月7日(土)─I男と
ロープウェイの始発は7時40分だったが、昨夜は二次会もせずに早々に寝たし、I男も爆睡しただけに5時半には起きていた。余裕を持って1時間前の6時40分に出ても十分に間に合うのだが、男2人、狭いツインの部屋にいても仕方がないので6時前に西条駅前のホテルを出た。天気は良好だが見えるはずの石鎚山は見えない。曇っていないだけましといったところ。隣のコンビニで飲食物を調達して出発。ホテルの受付嬢は登山口まで車で20分と言っていたが、昨夜のビール園の運転手さんは40分とのこと。人によって言うことが違うが実際は飛ばし気味で45分かかった。奥に行くほど、低空にガスが立ち込めている。今日もぱっとしない天気かなあ。
始発の運行まではまだ50分もある。最初に目についた京屋旅館に車を入れる。雑貨屋みたいな旅館。駐車代は500円。ここのロープウェイには、無料駐車場という施設がないようだ。車かバスでしか来られない所なのだから、ロープウェイ運行会社も駐車場くらいは確保すればいいのにと思う。地元の土産屋、旅館組合がうるさいのか。京屋旅館のトイレを借りる。男女共用で汲み取り式。これは我慢できるとしても、ペーパーがなく、紙を50円で購入。帰りにここの風呂を使った。ネットでは入浴料が300円と記されていたが500円とられた。確かに300円は安すぎの感があるのだが。
乗り場に向かう。修験スタイルが2人。山歩きは20人くらい。近くにトイレがあり、覗いてみたら、水洗・男女別・ペーパー付きだった。神仏の像がまとめて安置されている。雑然とした様は石屋の置き場といった感じがする。ここに徳利を持ったタヌキを置いても違和感がない。石鎚神社は役の行者(=役小角か?)が開山したとのことだが、自分には、この役小角と陰陽道の接点がよく分からない。影響面では決して無関係ではないだろう。土産屋でも天狗の面があちこちにあった。修験道の延長線上に天狗が存在することは理解できるのだが。ロープウェイを見上げる。どんどん雲が下りてきている。今日もダメかなぁとため息が出る。
ロープウェイは往復1,900円。荷物代が100円となっていた。荷物の制限表示がアバウトで一律の徴収かなと思っていたが、2,000円でお釣りがきた。ガスの中を8分少々で成就駅に到着。ロープウェイでの標高差850mの上には見事にも青空が広がっていた。ガスが上がり始めたばかりの様子。成就駅からの歩き出しは7時51分。しばらく歩いて下を見ると、厚い雲が雲海になって張り出している。この雲もまたいつ上がってくるかもしれず、良天のうちに早め早めの行程で戻らないといけない。今のところ、I男のピッチは控え目。和賀岳で懲りているはずだ。翌日は歩行困難だったそうだ。修験スタイルの2人が先行。オレ達の後ろに若い単独。ロープウェイを待っている間に、「彼は歩けそうだな」と値踏みしていた青年だ。やはり早い。カーブ続きの道を進む。カーブにはライトがある。どのカーブも同じ光景。成就社着8時6分。ここは割りと賑やかなところ。旅館も多い。ここからは人が多くなってくる。我々は始発に乗って来ているから、他コースからの合流点までは、前を歩いている人のほとんどがここの宿泊客であろう。小休止の間に後ろの青年に抜かれる。修験スタイルはここに立ち寄り。I男がいつものスタイルで、頭にタオルを巻く。汗をかなりかいているようだ。オレも結構な汗。暑くなってきた。
門をくぐって登山道。ここから長~く緩やかな下りになる。「八丁坂」だから800m程はあるのだろう。成就駅から成就社まで標高差で100m程上がり、八丁坂の下り切りまで100m程下る。あまり意味のないアップダウン。帰り道で上りが苦痛にならなきゃいいが。晴れ渡り、森林浴のいい気分。この道は参道になっているためか、そこいら中に賽銭箱がある。これに出会う度に喜捨をしていたら、山頂までに相当な金額になる。信心深く几帳面に金銭を入れていて山頂に着いたら雨だったでは何のありがたみもない。入れなかった自分だけに雨がシャワー式にあたるわけでもない。して、つまりは省略。信仰の敬虔さどころか山遊びの人間までをも対象に露骨に金銭にしてしまうこういう宗教活動はいかがなものか。最近のニュースでこういうのがあった。ラブホを経営している宗教法人が、その上がりの半分をお布施扱いにして税金を免れていたそうだ。利用客にとっては極楽の境地だろうからと解釈して、勝手にお布施扱いにしたということでもないだろうが、やることがあくどい。K女からメールが届く。「ただ今、ホテルでおいしい食事中」とのこと。彼女の本日のご予定は、金比羅神社参拝となっている。電車に乗り、参詣後は琴平温泉の旅館で先に風呂に入っているはずだ。彼女のことだから、賽銭も高いのを入れ、さらにご家族分のお札とお守りだろうか。
八丁坂の鞍部(8時22分)からいよいよ上り。ずっと続く木の階段がいやらしいが、道はしっかりしている。関西弁のオバサングループが6人。かん高い声をあげながら歩いている。追い越すものの、しばらくはおしゃべりが聞こえてくる。あの嬌声から早く逃れたい。木の間から石鎚の山頂がちらちらと見える。ここで「試しの鎖」。鎖場が3か所あることは知っていたが、これもそのうちの一つかと思ってしまった。ただ気になるのが、鎖場を左に迂回するルートには「近道」の標示があった。この鎖場は近道じゃないのかね。鎖場の下ではカップルが躊躇している気配があったが、お先にと先に登る。左右2本。ここは74mで、4か所の鎖場の中では一番長い。I男にとっては初めての経験なのだろう。かなり慎重に登って来る。登り切った狭いピークには祠があり、眺望は良く、正面には石鎚山が見えた。はるか彼方に、あれは絶対に剣山だろうと思われる山が見えた。昨日のまぼろしの山。汗だくの身体には風があったって気持ちがいい。しかし、余計な歩きをしてしまったようだ。この鎖場は決してショートカットルートではなかった。ただの付属コース。下に見える登山道にどうやって戻ればいいんだ。しばらく腹ばいになってルートを探しまわった。まさか登った鎖を下るわけではあるまい。下からはI男とカップルが上がって来ている。ずっと下ではオバサンたちが待機している可能性もある。これではしばらくは戻れない。ようやく登ってきたI男だが、「ここ、どうやって下りるんですか?」と聞かれてしまった。ただ鎖の延長を見れば、そのまま反対側が下りになっていただけのことだったが。
下の茶屋に何とか下りたものの、余計なことをして15分ばかり時間を無駄にしてしまった。同じロープウェイに乗った単独が2人、茶屋でタバコを吸って休んでいた。あのオバサンたちはやはりあの鎖場を登ったようだ。夜明峠9時23分。ここで休む。その間、茶屋で休んでいた2人に先行される。ここから正式な鎖場が登場。I男はさっきの鎖場がスリルがあって楽しかったのだろうか、「一の鎖」を選んだ。オレは巻き道。この鎖場は33m。試しの鎖の半分。結果的には、巻き道の方が早かった。2分程、I男の到着を待っていた。これは後で聞いた話だが、I男は鎖場で異様な光景を見てしまった。鎖から1mも離れていない岩場の斜面に人糞があったそうだ。動物のじゃないの?と確認したら、テッシュ付きだったから人間のものだという。ちょっと身体をよじらせてしまったら、間違いなく身体に付着するような状態だったとか。これが本当なら、どういう神経の持ち主なのだろう。情況はいろいろ詮索できる。緊急事態ながらも前後をずっと団体に挟まれ、鎖場でようやく逃げ切った安堵感もあるだろうし、だれもいなかったからといった単純な理由からもあるだろう。極度の緊張感からかもしれない。いずれにせよ、I男にとって鎖場の印象はすこぶる悪くなり、残りの鎖場は、ためらわずに巻き道を選んでいた。
9時44分二の鎖、9時56分三の鎖。二の鎖は気まぐれに一人で登ってみた。これが長い。65m。鎖も4、5本垂れている所もあった。ニセ終点が3か所程あってだまされた。しかし、巻き道ルートのI男よりは早かった。鎖場は体力の消耗でしかない。三の鎖69mは2人ともパス。鎖場の4か所ともに、後でコース案内書で確認した長さを記した。事前に知っていたら、効率よく鎖場を利用しただろうが、まさか、一番短い一の鎖の状況がああではね。鎖場を過ぎると鉄板の階段になる。左が上りで右が下り。左は山側で手すりを中央部合わせて2本使えるが、右は谷川で中央の手すりしか使えない。ちょっとこわい。上からどんどん人が下りてくる。随分登山客が多い。30人程の団体。こういうのは困るね。こっちはこれから山頂だから、出くわすことはないだろうけど。この時までは、成就周辺の旅館が昨夜はかなり繁盛したろうなといった感じでしかなかった。そんなに収容キャパがあるのかなとも。
10時04分、山頂。天気はまだセーフ。ただ、瀬戸内海も大山も見えない。試しの鎖場からここまで続く登山道がしっかりと見える。変な山頂。小屋と神社。下がなければ山頂には見えない。混雑もしているし、さっさと天狗岳に逃げる。混雑度は1/10だ。成就駅のポスターで見たが、天狗岳の紅葉はすごくきれいだね。今はただの岩山でしかない。I男が怖そうに付いてきた。途中、ルートが分からずに立ち往生していた単独も付いてきた。10時16分天狗岳山頂。やはり、こっちの方が展望も居心地もいいよ。昼ごはんにする。いつの間にやら、同じロープウェイのジイサンが隣に腰掛けていた。この方、疲れているように見えていてかなりのタフジイ。帰り道も前後して歩いていたが、ロープウェイの前でかわされ、一便早く下山されてしまった。
オニギリ2個と菓子パン1個。残りの菓子パンは下山空腹時用に残す。雲が大分下がってきていた。陽はまだあたっているが展望も悪くなってきた。風も出はじめた。下山にかかる。小屋で石鎚グッズでも買おうかなと思ったが、気の利いた手ぬぐいもなかった。ここでもカップラーメンが380円。まだまだどんどん人が上がってくる。左右、中央、てんでばらばらに登ってくる。その都度、立ち止まって待っていないといけない。一般道路でも左通行、右通行としっかりと区分すべきかと思う。夜明峠から上を見たら、山頂はもう見えなくなっていた。本当に天気のいいうちに山頂に着いていてよかった。後は雨になっても心残りはない。
茶屋で休憩。そこに関西弁の夫婦。カミサンはトイレ探しでウロウロ。ダンナはよくしゃべる。1人でのべつブツブツ言っている。I男は話しかけられてしまい、ちょっと困った顔をして救いを求めてきた。こっちは気づかないふりをしていたが、運よくスズメバチがやってきたのを潮にその場から逃れた。ダンナの慌て方は異常とも思えるものだった。過去に刺されたことがあるのだろうか。そういえば、上る際にも、下り単独に聞かれたものだ。「こっちには蜂がいますかね?」と。蜂アレルギーの方が多い。養蜂家がするような網付き帽子を被っている女性も多数いた。八丁坂で休んでいる一団。よく見ると山頂直下ですれちがった30人グループ。かなり遅いペースで歩いてきたようだ。疲れ知らずか、大騒ぎをしている。無視して素通り。成就駅に着いたのは12時20分。この時間に出るロープウェイがベルを鳴らしていた。次の40分のにする。その間、I男は石鎚山バッチを買っていた。これから集めるつもりだそうだ。成就社近くの旅館でバイトでもしているのか、お兄さんがキャタピラ付きの自動リヤカーのようなものに野菜を積んで上がって行った。
ロープウェイの出発を待っていると、例のグループが乗って来た。あ~あと思ったが、たかが8分、いろんな話を聞いた。富山からやって来たこのグループは今朝、土小屋から登ってきたそうだ。地図を広げてみた。こんなに近いルートがあったんだ。ということは、行き交った人の多くはここから入った人たちかもしれない。昨日のそば屋のジイサンが成就社経由のルートがいいと言っていたので、つい、他のコースは見ていなかった。それからこのグループ、やはり、昨日は剣山に登り、早朝の歩き出しとともに雨に見舞われたそうだ。何も見えなかったとのこと。我々よりも条件は悪かったみたい。地元だけに、映画の「剱岳」の宣伝をやたらしていて、ロープウェイの中でチラシを配っていた。何でも、引率の方は映画にもエキストラで出たそうだ。「点の記」Tシャツを着ていた。今日はこれから道後温泉に泊まって打ち上げとのこと。
ロープウェイから下りて上を見上げる。朝の風景に戻っていた。どんよりした空。厚い雲。上では歩いている人もかなりいる。京屋旅館の風呂に入る。白濁色で塩味がした。普通、温泉に浸かった後は洗い流さないが、ここの湯は何だかネトネトしているので、シャワーで流してから出た。一応、着替えをして気分も身体もすっきりした。これから、2時間かけて、K女の待つ琴平温泉に向かう。
ロープウェイの始発は7時40分だったが、昨夜は二次会もせずに早々に寝たし、I男も爆睡しただけに5時半には起きていた。余裕を持って1時間前の6時40分に出ても十分に間に合うのだが、男2人、狭いツインの部屋にいても仕方がないので6時前に西条駅前のホテルを出た。天気は良好だが見えるはずの石鎚山は見えない。曇っていないだけましといったところ。隣のコンビニで飲食物を調達して出発。ホテルの受付嬢は登山口まで車で20分と言っていたが、昨夜のビール園の運転手さんは40分とのこと。人によって言うことが違うが実際は飛ばし気味で45分かかった。奥に行くほど、低空にガスが立ち込めている。今日もぱっとしない天気かなあ。
始発の運行まではまだ50分もある。最初に目についた京屋旅館に車を入れる。雑貨屋みたいな旅館。駐車代は500円。ここのロープウェイには、無料駐車場という施設がないようだ。車かバスでしか来られない所なのだから、ロープウェイ運行会社も駐車場くらいは確保すればいいのにと思う。地元の土産屋、旅館組合がうるさいのか。京屋旅館のトイレを借りる。男女共用で汲み取り式。これは我慢できるとしても、ペーパーがなく、紙を50円で購入。帰りにここの風呂を使った。ネットでは入浴料が300円と記されていたが500円とられた。確かに300円は安すぎの感があるのだが。
乗り場に向かう。修験スタイルが2人。山歩きは20人くらい。近くにトイレがあり、覗いてみたら、水洗・男女別・ペーパー付きだった。神仏の像がまとめて安置されている。雑然とした様は石屋の置き場といった感じがする。ここに徳利を持ったタヌキを置いても違和感がない。石鎚神社は役の行者(=役小角か?)が開山したとのことだが、自分には、この役小角と陰陽道の接点がよく分からない。影響面では決して無関係ではないだろう。土産屋でも天狗の面があちこちにあった。修験道の延長線上に天狗が存在することは理解できるのだが。ロープウェイを見上げる。どんどん雲が下りてきている。今日もダメかなぁとため息が出る。
ロープウェイは往復1,900円。荷物代が100円となっていた。荷物の制限表示がアバウトで一律の徴収かなと思っていたが、2,000円でお釣りがきた。ガスの中を8分少々で成就駅に到着。ロープウェイでの標高差850mの上には見事にも青空が広がっていた。ガスが上がり始めたばかりの様子。成就駅からの歩き出しは7時51分。しばらく歩いて下を見ると、厚い雲が雲海になって張り出している。この雲もまたいつ上がってくるかもしれず、良天のうちに早め早めの行程で戻らないといけない。今のところ、I男のピッチは控え目。和賀岳で懲りているはずだ。翌日は歩行困難だったそうだ。修験スタイルの2人が先行。オレ達の後ろに若い単独。ロープウェイを待っている間に、「彼は歩けそうだな」と値踏みしていた青年だ。やはり早い。カーブ続きの道を進む。カーブにはライトがある。どのカーブも同じ光景。成就社着8時6分。ここは割りと賑やかなところ。旅館も多い。ここからは人が多くなってくる。我々は始発に乗って来ているから、他コースからの合流点までは、前を歩いている人のほとんどがここの宿泊客であろう。小休止の間に後ろの青年に抜かれる。修験スタイルはここに立ち寄り。I男がいつものスタイルで、頭にタオルを巻く。汗をかなりかいているようだ。オレも結構な汗。暑くなってきた。
門をくぐって登山道。ここから長~く緩やかな下りになる。「八丁坂」だから800m程はあるのだろう。成就駅から成就社まで標高差で100m程上がり、八丁坂の下り切りまで100m程下る。あまり意味のないアップダウン。帰り道で上りが苦痛にならなきゃいいが。晴れ渡り、森林浴のいい気分。この道は参道になっているためか、そこいら中に賽銭箱がある。これに出会う度に喜捨をしていたら、山頂までに相当な金額になる。信心深く几帳面に金銭を入れていて山頂に着いたら雨だったでは何のありがたみもない。入れなかった自分だけに雨がシャワー式にあたるわけでもない。して、つまりは省略。信仰の敬虔さどころか山遊びの人間までをも対象に露骨に金銭にしてしまうこういう宗教活動はいかがなものか。最近のニュースでこういうのがあった。ラブホを経営している宗教法人が、その上がりの半分をお布施扱いにして税金を免れていたそうだ。利用客にとっては極楽の境地だろうからと解釈して、勝手にお布施扱いにしたということでもないだろうが、やることがあくどい。K女からメールが届く。「ただ今、ホテルでおいしい食事中」とのこと。彼女の本日のご予定は、金比羅神社参拝となっている。電車に乗り、参詣後は琴平温泉の旅館で先に風呂に入っているはずだ。彼女のことだから、賽銭も高いのを入れ、さらにご家族分のお札とお守りだろうか。
八丁坂の鞍部(8時22分)からいよいよ上り。ずっと続く木の階段がいやらしいが、道はしっかりしている。関西弁のオバサングループが6人。かん高い声をあげながら歩いている。追い越すものの、しばらくはおしゃべりが聞こえてくる。あの嬌声から早く逃れたい。木の間から石鎚の山頂がちらちらと見える。ここで「試しの鎖」。鎖場が3か所あることは知っていたが、これもそのうちの一つかと思ってしまった。ただ気になるのが、鎖場を左に迂回するルートには「近道」の標示があった。この鎖場は近道じゃないのかね。鎖場の下ではカップルが躊躇している気配があったが、お先にと先に登る。左右2本。ここは74mで、4か所の鎖場の中では一番長い。I男にとっては初めての経験なのだろう。かなり慎重に登って来る。登り切った狭いピークには祠があり、眺望は良く、正面には石鎚山が見えた。はるか彼方に、あれは絶対に剣山だろうと思われる山が見えた。昨日のまぼろしの山。汗だくの身体には風があったって気持ちがいい。しかし、余計な歩きをしてしまったようだ。この鎖場は決してショートカットルートではなかった。ただの付属コース。下に見える登山道にどうやって戻ればいいんだ。しばらく腹ばいになってルートを探しまわった。まさか登った鎖を下るわけではあるまい。下からはI男とカップルが上がって来ている。ずっと下ではオバサンたちが待機している可能性もある。これではしばらくは戻れない。ようやく登ってきたI男だが、「ここ、どうやって下りるんですか?」と聞かれてしまった。ただ鎖の延長を見れば、そのまま反対側が下りになっていただけのことだったが。
下の茶屋に何とか下りたものの、余計なことをして15分ばかり時間を無駄にしてしまった。同じロープウェイに乗った単独が2人、茶屋でタバコを吸って休んでいた。あのオバサンたちはやはりあの鎖場を登ったようだ。夜明峠9時23分。ここで休む。その間、茶屋で休んでいた2人に先行される。ここから正式な鎖場が登場。I男はさっきの鎖場がスリルがあって楽しかったのだろうか、「一の鎖」を選んだ。オレは巻き道。この鎖場は33m。試しの鎖の半分。結果的には、巻き道の方が早かった。2分程、I男の到着を待っていた。これは後で聞いた話だが、I男は鎖場で異様な光景を見てしまった。鎖から1mも離れていない岩場の斜面に人糞があったそうだ。動物のじゃないの?と確認したら、テッシュ付きだったから人間のものだという。ちょっと身体をよじらせてしまったら、間違いなく身体に付着するような状態だったとか。これが本当なら、どういう神経の持ち主なのだろう。情況はいろいろ詮索できる。緊急事態ながらも前後をずっと団体に挟まれ、鎖場でようやく逃げ切った安堵感もあるだろうし、だれもいなかったからといった単純な理由からもあるだろう。極度の緊張感からかもしれない。いずれにせよ、I男にとって鎖場の印象はすこぶる悪くなり、残りの鎖場は、ためらわずに巻き道を選んでいた。
9時44分二の鎖、9時56分三の鎖。二の鎖は気まぐれに一人で登ってみた。これが長い。65m。鎖も4、5本垂れている所もあった。ニセ終点が3か所程あってだまされた。しかし、巻き道ルートのI男よりは早かった。鎖場は体力の消耗でしかない。三の鎖69mは2人ともパス。鎖場の4か所ともに、後でコース案内書で確認した長さを記した。事前に知っていたら、効率よく鎖場を利用しただろうが、まさか、一番短い一の鎖の状況がああではね。鎖場を過ぎると鉄板の階段になる。左が上りで右が下り。左は山側で手すりを中央部合わせて2本使えるが、右は谷川で中央の手すりしか使えない。ちょっとこわい。上からどんどん人が下りてくる。随分登山客が多い。30人程の団体。こういうのは困るね。こっちはこれから山頂だから、出くわすことはないだろうけど。この時までは、成就周辺の旅館が昨夜はかなり繁盛したろうなといった感じでしかなかった。そんなに収容キャパがあるのかなとも。
10時04分、山頂。天気はまだセーフ。ただ、瀬戸内海も大山も見えない。試しの鎖場からここまで続く登山道がしっかりと見える。変な山頂。小屋と神社。下がなければ山頂には見えない。混雑もしているし、さっさと天狗岳に逃げる。混雑度は1/10だ。成就駅のポスターで見たが、天狗岳の紅葉はすごくきれいだね。今はただの岩山でしかない。I男が怖そうに付いてきた。途中、ルートが分からずに立ち往生していた単独も付いてきた。10時16分天狗岳山頂。やはり、こっちの方が展望も居心地もいいよ。昼ごはんにする。いつの間にやら、同じロープウェイのジイサンが隣に腰掛けていた。この方、疲れているように見えていてかなりのタフジイ。帰り道も前後して歩いていたが、ロープウェイの前でかわされ、一便早く下山されてしまった。
オニギリ2個と菓子パン1個。残りの菓子パンは下山空腹時用に残す。雲が大分下がってきていた。陽はまだあたっているが展望も悪くなってきた。風も出はじめた。下山にかかる。小屋で石鎚グッズでも買おうかなと思ったが、気の利いた手ぬぐいもなかった。ここでもカップラーメンが380円。まだまだどんどん人が上がってくる。左右、中央、てんでばらばらに登ってくる。その都度、立ち止まって待っていないといけない。一般道路でも左通行、右通行としっかりと区分すべきかと思う。夜明峠から上を見たら、山頂はもう見えなくなっていた。本当に天気のいいうちに山頂に着いていてよかった。後は雨になっても心残りはない。
茶屋で休憩。そこに関西弁の夫婦。カミサンはトイレ探しでウロウロ。ダンナはよくしゃべる。1人でのべつブツブツ言っている。I男は話しかけられてしまい、ちょっと困った顔をして救いを求めてきた。こっちは気づかないふりをしていたが、運よくスズメバチがやってきたのを潮にその場から逃れた。ダンナの慌て方は異常とも思えるものだった。過去に刺されたことがあるのだろうか。そういえば、上る際にも、下り単独に聞かれたものだ。「こっちには蜂がいますかね?」と。蜂アレルギーの方が多い。養蜂家がするような網付き帽子を被っている女性も多数いた。八丁坂で休んでいる一団。よく見ると山頂直下ですれちがった30人グループ。かなり遅いペースで歩いてきたようだ。疲れ知らずか、大騒ぎをしている。無視して素通り。成就駅に着いたのは12時20分。この時間に出るロープウェイがベルを鳴らしていた。次の40分のにする。その間、I男は石鎚山バッチを買っていた。これから集めるつもりだそうだ。成就社近くの旅館でバイトでもしているのか、お兄さんがキャタピラ付きの自動リヤカーのようなものに野菜を積んで上がって行った。
ロープウェイの出発を待っていると、例のグループが乗って来た。あ~あと思ったが、たかが8分、いろんな話を聞いた。富山からやって来たこのグループは今朝、土小屋から登ってきたそうだ。地図を広げてみた。こんなに近いルートがあったんだ。ということは、行き交った人の多くはここから入った人たちかもしれない。昨日のそば屋のジイサンが成就社経由のルートがいいと言っていたので、つい、他のコースは見ていなかった。それからこのグループ、やはり、昨日は剣山に登り、早朝の歩き出しとともに雨に見舞われたそうだ。何も見えなかったとのこと。我々よりも条件は悪かったみたい。地元だけに、映画の「剱岳」の宣伝をやたらしていて、ロープウェイの中でチラシを配っていた。何でも、引率の方は映画にもエキストラで出たそうだ。「点の記」Tシャツを着ていた。今日はこれから道後温泉に泊まって打ち上げとのこと。
ロープウェイから下りて上を見上げる。朝の風景に戻っていた。どんよりした空。厚い雲。上では歩いている人もかなりいる。京屋旅館の風呂に入る。白濁色で塩味がした。普通、温泉に浸かった後は洗い流さないが、ここの湯は何だかネトネトしているので、シャワーで流してから出た。一応、着替えをして気分も身体もすっきりした。これから、2時間かけて、K女の待つ琴平温泉に向かう。