今週は、久しぶりに雨が続いた。
冷たい雨だ。
おはようございます。
雨の日は、なかなか野良猫には会えないはずだが、
マアコは、冷たい雨をキンピカハウスの中から眺めていた。
飯時になれば、ハウスからそそくさ出て来て、
食事が済めば、またハウスにそそくさと戻る。
雨の日のマアコの日常も、知れるようになった。
晴れた日は、マアコはご飯を食べた後、決まって散歩に出かける。
その先には、どうやら仲の良いオス猫もいるらしい。
この季節、他に誘ってくるオス猫もいるが、
そんなオス猫には、マアコは一瞥もくれず、
ゆったり歩き去り、田んぼへ行って小鳥を追いかけたりする。
夕方になれば、車庫の前で私を待っている時もある。
待っていない時は、だいたい遠くの田んぼにいる。
私は、猫にしか聞こえない音量でマアコを呼ぶ。
「マアコ、ご飯だよ。」
気付いたって駆け寄っては来ない。
ゆっくり歩いて向かってくる。
マアコの日常は、日なたで見ることが増えた。
びくびくと逃げ隠れていた頃のマアコの日常が、どうだったか知らない。
日なたでマアコを見かけることは滅多になかったからだ。
マアコを日なたに引っ張り出したのは、でっかだった。
あの底抜けに明るい子猫は、
人に馴れないくせに、やたらでかい声で飯をねだり、
ころころ転がりながら笑顔で駆け寄ってきていた。
途中、後ろを振り返って、母猫であるマアコを呼ぶ。
その声もまたでかい。
マアコとしては、ひっそり忍び寄りながら辺りを警戒したいのに、
でっかの大胆な行動では、びくびくもしていられない。
キンピカハウスだって、
マアコが人の手で作ったハウスに入る日が来るなんて、
マアコ自身も想像したことが無かっただろうに、
でっかが嬉しそうに入るもんだから、釣られて入ってみるしかなかったのだろう。
そんな調子で、マアコはまるで、
楽しくって仕方ない様子のでっかに手を引かれて
日なたに引っ張り出されるように出来ることが増えて行った。
そして今、
図らずも私までもが、日なたに引っ張り出された気分を味わっている。
でっかはこっそりTNRするつもりだった。
今の私は、馴れてもいない野良猫を保護する余裕などない。
実家では、かずこ以上に、さらに癖の強い父がアル中になったのか認知症になったのか、
どっちでもいいが、とにかく厄介な状態になっている。
私の精神状態は、ギリギリだった。
その上、
わざわざでっかをマアコから無理に引き離してまで保護して、
あの笑顔を奪ったら、私は壊れる。
でっかを奪われたマアコが、
また陰に隠れるようになってしまったら、私は壊れる。
ついでに、
我が家の猫らが、でっかを受け入れられず酷いストレスを抱えたら、
もうほんと、壊れてしまう。
それでも私は、
大げさなようだが、本気で人生を賭けて、でっかを保護すると決心した。
「もう、どうにでもなれ、壊れてしまえ!」
と阿呆になったのだ。
この時点で、じゃっかん壊れていたのかもしれない。
それなのに今、私は毎日、大いに笑っている。
壊れてしまったからじゃない・・・と思いたい。
でっかが、私を日なたに引っ張り出した。
くすぐったくて、暗い所に隠れていたい気持ちもあれど、
どういう訳か、今の私は陽の差す方しか見えていない。
実家の状況は、決して楽観視できないが、
「あのクソじじぃも、日なたへ引っ張り出してやる!」
と息巻いている。
私は、人生の賭けに勝った。
そんな風には思わない。
とても、そんな偉そうには言えない。
そもそもオス嫌いで気難しい、おたまは、
どういう訳か、今回ばかりは大活躍だ。
「おい、でかチビ。追いかけっこしてやるだ!」
といった風に、自分をでっかに追い掛けさせる。
おたまは、追いかけられるのが、大の苦手なくせに。
のん太は、でっかにとって、全く遠慮の要らない相手のようだ。
のん太が寝ていようが、お構いなしにドカンと乗っかり、
プロレスごっこをねだる。
いついかなる時も、のん太は怒ったりせず、
しばらく相手をしてやる。
幼い頃から、大のプロレスごっこ嫌いだったくせに。
あやは、相変わらず、非常に安定している。
「猫の恐ろしさ、勉強しな!」
といった具合に、シャー!で2メートル先のでっかを倒し、
普通に、すれ違おうとしているでっかを、ぶっ叩いて倒している。
底抜け明るいでっかは、それも楽しそうだ。
優しく見守っているように見える、あやだけど
母のように佇んでいるように見える、あやなんだけど
あや「おりゃぁ、やるんか、こんにゃろーめ!」
と言っています。
私のやったことは、ごめんというべきだ。
マアコ、ごめん。
あや、ごめん。
おたま、ごめん。
のん太、ごめん。
でっか、マアコと引き離して、ごめんよ。
だけど、
私の口からは、ありがとう、それしか出て来ない。
皆、ありがとう。
私はまた、猫に救われた気分だ。