アメリカの貿易政策を考えれば:
私の主張:
私が1994年1月末まで在籍していたW社では「我が社が懸命に努力して対日輸出を増やしていけば、幾らかでも貿易赤字を削減できるだろう」とということまでは考えていなかったと思う。だが、全社を挙げて輸出に努力していた成果で、対日輸出が2,000億円/年にも満たない売上高であっても(この金額は為替次第で幾らでも変化する)、1990年代初頭にはアメリカの会社別対日輸出額では第2位とあっては、他の会社は何をしていたのかというのが我々の偽らざる思いだった。
私が21世紀の現代にあってトランプ大統領に是非ともご理解願いたいことは「我々とその他の企業が如何に対日輸出に努力して来たにも拘わらず、日本からの輸入の総額には追い付かなかった」という事実である。アメリカの需要家も最終消費者も我が国から輸入されてくる製品の質と価格を好んでいたという紛れもない事実があったということ。即ち、第1位のボーイング社や我が社1社くらいがが幾ら努力しても、アメリカが我が国から輸入し続ければ、赤字は解消しないのだという冷厳なる事実だ。
これまでに何度か指摘したことだが、クリントン政権下だったと記憶するが、我が社は年間の対日輸出が2,000億円にも満たなくても、通産省から「対日貿易赤字削減に貢献した」と表彰されたのだった。それほど我が国の政府も対アメリカの貿易黒字を減らすべく工夫していただが、黒字が大幅に減少するには至らなかった。確かに往年はアメリカ側から牛肉や米の輸入を増やせという要望(圧力?)はあったが、我が国は関税という対策を講じて何とか防戦していた。
私は在職中からアメリカ側の対日輸出の努力が不十分ではないと批判してきた。それは紙パルプや林産物という素材産業が対日輸出の大手であるような状態を脱して、高度工業製品の輸出を増やす努力をして欲しいという意味である。後難を恐れずに言えば「貿易赤字が大きいのは対日輸出に真剣に取り組んでいる業種や企業が少ないのではないか」ということだ。私はアメリカ側には「その点を等閑にして、自動車等を売り続けた日本が怪しからん」と言われるのはfairではないと今でも思っている。
対アメリカの貿易問題に関しては色々な解説をされるか、独自の見解を唱えられる多くの専門家がおられるが、私は中部大学の細川昌彦教授を除いてはアメリカとの輸出入交渉の実務を担当された方が何人おられるのか、世界でも最も難しい市場と認識されている対日輸出の経験を積まれた方が何人おられるのかと思って、ご高説を承っている。嘗て、上智大学経済学部の緒田原涓一教授は一次産品ばかりの対日輸出の主な品目のリストを見て「これではアメリカは日本の植民地かと思わせるではないか」と指摘しましたことがあった。
私はトランプ大統領以下に先ず責めて頂きたいのは、対日輸出に努力しなかったアメリカの産業界だと考えている。具体的なことを言えば、我が社が第2位だったということは米や牛肉等の農産品業界も我が社以下だったということではないかと思っている。20世紀までは日本に最も近い地の利が良い西海岸から輸出されていたのは、飼料用の干し草、アイダホー州のフレンチフライ用のジャガイモ等に加えて我が社の紙パルプ・林産物ということだった。しかしながら、自動車業界は未だに「非関税障壁があるのが怪しからん」などと言って自らの非を認めていないのだ。
トランプ大統領が「アメリカファースト」の旗印の下に世界の貿易の体系と言うか仕組みを変えてしまう方向を目指しておられるという見方があるのは結構なことだし、アメリカ側から見れば尤もなことだと見える。だが、少なくともそれと同時進行で自国の企業に一層の対日輸出への努力を求め、如何にして対日輸出を増やせと督励されることもお考え願いたいのだ。
最後にこれを論じれば難しいことになり、一悶着起きるかも知れないことを挙げておこう。それはアメリカの企業が日本に進出した際に現地で採用する日本人の社員の質が最適だったかという問題だ。これは古くて新しい案件だが、日本の企業が最優秀の人材で外国語能力も一流以上で、世界を股にかけて手腕を発揮したような人材をむざむざと外国の会社に引き抜かせるかということ。英語が少し上手いというだけの能力の者を雇っても、その人物が業界の専門的知識も乏しく、業界での顔が広くなかったらどうなるのかということ。
そこには先頃引用した元在日アメリカ商工会議所(ACCJ)の会頭・フランクリン氏が「日本市場での取引は須く日本人同士の強固な結びつきの元に歴史的にも成り立っている。外国の会社がその強固な結びつきを切り裂いて分け入っていくのは容易なことではない」と言われたことが障壁となって立ち塞がることが多いのだ。そこを乗り越えて初めて日本市場に確固たる地盤を確立できて、市場占有率も上がっていくのだ。
トランプ大統領が大きく広い視野に立って世界の貿易の秩序を変えてしまおうと考えておられるのかも知れないが、私には中間選挙と第2期目の為の準備期間に早くも入られて、彼の公約を極力実行して、支持層であるプーアホワイトと英語では“working class”と表現された階層だけではなく、広い層からの支持獲得を目指しておられるのだと思える。それだからこそ、ライトハイザー氏を督励して積み残しの公約であった「対日貿易赤字削減」を目指されるのも故なきことではないと見ている。だが、私はそれでは「一歩通行であり、果たしてfairなのかな」と言いたくなるのだ。
私の主張:
私が1994年1月末まで在籍していたW社では「我が社が懸命に努力して対日輸出を増やしていけば、幾らかでも貿易赤字を削減できるだろう」とということまでは考えていなかったと思う。だが、全社を挙げて輸出に努力していた成果で、対日輸出が2,000億円/年にも満たない売上高であっても(この金額は為替次第で幾らでも変化する)、1990年代初頭にはアメリカの会社別対日輸出額では第2位とあっては、他の会社は何をしていたのかというのが我々の偽らざる思いだった。
私が21世紀の現代にあってトランプ大統領に是非ともご理解願いたいことは「我々とその他の企業が如何に対日輸出に努力して来たにも拘わらず、日本からの輸入の総額には追い付かなかった」という事実である。アメリカの需要家も最終消費者も我が国から輸入されてくる製品の質と価格を好んでいたという紛れもない事実があったということ。即ち、第1位のボーイング社や我が社1社くらいがが幾ら努力しても、アメリカが我が国から輸入し続ければ、赤字は解消しないのだという冷厳なる事実だ。
これまでに何度か指摘したことだが、クリントン政権下だったと記憶するが、我が社は年間の対日輸出が2,000億円にも満たなくても、通産省から「対日貿易赤字削減に貢献した」と表彰されたのだった。それほど我が国の政府も対アメリカの貿易黒字を減らすべく工夫していただが、黒字が大幅に減少するには至らなかった。確かに往年はアメリカ側から牛肉や米の輸入を増やせという要望(圧力?)はあったが、我が国は関税という対策を講じて何とか防戦していた。
私は在職中からアメリカ側の対日輸出の努力が不十分ではないと批判してきた。それは紙パルプや林産物という素材産業が対日輸出の大手であるような状態を脱して、高度工業製品の輸出を増やす努力をして欲しいという意味である。後難を恐れずに言えば「貿易赤字が大きいのは対日輸出に真剣に取り組んでいる業種や企業が少ないのではないか」ということだ。私はアメリカ側には「その点を等閑にして、自動車等を売り続けた日本が怪しからん」と言われるのはfairではないと今でも思っている。
対アメリカの貿易問題に関しては色々な解説をされるか、独自の見解を唱えられる多くの専門家がおられるが、私は中部大学の細川昌彦教授を除いてはアメリカとの輸出入交渉の実務を担当された方が何人おられるのか、世界でも最も難しい市場と認識されている対日輸出の経験を積まれた方が何人おられるのかと思って、ご高説を承っている。嘗て、上智大学経済学部の緒田原涓一教授は一次産品ばかりの対日輸出の主な品目のリストを見て「これではアメリカは日本の植民地かと思わせるではないか」と指摘しましたことがあった。
私はトランプ大統領以下に先ず責めて頂きたいのは、対日輸出に努力しなかったアメリカの産業界だと考えている。具体的なことを言えば、我が社が第2位だったということは米や牛肉等の農産品業界も我が社以下だったということではないかと思っている。20世紀までは日本に最も近い地の利が良い西海岸から輸出されていたのは、飼料用の干し草、アイダホー州のフレンチフライ用のジャガイモ等に加えて我が社の紙パルプ・林産物ということだった。しかしながら、自動車業界は未だに「非関税障壁があるのが怪しからん」などと言って自らの非を認めていないのだ。
トランプ大統領が「アメリカファースト」の旗印の下に世界の貿易の体系と言うか仕組みを変えてしまう方向を目指しておられるという見方があるのは結構なことだし、アメリカ側から見れば尤もなことだと見える。だが、少なくともそれと同時進行で自国の企業に一層の対日輸出への努力を求め、如何にして対日輸出を増やせと督励されることもお考え願いたいのだ。
最後にこれを論じれば難しいことになり、一悶着起きるかも知れないことを挙げておこう。それはアメリカの企業が日本に進出した際に現地で採用する日本人の社員の質が最適だったかという問題だ。これは古くて新しい案件だが、日本の企業が最優秀の人材で外国語能力も一流以上で、世界を股にかけて手腕を発揮したような人材をむざむざと外国の会社に引き抜かせるかということ。英語が少し上手いというだけの能力の者を雇っても、その人物が業界の専門的知識も乏しく、業界での顔が広くなかったらどうなるのかということ。
そこには先頃引用した元在日アメリカ商工会議所(ACCJ)の会頭・フランクリン氏が「日本市場での取引は須く日本人同士の強固な結びつきの元に歴史的にも成り立っている。外国の会社がその強固な結びつきを切り裂いて分け入っていくのは容易なことではない」と言われたことが障壁となって立ち塞がることが多いのだ。そこを乗り越えて初めて日本市場に確固たる地盤を確立できて、市場占有率も上がっていくのだ。
トランプ大統領が大きく広い視野に立って世界の貿易の秩序を変えてしまおうと考えておられるのかも知れないが、私には中間選挙と第2期目の為の準備期間に早くも入られて、彼の公約を極力実行して、支持層であるプーアホワイトと英語では“working class”と表現された階層だけではなく、広い層からの支持獲得を目指しておられるのだと思える。それだからこそ、ライトハイザー氏を督励して積み残しの公約であった「対日貿易赤字削減」を目指されるのも故なきことではないと見ている。だが、私はそれでは「一歩通行であり、果たしてfairなのかな」と言いたくなるのだ。