急に食べなくなった。
その日が始まりじゃなかったのだと今更気づいた。
おはようございます。
9月に入った頃、たれ蔵が寝なくなった。
少なくとも、土日になると、たれ蔵は昼寝もしないで、
私にべったり甘えていたし、
夜になり部屋が寝静まっても、私がトイレに起きると、
たれ蔵はどこからともなく表れてトイレへ着いてきた。
「たれちゃん、猫はうんと寝なくちゃいけないんだよ?
母ちゃんに付き合っていると、寝不足になるんだから。」
私はそう言って、たれ蔵をしばらく膝に抱いていた。
「そうだそうだ。たれ蔵は赤ちゃんの頃は、
すごい甘ったれだったもんな。」
だから、ほくろと名付けたのに、たれ蔵と呼ぶようになった。
「たれ蔵、長生きするんだよ。絶対よ。」
私は、たれ蔵を抱くたび、そう念を押した。
どういう訳か、私は以前から予感していた。
たれ蔵を育て始めた、あの時からかも知れない。
「君は、うんと早くに消えてしまいやしないか?」
そんな予感が、かき消してもかき消しても、浮かんで来る。
よく食べてよく遊ぶ、健康な猫なのに、どうしてそんな予感がするのか。
自分でも不思議でならなかったが、抗う気持ちにもなれなかった。
けれどせめて、私は、その予感を決して誰にも話さなかった。
言葉にして放ってしまったら、
運命がその通りに動き出してしまいやしないかと怖かったからだ。
11月26日、
この部屋のちょうど真上に月が浮かぶ頃、
ほくろたれ蔵は、夜空に召されていった。
朝、昏睡状態に陥り、それ以来、
私とおじさんは、何度も「たれ蔵」と呼んでは撫ぜた。
それはそれは、鬱陶しかったろうが、
その都度、たれ蔵の瞳はまるで返事をするように輝いた。
「うんうん、ゆっくり眠るんだよ?」
そう言って、でもまた「たれ蔵」と呼ぶものだから、
たれ蔵はなかなか永眠が出来なかっただろう。
最期は、本当に静かに眠りに就いた。
たれ蔵の運命は、誰にも話さなかったのに抗えなかった。
けれど、悔しいとは思わない。
どういう訳か、とても素直に受け入れている。
争いを好まない優しい優等生だったから、
最期まで、たれ蔵らしい生き様を残して逝ってくれた。
たれ蔵、ありがとう。
私の元へ来てくれて、ありがとう。
私の元で逝ってくれて、ありがとう。
たれ蔵に、暖かい応援、心強い励ましを下さった皆様、
誠にありがとうございました。
どうか、これからも、この美しくすんばらしい猫を、
時々でもいいので、思い出してやってください。
という、惚気でしたすみません。