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夕づく夜小倉の山に鳴く鹿の
声のうちにや秋は暮るらむ 紀貫之
銀杏並木が美しい11月29日、夕ざりの茶事をしました。
社中の先輩、Yさま、Mさま、Hさまをお招きしました。
秋の陽はつるべ落としに暮れるので、3時半の席入です。
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待合に「舞秋風」を掛けました。
紅葉が絵で表された、矢野一甫和尚筆のお軸は、
準教授拝受の折に恩師N先生から贈られたお品です。
正客YさまはN先生の茶友でもあり、一入喜んでくださって嬉しいです。
本床には、白椿一枝を尺八にいれました。
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(翌日で花が開いていますが・・)
ご挨拶のあと、初炭です。
灑雪庵には炉が切られていないので、置炉です。
大好きな炉の風情が置炉では今一つなのが気になっていました。
するとYさまから
「阪神大震災の後、一時関東住まいしていた時は置炉でした。
懐かしいです・・・」
とお声があり、流石、N先生の茶友です・・・心がぴったり寄り添いました。
いつか京都で必ず役立つと思い、早くから買い求めた置炉に
釜は、これ一つだけと持ってきた天命写・責紐釜。
初炭で香は焚かずに、香席を設けました。
折据をまわして札を開けると、
正客のYさまが月(本香)、次客のMさまが花(次香)を引きました。
Yさまが香包を選び、香を焚いて廻すと、仄かな香りが漂い始めました。
末席でその香を聞くと、上品で清らかな伽羅の香です。
香銘は、和歌(夕づく夜・・・)より「小牡鹿(さおしか)」です。
Mさまが次香を焚いてくださいました。
本香とは全く違う香りで、強く、やや甘く?・・お香は表現が難しいです。
香銘は「時雨」、香木は真那蛮(まなばん)です。
香炉をまわしながら、奥深い香りの妙を楽しみ、
2種の異なる香の魅力に全員で酔いしれたひと時でした・・・。
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一人亭主なので懐石準備に時間が掛かるのが気がかりで
「香銘に因む和歌でも如何かしら?」と思ったのですが、
清談をご所望され、これもお客さま次第で好かったようです。
「ごゆっくり準備してくださいまし」のお声かけを頂き、
安心して準備に掛かりました。
懐石献立
向付 蕪蒸し(蕪、穴子、百合根、きのこ、銀杏)
ツボツボ 紅白なます
飯 コシヒカリ(近江産新米)
汁 色紙大根 紅葉麩 白味噌 辛子
煮物椀 真蒸(ホタテ、銀杏) 椎茸 紅葉麩
三つ葉 柚子
焼物 金目鯛
炊合せ 海老芋(柚子添) 鳥の丸 オクラ
箸洗 南瓜の種 梅仕立
八寸 鴨ロース 銀杏の松葉刺し
香の物 タクワン、きらら漬、柴漬
酒 越の寒梅
懐石はいつも
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