うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

マアコとの約束 4

2025年01月24日 | マアコのこと

マアコをリターンしたのは、

土曜日の静かな朝だった。

 

おはようございます。

人気のない環境でリターンするのが好ましいと思い、金曜日に避妊をした。

案の定、土曜日の会社は静かだった。

私は、走り去ったマアコをしばらく探し、また車庫の奥に引っ込んでしまったデッカに

「デッカ、また来るね。」

と声を掛けて家に戻った。

そして帰るなり、キャリーケースを持ち出して、車に積んだ。

万が一、マアコが戻って来なかった時、デッカを保護するための部屋の準備も始めた。

「やるなら、月曜日の夕方になる。」

私は、おじさんにそう告げ、

呑気に寝ている我が家の猫らを見渡して、

「いったん、地獄絵図になるで~。」

と言って、笑ってみせた。

 

避妊を強いたのは、私の勝手だ。

そのせいで、この親子の運命を引っ搔き回してしまったかもしれない。

それどころか、私がマアコと約束さえしなければと後悔が過った。

幾度も繰り返してきた、様々な約束すべてが、

私の過ちの元だったのかもしれない。

「これからお前はマアコ。名前を付けるってことは責任持つってことだ。」

そう宣言して以来、いくつもの約束をした。

・絶対に、毎日ご飯を持ってくる約束。

・夏に産まれた子猫らを託してもらう約束。

・秋に産まれた、最後の子は決して奪わない約束。

・決して、マアコを騙したりしないという約束。

そして今は、「必ず戻ってこい」と約束をしている。

他にも、書くほどでもない約束は数々ある。

並べてみると、まったく私の勝手な都合ばかりだ。

しかも、去年は子猫の保護が続き、我が家の猫も体調を崩した。

外でも内でも、私の勝手で引っ掻き回してしまい、

いたたまれなくて、もう、笑うしかなかった。

 

しかし、父からの電話攻撃は笑っていられなかった。

「もう運転するのはやめて欲しい。」

と、伝えた日以来、

一週間、父はもはや半狂乱だ。

朝から酒を煽って、電話を掛けまくって来る。

何度も何度も、何を言っているのか聞き取れない言葉を繰り返す。

挙句に、この日は、

「さっき、警察署行って来たら、休みだってよ。

免許更新はできんらしいから、明日また行ってくらぁ。へへへへ・・・」

と、ろれつも回らない状態でのたまった。

「ちょっと待って。朝もビール吞んでたよね?そのまま、運転して行ったの?」

私は、スマホを持ったまま叫びながら家を飛び出し実家へ向かった。

「父さん、本当にもうダメ。車のキーをよこして。」

「ばかやろう。お前みたいな何の苦労も知らん脳のない奴が、

そういう下らんことを簡単に言いやがる。」

その後は、省略する。

地獄絵図のような言い争いが続いただけで、なんの進展もない。

 

しかし、日が傾きかけた頃、私は、

「あっ、もう行かないと。」

と言って、父との言い争いを唐突に切り上げ、実家を後にした。

デッカの夕飯の時間だ。

さすがに、リターン当日にマアコが現れるはずはないから、

デッカのご飯だけを持って、会社へ行った。

会社に着き、車を降りるなり、

「デッカ!」

と、車庫に向かって叫んだ。

名前を呼ぶと、やっぱりデッカは車庫の奥で泣いていた。

でも出ては来ない。

私は、父との言い争いのせいで、

身体中に刺さった無数の棘を剥がすように、大きく深呼吸をした。

そして、もう一度、デッカを呼ぶ。

「デッ・・・・んん?」

「ニャッ」

「マッ・・・マアコ?」

なんと、マアコが現れた。

リターンして、たった7時間後、

マアコは、いつもの時間に、ごく当たり前のように現れた。

「マアコ、もう戻って来たの?マアコ、おかえり。体は大丈夫かい?」

そう言うと、マアコは分かっているのかいないのか、目を細めて、

「ニャン」

と鳴いた。

その声が、いつもよりしゃがれていて、

病院でさぞや激しく鳴いていたのだろうことが想像できた。

私の声も、連日の父との言い争いで、すっかりしゃがれていた。

そして、デッカも24時間、泣きじゃくって、すっかり声が枯れている。

 

「デッカ、お母さん帰って来たよ。」

デッカがついに、車庫から出てきた。

マアコが居なくなり車庫の奥に籠城して以来、24時間ぶりに当たる太陽だ。

眩しいだろうに、デッカの眼は太陽よりも輝いていた。

そして、デッカは躊躇なくマアコに駆け寄った。

「よし!」

私は思わずガッツポーズを取った。

 

が、その数秒後・・・

デッカ「ふー、うぅー」

マアコに威嚇した。

 この瞬間、私とマアコは、

「へっ?」

だ。

そして、次の瞬間は、

「あっ!」

だった。

マアコの被毛にこびり付く病院の匂いのせいで、デッカはマアコを認識できないのだ。

ふーふーううー唸りながら後退りしていくデッカ。

マアコは私に、

「どしよ?」

と言わんばかりの視線を送ってきた。

私は、

「取りあえずチュール舐めて落ち着こう。」

と言って、急いでチュールを取り出した。

いついかなる時もチュールは頼りだ。

チュールは偉大だ。

マアコは、チュールを1本舐めきり、

そそくさと階段を降りて行き、地面に体を擦り付ける。

「そうだ、さすがマアコ!」

そこは、マアコとデッカが排尿する場所だ。

マアコは、デッカに自分を気付かせようと懸命に臭い付けをし、

私はデッカに、

「ほら、見てごらんよ。マアコだぞ〜。ほらほら、マアコだぞ〜。」

と言い聞かせた。

 

デッカ「あれは母ちゃんか?ほんとに母ちゃんなのか?」

 

結局、デッカの疑いは拭い切れぬまま、

そのくせ、ゆっくり歩いて行くマアコについて行った。

恐る恐るだが、シッポをピーンと立たせているデッカを見て、

「あれなら大丈夫。」

と安堵して、帰った。

 

しかし、安堵は夜中に吹き飛ばされた。

父は酒を呑み続けたせいで、ついにぶっ倒れ、

父よりボケ具合がハイレベルなかずこが、

救急車を呼ぶことに成功してしまう事態となった。

けれど、ただの酔っ払い相手に、救急隊員は優しかった。

「病気じゃなくて良かったですよね。」

私は、怒りにわなわな震えながら、何度も謝罪をした。

もちろん、父は病院へ搬送されず、寝床まで運んでもらった。

 

翌朝、実家へ行くと、父さんの右まぶたが腫れていた。

私は、

「顔から倒れたんやな。父さん、昨夜の事覚えとる?」

と聞いた。

どうせ、覚えてないだろう?を含む聞き方だ。

ところが父は、

「覚えとる。」

と、小さな声で答え、ソファにうなだれた。

そのまま、

「分かっとるんだ。分かっとるが、どうしても納得がいかん。

自分の1番大事なもんを奪われたら、俺全部を否定された気分になる。

いや、分かる。お前は一生懸命やってくれとる。

その上、お前に面倒かけたらあかんと分かっとる。

すまんなぁ。でもどうしても、ホイホイと簡単には納得できんのだ。」

と続けた。

その時、私の脳裏にはマアコの姿が浮かんだ。

そして、ハッとした。

「私も苦しい。

誰かの大事なもんを奪うって、こんなに苦しいんかってくらい苦しい。」

マアコとの、これまでの苦悩と、父への苦悩が重なり、

この時ようやく、分かったような振りして、父を責め続けていた自分に気付いた。

本当に苦しいのは私じゃない。

「何が合ってて何が違うかは分かんない。

ただ守りたいもんのために、私はこんな事しか出来んのよ。」

そう言葉を絞り出すと、父はソファから立ち上がり、

棚の引き出しから車のキーを2つ取り出した。

「ひとつはスペアキーな。どっちも持ってってくれ。

目の前にあると、またボケて、全部忘れて乗っちまうからよ。」

そう言ってテーブルに置かれたキーは、2つとも傷ひとつ無かった。

17年落ちの愛車を、キーさえも大切にして来た証だ。

私は、それを丁寧にカバンの奥へしまった。

 

現在、マアコとデッカは、すっかり日常に戻っている。

とはいえ、デッカのマザコン振りは、増したかもしれない。

 

父は、少し気持ちが落ち着いて来たように見える。

その上、以前より悪態をつく頻度はうんと減った。

でも、酒の量は減らない。

もう少しこのまま、気が済むまで待つことにする。

 

私は、猫との約束は、もう懲り懲りだと思っている。

ただ、マアコと約束しなければ、

今私は、この場に立って居なかっただろう。

マアコの強さと愛に触れ、父の苦しみと覚悟を知った。

その全ての景色を、私は見ることが出来なかったに違いない。

そんな中、様々な人に励まされ、幾人かの人に出会い、

多くの助けを得られたことも、忘れてはいけない。

 

そして、私はきっと、また懲りずにマアコと約束を交わすのだろう。

その節は、またよろしく、マアコ!

 

長い長い記事を読んで頂き、ありがとうございました。


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