うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

その手を撫ぜた日

2022年02月19日 | カズコさんの事

母さんが、

あのドロップみたいな指輪を外した。

 

おはようございます。

母さんは、昔から派手な女だった。

大胆な柄の洋服を着て、どんな時でもパンプスを履く。

運動靴なんてものは、決して履かない。

ばっちりフルメイクを施し、指に大きなダイヤモンドの指輪をはめる。

身支度は、入念だった。

 

で、どこへお出かけするかといえば、

パチンコ屋か飲み屋だ。

正確には、パチンコ玉を打ってから飲み屋へなだれ込む。

勝てば上機嫌で酒をあおり、負ければやけ酒だ。

いずれにしても、帰宅する頃には、泥酔状態で父さんに噛みついていた。

これが、毎日のように続く、当たり前の日常だった。

 

私が学校で、85点を取ったと自慢したって、

酔っぱらって帰ってきた母さんは聞いちゃくれない。

100点なら褒めてくれるのだろうか?

でもね、このテストは100点は無理なんだ。

すっごく意地の悪い問題が多かったんだ。

あの、藤原さんだって100点取れなかったくらい、

難しかったんだから。

だから、85点は上出来な方なんだ。

 

そんな言い訳は、いつも私の脳内の独り芝居に終わる。

心配しなくともいい。

母さんは、私の学校での成績など、気にもしないのだ。

0点を取ったって、報告する必要もない。

報告したって、叱られる心配もない。

母さんは、勉強しなさいだなんて、そんなありふれた叱り方はしない。

むしろ、うっかり母さんの前で勉強なんてしようものなら、

「おまえ、勉強しとる暇があるんやったら、家の掃除をせんかい!」

と、こっぴどく叱られてしまう。

家の手伝いは大げさに堂々と、勉強はこっそりとするものだ。

私は、隠し事が好きじゃないタチだから、勉強は断固として一切しなかったが、

その代わり、母さんの真ん前で大げさに掃除機を唸らせたかった。

でも、母さんはそんな時間には帰ってくれない。

夜遅くに酔っぱらって帰った母さんに、

「今日はね、家中、すっごく綺麗になってるでしょ?ねえ、見てよ。」

なんて、言う気にもなれなかった。

 

だから、私は、パチンコと酒を憎んだ。

そして、大きなドロップみたいな指輪を恨んだ。

酔っぱらって、父さんと喧嘩をしている声を聞きながら、

煎餅みたいなみすぼらしい布団にもぐって目を閉じると、

脳裏に浮かぶのは、あのドロップみたいな指輪をした、母さんの白い手だ。

触れた記憶のない手だ。

今すぐ起き上がり食卓へ行けば、あの手がある。

「母さん、あたしの頭を撫ぜてよ。」と言ってみようか。

いや、出来ない。

そんなこと、してくれやしない。

それに、どうせ、

あんなドロップみたいなごつい指輪のせいで、

撫ぜられたって、頭に当たって痛くなるじゃないか。

そんな妄想をしながら、眠りにつく。

これが、私の日常だった。

 

今は、さすがにパチンコ屋へも飲み屋へも行かなくなった。

その代わりに病院で血を取られた後、スーパーへなだれ込むわけだが

そんな時でも、ドロップみたいな指輪をはめて出掛けるのだ。

が、ある日、

母さんの指から指輪が消えた。

「母さん、指輪ははめんのか?」

そう問うと、母さんは指を擦りながら

「売ったんや。この前、家に来た人に、全部、売ったんや。」

と言った。

私は狼狽たまま、

「いくらで?」と聞いた。

「10個全部売ったら、13万円も貰えたんやで。」

安い、安すぎる。

金の相場で換算したって、安すぎる。

私は、咄嗟に、

「やられたー。」っと突っ伏した。

 

売った先は、訪問型の悪徳買い取り業者だろう。

今の母と話せば、誰だって認知症を疑うくらい、ボケている。

そんな老人の貴金属を買い取りに来るなんて、

悪徳と付けていい類の買い取り業者だ。

しかし、家中を探しても、明細も何もない。

業者の会社名も分からないんじゃ、どうにもならない。

まったくもって、してやられた訳だ。

当の母さんは、

「もう要らんから売ったんや。」

と、ケロッと言う。

それならいい。

損して得取れだ。

どんな得かは知らないが、母さんがいいなら、それでいい。

 

改めて、見てみれば、

指輪を外した母さんの手は、昔みたいに白くなかった。

シミだらけで酷く乾燥している。

私は、今更、こんなしわくちゃな手で撫ぜてもらおうと思わない。

家の掃除は、子供の頃と何ら変わらず、

四角い部屋を丸く掃除する訳だから、褒めらたもんじゃない。

だから私は、その代わりに、シワシワの手にハンドクリームを塗ってやった。

触れたくて、触れられたくて、恋焦がれた母さんの手。

手を伸ばせば触れるはずが、一番遠くに感じた手だ。

それなのに、

指輪を外した母さんの手は、今、いつだって触れられる。

なんと、不思議なものだろう。

 

こっちも恋焦がれ中なのだけれどね

のんちゃん、かかぁは今、お洗濯物を畳んでいるんだよ。

 

のん太「かかぁ、かかぁ、のんを撫ぜろ」

うん、撫ぜるけど撫ぜるけども

 

のん太「かかぁ、かかぁ、かかぁったら~」

うん、撫ぜるけどもが、畳みたいのだよ

 

さて、そろそろ降りようか?

畳みたいから

 

のん太「いやら!のんは絶対、撫ぜられるのら!」

しがみ付いている

 

のん太「のんを撫ぜろ、かかぁ、かかぁ」

もはや、この恰好では撫ぜられんぞ


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6 コメント

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Unknown (ひいな)
2022-02-19 17:55:48
こんばんは。

とても純粋に、子供が傷つくという事を
知らない親っているんですよね。
うちもそうでした。
そう言えば昔、悪かった頃、たまり場に
なっていた先輩のアパートに、家出をした
娘を心配して探し歩いて尋ねてきた母親が
いました。
「うるせぇよ!ババァ」と追い返していましたが、
なんでかなぁと思いました。
私だったら手を繋いで帰るのにって。

守られた事がないのに、今は守る立場に
いらっしゃるってどんな気持ちなのでしょうか。
私は父を受け入れられなかったから、
とても難しいような、でも痴呆になって
邪気のない姿を見せるお母さんは愛しいの
でしょうか。
のんちゃん、癒やしですね^^
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Unknown (ポンまま)
2022-02-19 17:59:36
あたしも人のことは言えないんだけどさ、
こうして幼い娘にそんな思いをさせてしまったのかーと
思うと、カズコさんも子供生んじゃいけない
人だったのかもね~って思っちゃうね。
けどさ、一見慈愛に満ちた、日本の母代表!
みたいな顔してたかずえさんもさ、
洋服に関しては執着が凄くてね~。
私がまだ4~5歳くらいの頃。
その日は風が凄く強い日で、息が出来なくなった私は
母の身体に顔を付けて、何とか息をしようと思ったのね。
だってそうしないと死ぬかと思うくらい
風、強かったからね。
そしたらいきなり「鼻がつく!服が汚れる!」って
無理矢理引き離されちゃったのぉ~。
その日、スタンドカラーのお気に入りの
スプリングコートを初めて着てお出掛けしたかずえさん。
あたしゃ幼心に「この人、子供が死にそうになってるのに
コートの方が大事なんだ」って呆然としたこと覚えてる。
後年それを言うとね、謝るどころか
「あんたは昔のことをいつまでもしつこい!」って
逆ギレされた~(*≧艸≦)マジデウケタ~!
でもさ、今のおかっぱさんがいるのは
やっぱりカズコさんが母親だったからで
色んな人の心に寄り添える力を、カズコさんが
授けてくれたんだろうな~って
あたしは素直に思うんだよ。
年を取って娘にハンドクリームを塗ってもらう。
それがどんなに幸せなことか
きっとカズコさんは、そこをそんな風には
考えてくれないだろうけど、嬉しい気持ちに間違いはない。
のんちゃんは、まるで寂しかったおかっぱさんの
心の隙間を埋めてくれるような子だね~(*^。^*)
結局そうやって、起きること全てが、人生の辻褄を
合わせてくれているのかな~って思うね(^-^ )
長くなってすんまそんm(_ _)m
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ひいなさんへ (おかっぱ)
2022-02-20 06:25:12
ひいなさん、おはようございます。
ひいなさんもでしたか。
私も、親に心配してもらえて「うるさい」って言ってた友達に、
同じように思った。朝帰りしてもストーカーに狙われた時も
親に心配してもらったこと、ないんです。
もはや、気付きもしてもらえてなかった(笑)
なのに、戻ってきちゃったんです、地元に。
どうしてなんだろう?今、どうして母さんを守ろうとするんだろう?
これ、自分でもよく分からないんです。
ただ、なんというか、母さんって興味深いんです。
人として、興味深い。
最悪な女なんだけど(笑)、でも彼女は真っすぐでね。
まっ直ぐで懸命で、澄んだ悪魔みたい。
凶器みたいに澄みきった彼女に、思わず
魅了されてしまっているかもしれない。

そそ、のん太はかかぁ命で癒される~(笑)
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ポンちゃんままさんへ (おかっぱ)
2022-02-20 06:40:06
ままん、おはようございます。
そっか、かずえさんにとってお洋服が汚れるのは嫌だったんだね。
でも小さな子には、傷付いちゃうよね、それ。
独りの人間としては理解できるけど、
まっさらな子供は、まっすぐ傷付いちゃうもんね。
私の問題は、残ってる気がするんだよ。
私の中に残っているバケモンみたいになってる問題が。
それが時々、自分を攻撃してくる。
本当に、壊れてしまうかもって時がある。
若い頃はそれに負けて、身も心も滅茶苦茶になったし、
もう黒歴史が・・・(笑)
だから、本物のバケモンであるかずこさんを見るのが、
特効薬な気がする。あの人は規格外だもんね(笑)。
昨日はね、また家出してきてさ、パチンコ連れて行ったよ。
でやっぱり、勝っちゃうのね。二人とも勝っちゃう。
かずこの魔力で勝ったような気がして、おかしかった(笑笑)。
間違いなく、今の私を保ってくれているのが猫達だね。
ほんと、猫を拾っただけなのに、
ままんと繋がれたり、癒されたり、守られたり、
学べたりしているんだもんね。
だからね、畳むのを諦めて、のん太を抱きました(爆)。
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Unknown (チコ)
2022-02-20 11:35:05
いつも昔のお話を読みながら、おかっぱさんのお母様に対する今の優しさは どこからくるのか? 本当に頭が下がります。

私は母を許せずに、もはや20年経ちました。この人がいなければ今の自分は居なかった!とは思いますが、話す気持ちにはなれません。
その分、我が子達とは仲良くやっております(*^^*)
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チコさんへ (おかっぱ)
2022-02-20 16:47:54
チコさん、こんいちは。
いえいえ、私は全然優しくないんです。
親孝行しようとか、そんな気持ちは毛頭なくて、
きっと疑問を晴らしたいというか、
母さんという人間を知りたいなって思っているからなのかもしれません。
知りたがりぃなんです、私(笑)
うん、会わないという選択はあっていいと思う。
実は私の姉は、その選択をしています。
今の自分の家族との暮らしを大切にしています。
良かったね、姉ちゃんって、心から思います。
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